3/19の日記:本当はドリンクバーで働きたい。
グラスにデカい氷を入れて、酒を注ぐのがロック。グラスに酒だけ注ぐのがストレート。でも僕は、この二つが未だに覚えられない。覚えられない、というのは正確ではないかもしれない。はっきり言って、ロックとストレートのことが理解できない。意味がわからない。
バーで働き始めてもう5ヶ月ぐらいになるが、いまだに「ロックで」「ストレートで」と言われたときは、こっそりスマホで検索している。なぜか。それを説明するには、自分がどのような理解のもとで酒を作っているのか、という話をする必要がある。
バーにおける自分の役職は、いわゆる「バーテンダー」だ。客から注文を受けて、たいていは酒とそうでないもの、たとえばソーダやジュースと混ぜる(酒と酒を混ぜることもある)。なにかと酒を混ぜたもの全般を「カクテル」と呼ぶが、自分はカクテルのことを次のようなものとして理解している。
これはあくまで自分の理解だ。別に国際カクテル協会とか(そんなのあるのかな?)とかで、そのように定義されているわけではない。酒は不味い。だからカクテルにする。つまり僕は、カクテルを作るとき「酒の味を消してやるぞ!!!」という意気込みのもとでやっているのだ。
「酒の味を消して、アルコールを美味しく摂取させてやるんだ!それが俺の仕事なんだ!!」
しかし、全然そんなことはない。自分の理解は間違っている。普通に考えて、バーテンダーとは酒の味を消してアルコールを摂取できるような飲み物をつくる仕事ではない。
なぜなら「酒そのものの味を楽しみたい」というひとは結構な割合で存在するからだ。そんなひとたちからすれば、酒の味を消されるのは困る。彼らはカクテルを注文しない。「酒の味を楽しみたい」というひとがする注文こそ、ロックとストレートだ。
はじめに書いた通り、ロックはグラスに氷と酒を入れて混ぜた状態で、ストレートは酒のみをグラスに入れて提供する。当然、酒の味しかしない。これを注文するひとは、酒そのものの味を楽しみたいと考えている。
これは、僕の酒に対する理解を超えている。なぜなら僕の理解では「それそのものの味は不味くて飲めないがゆえに、何かを混ぜて美味しくして飲む(カクテル)もの」が酒だからだ。酒をそのまま飲みたい、という欲求は「それそのものの味は不味くて飲めない」という、僕の酒に対する理解の前提条件をぶっ壊しており、理解の範疇を超えたものとして脳がエラーを起こす。受け入れ難いものとなる。
そしてこれこそ、僕がロックとストレートを覚えられない理由だろうと思う。以下に、客から「ラフロイグをロックで」「ボウモアをストレートで」と注文されたときに僕の頭の中で起こっていることを、順に紹介しようと思う。
こういうことが脳内で起きている。だからいつまで経ってもロックとストレートが覚えられないのだ。
ここまで読んで「バイトとはいえ、お前はバーテンダーをやっているのに酒が好きではないのか?」と思われたかもしれない。ぶっちゃけ別に好きではない。普通だ。ただ、色んな飲みものを混ぜることが好きなのだ。
本当はカウンターに立って客と喋ったりせず、ひたすら酒と何かを混ぜて別の味を作り続けていたい。ファミレスとかのドリンクバーで、子供が変な味のジュース作って楽しんでいるのと同じだ。小さい頃、あれが大好きだった。もし、ファミレスのドリンクバーで客のリクエスト通り飲み物を混ぜる仕事があったらそれに就きたい。だかそんなものはないから、仕方なくバーでカクテルをつくっている。本当はドリンクバーテンダーになりたい。
ただ、さっき書いた通り酒の味を消すことは好きだ。それはドリンクバーでは味わえない楽しみだから、バーで働いていて良かったのかもしれない。バー、ありがとう。
それはともかく、僕がロックとストレートをすんなり出せるようにするにはどうしたら良いのか。カクテルとして理解すれば良いのだろうか。そうすると、ロックは「酒を氷水で割ったもの」だ。なるほど、実際氷が溶けてゆくにつれて酒が薄まっていくことは確かだし「それそのものの味は不味くて飲めないがゆえに、何かを混ぜて美味しくして飲む(カクテル)もの」という理解に当てはめることはできなくもない。ロックは、かろうじて理解できる。
ストレートは?ストレートは本当に、グラスに酒以外のものが何も入っていない。酒の味しかしない。意味不明な飲み方である。脳が理解を拒む。僕は一生、ストレートを出すことができない。
↑ここで働いています。ご来店された暁には、ロックとストレート以外の注文が欲しいです。
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