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北朝鮮、簡易な”殺人ドローン”開発へ号令~ウクライナ紛争で現実化したドローン兵器の本格運用と絶大な効果ふまえ


【画像① ウクライナ軍が現在戦場で使用するドローン兵器の多くが民生用・レジャー用の小型ドローンの応用型で、小型爆弾や手榴弾を目標の上から遠隔操縦で落下させるようにされたものだ。もともとモニターを使って操縦する装置があり、ほとんど改造せずに兵器として使えるのだが、塹壕陣地などの攻撃に絶大な効果を発揮している。】



◆本格的な軍用ドローンから玩具レベルの改造型”飛行殺人兵器”へ~エスカレートした”ドローン戦争”


まもなく3年目に入ろうとするウクライナ戦争が、いまだ終わらない。現実には、侵攻ロシア軍に対するウクライナ軍の昨年夏以来の反撃作戦が頓挫し、一方で人的損失を恐れるロシア側も反転攻勢を大々的に打ち出せないまま、東部及び南部ウクライナの4州(へルソン、ザポリージャ、ドネツク、ルガンスク)を押さえたロシア側と少しでも押し返そうとするウクライナ側の消耗戦が続いている。2022年2月24日の開戦以来、制空権を失うと共に同時多発的なミサイル、空爆による攻撃でウクライナ側がなかなか戦場での主導権をとれず、反撃では常に大きな装備の損失と共に、人的な犠牲も出してきた。


ウクライナ側は国民徴募による動員兵を戦線につぎ込み、昨年までは兵員数ではロシア軍をはるかに上回る状況で反撃を実施し、兵力の少ないロシア軍の既存占領地を越えた進撃を阻止してきたが、ロシア側の数倍にのぼるという死傷者数のため動員もままならない状況になってきている。ウクライナ国民の間でも厭戦気分が広がり、これを背景に軍や政府、そしてゼレンスキー大統領をも巻き込んだ権力抗争が置き始めている(大統領がザルジニー将軍をウクライナ軍総司令官から解任して、シルスキー将軍に置き換えたことなどが、それだ。国民的な人気のあるザルジニー将軍が自らに逆らって政変を起こしかねないとゼレンスキー氏が見ていたと思われている)。


しかし、どちらの側にとっても、戦線の膠着化に大きく作用したと見られるのが、ドローン兵器の本格的運用だ。開戦初期には、制空権を失いつつも侵攻してくるロシア軍機械化部隊(戦車や装甲兵員輸送車、歩兵戦闘車からなる)を阻止する上でウクライナ軍が装備していた偵察・攻撃用ドローン「バイラクタル」(トルコ製)が非常に効果を発揮。ロシア側も対抗手段の調達を懸命に行い、イラン製戦闘ドローンの大量装備化を実施してウクライナの戦場に投入した。




【画像② トルコ製軍用ドローン「バイラクタル」TB2。砲兵・ミサイル攻撃や空爆の際に、目標を発見・位置特定してデータで攻撃誘導を行う他、自機に搭載する短距離ミサイルで地上攻撃も行える。ウクライナ軍は200機前後を投入したが、戦争初年中に全てが失われた模様だ。】



その後、双方共にレジャー用の小型ドローンに投下できる手榴弾を搭載したり、場合によっては対戦車ロケット弾の弾頭を装着して自爆型攻撃ドローンとするなど、即製型の小型戦闘ドローンを多数投入。自爆ドローンなどは、1基あたり数万円の安価な兵器なのに、数億円もの価格の新型戦車を、遠隔操縦による正確な攻撃(戦車の防御力の弱い上面部や機関室部などにぶつける)で重大な損害を与えることに成功した。


これは、地上軍の攻撃力を砲兵火力と戦車の打撃力に依存するロシア軍の足を止めるのに極めて有効な兵器であったが、逆に西側諸国から「反撃の決め手」として数百両もウクライナ軍に引き渡された主力戦車(ドイツ製レオパルドや英国製チャレンジャーなど)、歩兵戦闘車(米国製ブラッドレーなど)も、ロシア軍が投入した同種兵器によって撃破されてしまうことにもなった。こうして、双方とも戦車を正面に押し立てて力押しに攻撃するといった古典的な地上作戦を実施することが難しくなったのである。



(参考映像)「ウクライナ軍ドローンによるロシア軍車両・装備への攻撃例」2023/5/28 The Sun(英メディア) ※誘導モニター映像で自爆ドローンがロシア軍戦車に接近し命中するまでの様子が動画に含まれる。

https://youtu.be/xsiXBUA6t7Y?si=wre3pFh26XYokzdY


どんなに最新型の防御システムを盛り込み、強力な火砲を搭載した新型戦車でも、敵に対面する正面は別にすれば、どの角度に対しても強力な防御力を有するわけではない。玩具レベルの改造ドローンでも、モニターによる目視誘導で戦車の弱点部に向けてアタックさせれば、搭載した対戦車ロケット弾用の成形炸薬弾頭(爆発エネルギーが命中点の狭い範囲に集中して吹き付けるように加工された形状爆薬を充填)で装甲を打ち破り戦車内部を破壊したり、乗員を殺傷したりできるのだ。


こうなると、戦車を投入する側にとって、余りに割の合わない戦いとなってしまう。小型ドローンを活用した自爆攻撃型ドローンは、既存技術を組み合わせて応用しただけのものだが、多大なコストを要する最新型戦車にとって最も脅威ある兵器となったのである。




【画像③ 簡易な爆弾をつるして飛行するドローン。空中からの撮影などに使う民生用小型ドローンの応用型で、ウクライナ軍、ロシア軍の双方で多用されている。】



◆”ドローン戦争”の実情に着目した北朝鮮、本格的な戦術運用の研究へ


正に戦場の様相を一変させた感のあるドローン兵器だが、安価で効果的であるとの現地報告に強く関心を示すとともに、自国での本格的運用を決意した国がある。北朝鮮だ。北朝鮮というと、ここのところも弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発、発射実験を繰り返していて、「核・ミサイル」開発を軍事力建設の柱にしていることが際立っているのだが、安価かつ手軽に運用できる小型ドローン応用兵器に惹かれるのは、苦しい台所事情の同国にとって自然な流れと言える。


既に秘密裡に第三国経由でロシア軍の使用する攻撃型ドローン5機、偵察型1機を入手したとも言われるが、これらはイラン製のようだ。そして、早くも昨年7月の「祖国解放戦争勝利70周年」と題した朝鮮戦争記念式典での軍事パレードでは、米国製グローバルホーク無人偵察機などにも似た戦略偵察用ドローン「セトピョル(新星)4号」及びその攻撃型と目される「セトピョル9号」が自走発射台に乗せられて披露されている。




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