「余白のない世界で味がしない コロナ以降の私」公募インタビュー#33

つじさん(仮名) 2021年9月下旬〉

以前は出張で全国を飛び回り、たくさんの人に会い、忙しい日常を送っていた辻さん。コロナ禍により働き方や生活は激変し、時間が経つにつれ精神状態も変化していったとのこと。“平凡な普通の話になるとは思いますが、その普通の話ができないことが苦しくて”と応募いただきました。

高揚感に浮かされたコロナ初期

──緊急事態宣言後は全社リモート業務に切り替わったということで、状況がガラッと変わってどうだった?

辻さん 1回目の緊急事態宣言の時というのは、なんだか高揚感すらあったんです。変な(笑)、フワフワ、そわそわした感じですね。まさに非日常で。
 初めてのリモートワークが始まって、新鮮でした。すべてが緊急事態だから、何があっても仕方がない、多少うまくいかなくてもしょうがないよねと、どさくさまぎれにいろんなことが済んじゃうような雰囲気も会社の中にあったので、不安感とかよりも、お祭りって言ったら不謹慎なんですけど、そういうそわそわ感、高揚感がありました。

 会社の空気は決して悪くなくて、みんなも同じようにそわそわ、フワフワしてた部分がどうもあったみたいで、(支社間でも)お互いを思いやるような「そちらの地域もコロナ増えてるね、気をつけてね、コロナ明けたらごはん行こうね」とか普段言わないようなコミュニケーションがあったりして。それまでは強いてつながろうとしてなかったのに、急に人々がつながろうとし始めるというか(笑)。そういう会話が出てきて、それもちょっと楽しかったりもして。

 今振り返ると、マスクがあまり手に入らないとかそういうのも、大変なんですけどそれすら浮き足立った感覚で受けとめてるし、例えば取引先の業者さんが「マスクが手に入ったのでお裾分けします」と会社に送ってくださったのをみんなに分配したりして、そこで「ありがとう」という気持ちがいろんな方向に芽生えてるのも、空気として悪くなかったという感じがあります。

辻さん (プライベートでは)初リモートワークの時は、三食、自炊を急にやり始めまして。洗濯も割とマメにしたりとか、なんなら仕事終わってからお散歩してみたりとか、今までにない生活を送りました。(それまでは忙しくて)ごはんなんて、よっぽど元気な時しか作らないっていう感じでしたね。(自炊するような生活は)嫌じゃなかったです。充実してました。

 用事があってたまに一人で出かけたりすると、普段人でごった返してる街にひとっこ一人いなくて、ゴーストタウンみたいになっていて、それがまた非日常で映画みたい、とか思ってしまって、やけにワクワクしてしまった自分がいました。

──仕事しながら自炊もして、それでも十分回る感じだった?

辻さん 私もそれ、ふと思ったんですよ。あれ、回ってるじゃん、時間の余裕あるじゃん、って。なんでだろう?って考えたら、要は、移動時間っていうものが一切なくなったんですよ。自宅からオフィスまでの片道1時間弱を節約できるのもありますし、それまで飛び回っていたので、生活の中に移動時間が(多く)あったんですね。当然、移動する前は準備もしますし。以前は業務上、自分のオフィスから別の拠点に移動して、大人数で集まって会議するような場面もありましたし。
 移動時間が存在しなくなるって、こんなに時間が浮くんだっていう発見もありました。

むしろ、恩恵

辻さん 1年目の途中ぐらいまでは「何々ができない」「何々もできない」という、自粛しなきゃいけないことに対してのストレスも割と感じていたんですけど、1年目の終わりぐらいからけっこう変わってきまして。コロナで、むしろよかったこと、メリットのほうをたくさん感じ始めたかもしれません。

 まず、行きたくない場所に行かなくてよくなり、会いたくない人に会わなくてよくなったっていうのがありました。(コロナ以前は)仕事がらみの会食がそこそこあったんですね。まあ、そういうの苦手だなっていう自覚はもともとあったんですけど、コロナで会食がなくなったときにめちゃめちゃストレスが減って(笑)、いかに自分があれをストレスに感じてたかっていうことに改めて気づいたんですよ。あちこち飛び回ってお付き合いが多い分、当然望まないお誘いもあって、実はそういうのが負担だったんですね。

 数十人単位で集まるような会議がなくなったのも、ストレスが減ったんですよ。会議の時は開始の15分ぐらい前にはみんななんとなく集合していて、始まるまでの間おのおの雑談したりしてたんですけど、その時間が私実はすごい嫌だったんだなって(笑)気づきました。
 わざわざいつもより早く起きて、電車に乗って、大きな会議室がある会場まで移動して、着いたら着いたで15分ぐらい何もない時間があるので雑談とかしなきゃいけなくて。で、会議が終わったらすぐ帰ればいいのに、またみんなちょっと雑談したりして。そして電車に乗って自分のオフィスに帰る、なんかそれが、けっこうストレスだったんですよね。無駄……とも感じてましたし、単純に時間的な負担、移動の負担もあるし、雑談しなきゃいけないのももともとは人見知りなのでストレスに感じていて、それがなくなってめちゃくちゃ楽になりましたね(笑)。

 それに、リモートになったことによって、会議の時間も以前より短くなったんですよ。以前だと2〜3時間かけてた会議が、30分とか1時間に、なんか、自然とそうなっていったんですよね。その代わり、気軽にパッとオンラインで人が集まって話せるので、回数はもしかしたら前より多くなったかもしれないですが。30分なら30分って枠で会議依頼してみんなを招待して、その枠の中でやること、ゴールをちゃんと決めて、ぎゅっとやりましょう、みたいな風潮が高まって会議時間が短縮されました。

 あともうひとつ、すごくよかったなと思うのは、コロナになって、私、新しくやりたい仕事をもらえるようになったんですよ。どうしても何かを決めたり、おっきいことが動く時って、東京の本社が主体になることが多かったり、東京の社員が抜擢されるっていうことが起こりがちなんですけど、コロナのおかげですべての会議がフルリモートになったら、どこに住んでても関係なくない?っていう空気が高まったんです。
 地域とか所属とか関係なく、純粋にその人の適性とか能力で仕事をもらえる環境になって、(支社勤務の)私も自分の強みを生かせるような業務を振っていただくことになって、すっごく充実してました。私以外でも、仕事の幅が広がってる人のほうが多いんじゃないかなっていう印象があります。今まであまり関わっていなかった本社の先輩社員がリーダーを務めるチームに所属をして、地域関係なく集められたチームメンバーもすごく良くて、楽しくてしょうがないみたいな状態になりました(笑)。
 
 コロナになってなかったら絶対にこんな展開になっていないから、私はむしろすごく恩恵を受けてるし、逆にコロナになってマイナスなことってあるかなあとすら思ってしまいましたね(笑)。

徐々に失っていったもの/地味にくらっていたこと

──社内で、リモート業務について苦々しく思っている人はいない?

辻さん 苦々しく思ってる人は……いると思いますし、実際そういう声も聞いてるし、実は、私自身も今は在宅でのリモートワークはしてないんですよ。

──へええ、そうなんですか。

辻さん 上司に「なるべく在宅勤務してね、できない理由があったら言って」ぐらいのこと言われたんですけれど、私は「できません」って上司に言いました(笑)。なんでかっていうと、ずーっとワンルームのアパートに一人でこもって誰っとも会わずに仕事してると、私、さすがにちょっとおかしくなりそうな感じっていうか。精神衛生上良くないし、集中できないだとか、企画のアイディアが湧いてこないとかもありますし。逆に集中し始めると無制限に仕事をしてしまう。パソコンをガタガタやってたら知らない間に時間が経っていて、気づいたらもう夜10時とかで「はっ!もうこんなに働いてる!」みたいなこともあって。
 できればオフィスで働く日を多めにしたいと思って、今は少なくとも週4日はオフィスで仕事をしています。

 そして、今は自炊もほぼしてません(笑)。もうなんか、急に嫌になって。散歩もしませんし。
 それに、(コロナ禍前には)もともとはジムに通って、パーソナルトレーナーについてもらって筋トレやってて、食事も毎日、タンパク質何g・糖質何gって計算して、毎日体重測って、みたいなことをするのが大好きだったんですけど、まったくしなくなりました(笑)。

──それはなぜなんでしょう?

辻さん 私が思うに、対面で人に会うという行為自体が、きっと人間にとってものすごい刺激なんですよ。
 
 私、変な話、お化粧ももともとはちゃんと全部してたんですけど、(コロナ禍以降)目から下の化粧をしなくなったんですよね。それに、リモート業務だとパソコンの四角い画面の中さえ成立していればいいわけで、下にズボンやスカートを履いてなくても誰もわからない(笑)。実際、本当とんでもない格好で仕事してたこともあるんですよ。

 さっき、コロナ生活は意外と快適だったと言いましたし、確かに私はそこに目が行ってたんですけど、人に直接会わなかったり、マスク生活だったりを1年とか2年続けたことで、感覚がおかしくなっていったり、何かを失った気がするんですよね。今話しながら気づいたんですけど。

 最初の頃こそ高揚感があったんですけど、もう、今度2年目じゃないですか。本当私、なんか、元気ないんですよね(笑)。元気ないし……表情が前よりも乏しくなりました。

 あと、コロナ1年目は「人と会いたい」「対面で人と話したい」みたいな欲求が明確に自覚としてあったんですけど、2年目になるとその欲求がなくなりました。なくなったっていうか、神経が鈍化したというか、麻痺したというか、求めたところで得られるもんじゃないという、諦めみたいな。もう何かを欲するパワーがなくなった、みたいな感じがします。

──以前は全国に出張が月に数回、泊まりがけであったんですよね?

辻さん はい。私たぶん、全国を飛び回るのが性に合ってたんですよ、ものすごく。「出張が多くて大変だね」とかよく言われたんですけど、私には合っていて、仕事した後にも、誰かと食事に行ったり、夜の遊園地に行ったりとかして(笑)、業務後の時間もフルで楽しんでましたし、知らない街に足を踏み入れてその街のカフェに立ち寄ることも、初めて会う人に「初めまして」って言って話をすることも、そのすべてが私にとっては好きなことだったので。
 それが(コロナ禍で)急になくなって、(出張で人に会ってしていた業務の手段を)オンラインや電話に切り替えました。

──今は出張は全然ない?

辻さん ないですし、今は、出張に行きたいとまったく思わないですね。

──その変化はすごく大きいですね。

辻さん そうなんですよね。これ、なんでなんだろうなあ。

 まず、うちの会社、コロナ禍になってから人がたくさん退職したんですね。理由はいろいろあるんでしょうけど、ものすごい勢いで人が辞めたんです。で、私が仲良くしていた社員、私が出張に行く度に会っていたような人もほとんど退職してしまって。私は東京の方と遠距離恋愛もしていたのですが、その方ともお別れをしたので、ふと気づくと、東京に行っても仕事以外で会う人がもはやいなくなっていたというか(笑)。

 会う人がいなくて、仕事以外の部分がまったくない状態で出張だけするってなったら、やっぱりしんどかったんですよね(笑)。「出張多くて大変でしょう」って言われて「全然そんなことないです、私この生活好きだし性に合ってるんです、楽しいんです」って言ってたんですけど、結局出張多いのはしんどいって事実としてあって、それに気づいちゃったって感じですかね(笑)。

──しんどさはあるわ、会いたい人はいなくなってしまったわ、と。

辻さん そうですね、会いたい人いなくなったってけっこうダメージですね。そういうこと冷静に受けとめると悲しい気持ちにはなりますよね(笑)。なかなか気力が奪われるというか。そもそもこんなに会社から人がいなくなってるとか、日々忙しいのでそこまで深くは突き詰めてないですけど、冷静に考えたら、やっぱり地味ーにくらってる感じはありますね。

帰省と自由時間

──お一人暮らしということでしたが、ご実家には帰っている?

辻さん 全然帰ってないんですけど、それに関しては全然嫌じゃなくて。あははははは(笑)

 (コロナによって)帰省をしなくていい大義名分ができたっていうのは自分的に、すーごい救われたっていうかなんていうか。そんなに……実家好きじゃないんですね。親との関係性もそんなにいいわけじゃなかったりっていうのもあって。別に仲悪いわけじゃないし、今までは盆暮れ正月、必ず帰省していたんですけれど、いざ、大義名分があって帰省しなくてもいい、帰ってきなさいってうるさく言われない、ってなると、めーちゃーくーちゃうれしかったですね(笑)。

──なぜそんなにうれしかった?

辻さん ストレスだったんでしょうね、やっぱり。まず、親からの、例えば結婚に対するプレッシャーですね。
 あと……いつ帰ってくるの? 何月何日、何時何分の電車に乗るの?とか、親としては、家も掃除して布団も干して、料理も作ってあげたいから食材もたくさん買い込んで、って万全の状態で待ち構えてるわけですね。それが正直、私からしたらうれしいっていうよりかは、圧というか、負担だった(笑)っていうのと。

 それにうちは厳しいので、帰省したからと言ってお友達と遊び歩くっていうことをよしとされないんですね。夕食は必ず家族で食べましょうだし、飲みに行ったりして夜遅く家に帰ってくるっていうのはすごく嫌な顔をされて怒られるんで、実際帰省しても自由はないんですね。

 祖母が生きていた時は、もう高齢だったのであと何回会えるかわからないということで、帰省する1回1回を大事にしよう、みたいな感覚だったんですけど、祖母がちょうどコロナが流行る前の年に亡くなったんですね。なので「あ、なんか、別に私もう、帰省する理由そんなにないかも」って思っちゃったんですよ(笑)。

 私は性格的に「やらなければいけないこと」を優先して、「やりたいこと」を割と後回しにしがちだし、仕事もすごく多忙だったっていうこともあって、「何もしなくていい自由時間」を実はものすごく欲していて。なので「せっかくの連休が帰省で何日潰れる」という計算をしちゃっていて、じゃあ私が自由な時間ってこれだけじゃん、みたいなとらえ方をどこかでしてしまっていたっていうことに気づきましたね。

欲求もなければ味もしない

──やりたいことを後回しにしがちということですが、コロナ禍になって「一寸先は闇」がリアルな状況にもなり、やりたいことをやるようになったりは?

辻さん 最初の頃はやってたかもしれません。映画をたくさん見ようだとかやってたんですけど……結局、「何かしたい」っていう欲求もなくなってきたっていうところがあって。なので……最近はあんまりないですね。もともと大好きだったり、すごく重要な位置づけだったことすらも「コロナ明けたら絶対こうしたい!」みたいな感情がびっくりするぐらいなくなってて。

 もともとは、親友の子供たちと遊ぶ時間が自分にとってすごく重要だったんです。何度も家に行っていたので、親友が用事で家を空ける間も子供たちと私だけでいられるくらい、子供たちも私にすっごく懐いていました。本当の甥っ子姪っ子みたいな、家族のような感覚でいたので、最初は子供たちに会えないなんて耐えられない!とすら思っていたんですけど。
 コロナ始まってからまーったく会ってなくて、最初は会いたかったんですけど、今は別になんとも思ってないんです。なんの感情もなくて。今、久々に会ったとしても何を話すんだろう?っていう感じぐらい(笑)。

 自分でもなんでこうなったのかなあ?って感じです。それも気づかない間に。

──欲求や感情の起伏がなくなったその状態をどう感じている? 打開したい?

辻さん 打開策のひとつとして、このインタビューをお願いしたっていうのはありますね。1年前くらいかな?(インタビュアー田中を)Twitterで見つけてからずーっと気になってて、なんとなく、自分がこれを本当に必要だと思う時がきたら申し込もうと思ってたんですよ。

 とにかく自分の輪郭が見えなくなる時が来るんじゃないかって、どっかのタイミングで薄々思ってたんですよ。コロナによって恩恵を感じた点はあったけれども、一方で自分の中にある何かがじわじわと鈍化していったり、すさんでいったりしていってるってことも、ちょっと感じながら生きてはいたので。

 私は仕事上、自分が人にインタビューをするばっかりなんですよね。(※辻さんは社内の人にインタビューをして社内報のようなものを作り発信するお仕事をしている。)ある時から、私もインタビューされたいっていう欲求が湧いてきたんですよ(笑)。それはなんでかっていうと、しゃべりながら整理できたり気づいたり、自分の価値観や自分の輪郭が見えたりするところがあるんだろうなと思っていて。それが見えなくなるっていうこと自体がけっこうストレスだってこともコロナ禍で気づいて。
 これはそろそろ手を借りたほうがいいんじゃないか(笑)というところで、今回申し込みました。単純に面白そう!っていうのももちろんありましたけど。

 今は……正直、好きだったものですら、好きだという感情があまり湧かなくなっていて……(仕事でしている)自分のインタビューのスキルも退化していると感じますし、なんか、「味がするはずのものの味がしない」みたいな感覚がありますし……
 こう言ってて、この子やばいんじゃない?病んでるんじゃない?って自分でも思うんですけど(笑)。だから逆にインタビューされる側になったら、違う立場からものが見えるというか、行動を変えたら気分が変わるかなみたいなところもあって。

あらゆる余白がなくなった世界で

──事前にやりとりした中で「コロナ禍での自分の変化を話したい、人にこの話ができないのが苦しい」と書かれていましたね。こういったことを話す機会はない?

辻さん そうなんですよ……コロナ禍ですべてがリモートになって、いろいろ効率化されてよかったみたいなこと言ったんですけど、それってつまり、目的がある話しかしない世界観なんですね。目的がある話を、決まった時間の中で行う。で、圧倒的に雑談がなくなりましたね。生きていく中でのあらゆる余白がなくなったというか。

 社内では(対人のサービス事業なので)ものすごくシビアに感染対策をとっていて、業務と業務の隙間時間の立ち話とか雑談がまずなくなりましたし、会議中の時間の使い方としても、とにかく目的達成したんだったら、時間が余ってもすぐに仕事に戻ろうよ、みたいな空気になってるので、今考えたら、雑談という雑談がほぼなくなってますね(笑)。

 で、友達とも会ってないんですね。私の友達もほんとに真面目なタイプの子が多くて、教科書通りのコロナ対策を完璧にやるような感じで、食事に行くとかもまったくないですし。友達と直近で会ったのが(2021年の)お正月の初詣で、その後本当だったらカフェとか行きたかったんですけど、「いや、飲食を伴う何々はしないほうがいいと思う」とかいう話になって(笑)、結局公園のベンチで同じ方を向いて座って、マスクをした状態で少しおしゃべりをしました。それ以降誰ともしてないですね、そういうの。

──お友達とオンラインでしゃべるとかもない?

辻さん してないですね。コロナ1年目の頃はズームとかも目新しくて、ちょっとやってみようよ、みたいな感じでやったんですけど、結局そんなに楽しくなかったりして、いろんな友達と1回ずつやって、それからしてないです。

 会社の先輩とも最初の頃したんですが、退職者がたくさん出た話もしましたけど、今思うとやっぱり、職場の中に重苦しい空気もそれなりにあって。それぞれがストレスを抱えながら、でも言ってもしょうがないからがんばるしかないよねって日々を過ごしてるから、うかつに口を開くと愚痴を言ってしまいそうにもなるし(笑)、みんなが歯を食いしばってちょっと下を向いて過ごしているような空気感ではありましたね。で、オンライン(でしゃべること)もしなくなった、っていう感じですね。

 最近誰としゃべったかなって今振り返ったら、美容師さんとか、マッサージ屋さんのおねえさんとか、そういう人としか。普通の知り合いとはしゃべってないですね。メールとかLINEはしてますけど。

 やっぱり、生身の人間が目の前にいるから成立することってあるんですよね。例えば、無言でも対面だったら大丈夫というか。同じ空間にいて、ただそこに二人で座ってて、お茶でも飲んでて特に会話はなくてもそれで成立するし。言葉は特に発してはないけども、相手の目を見てる時間がなんだか楽しいとかですね、そういうのがけっこうあったんですけど。

 オンラインになると、無言ってちょっとまずい空気があったり、しゃべり出すタイミングがバッティングしないように間合いを見計らって、とか、複数人いるんだったらうまく回るように誰かが司会進行役をさりげなく買って出て、さりげなく話題を提供するとか(しないといけないと思う)。「〇〇君はどうだった?」「〇〇君はどうだった?」「あーわかるー」、みたいな(笑)、“うまく回す”ことに気を使う、そして疲れる(笑)みたいなのがありますね。

コロナ禍いちばんの心の高まり『大豆田』

──事前にちらっと、坂元裕二さん脚本のドラマがお好きだと伺いました。少し前に『大豆田とわ子と三人の元夫』(※)がありましたが。

※『大豆田とわ子と三人の元夫』は、2021年4月から6月までフジテレビ系で放送された坂元裕二の脚本によるテレビドラマ。主演は松たか子。(参考:Wikipedia

辻さん もう、大好きでした。『大豆田』は1話につき20回は見てました。

──えー!

辻さん  毎回録画してたんですけど、当日はまず2回から3回見るんですよ。見過ぎなんです(笑)。仕事から帰るとまず1回見て、CMを早送りしながらもう1回見て、で3回目を流しながら寝るので。その後、次の週の放送まで、毎日複数回見るんですよ。だからもう、台詞覚えそうですね(笑)。

──『大豆田』に関しては、「好きだ」とか「見たい」という気持ちは沸き起こったっていうことですよね。

辻さん 『大豆田』は、このコロナ禍に入っていっちっばんの、心の高まりでしたね(笑)。

 しかも、普通それだけ高まったら、終わった時にロスになるじゃないですか。最終回見終わった後に、全然、ロスにさせない。それがすごいとこなんですよね、あのドラマの。私がならないんじゃなくて、向こうがさせなかったんですよ。 終わり方なのか、世界観なのかもしれませんけど。
 「大豆田とわ子の番組は終わるんだけど、大豆田とわ子の生活はこれからも続いていく」みたいな。だから「私も、これから、続いていく。さあがんばろう!」みたいな感じになったんですよね。ほんとすごいなと思いました(笑)。

──あのドラマがあってよかったですよね。

辻さん ほんっとによかったです。坂元さん素晴らしい。(笑)

──ねえ。(笑)

(終わり)


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