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[独り言]国民なら赤ちゃんでもニートでも毎月お金が貰える!?話題のベーシックインカムって実際どうなの?

コロナ禍で話題になっているベーシックインカムについて考察してみます。
何もしなくても誰でもお金が貰える夢の様な制度ですが、効果としては最低限度の収入を保証して、国民に向上心を持って様々な分野に挑戦させたり、少子化の歯止めをかける効果などが期待されていますが、実際はどうなのでしょうか?
今回は、2017年から2年間ベーシックインカムを実行したフィンランドの実証データを基に考察します。

そもそもベーシックインカムとは?

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ベーシックインカムとは、国民一人一人に無条件で最低限度の保証を実現させることが出来る金額を支給する制度です。
この支給は基本的に非課税で給付されるので、国民は経済的に自由に使えるお金が増える事になります。

日本の場合、生活保護の支給額が目安になると考えれるためベーシックインカムが実現される場合は、家賃補助を除くと約8万円です(※東京都中央区の場合)

・市場の矯正と失業者対策になる
失業者に関しても生活最低限の金額が毎月貰えるため、余裕をもって冷静な就活が出来るので、いわゆるブラック企業に就職してしまうような事態が減少します。
それに伴いブラック企業自体が減少して、市場の矯正が出来ます。

・少子化対策に効果的
家庭にも余裕が生まれる為、子育てに対して前向きな環境が出来ます。
また、ベーシックインカムは国民である以上は、子どもにも受給資格があるので子どもの数だけお金が支給されるので、子育てに対する支援にもなり少子化対策に大きな効果が期待できます。

・精神的な病、自殺者の減少
経済的な余裕が得られるため、精神的な安定が見込まれます。
厚生労働省の統計では鬱病などの精神的な病は自殺の要因として最も多い割合を占めています。(1
また、ケンブリッジ大学の研究によると精神疾患は貧困が伴うと約50%発症する確率が上がると言う論文もある。
ベーシックインカムで経済的な不安が軽減されることで、自殺や鬱病が減少する可能性が示唆されている。(2

参考:(1)自殺の状況をめぐる分析(厚生労働省HP)
参考文献:(2)Association between area deprivation and major depressive disorder in British men and women: a cohort study

他にも様々なメリットが予測されていますが、当然デメリットもあります。
・莫大な額の財源確保が必要
毎月8万円給付するとなると日本の人口が約1億2万人なので、年間115兆円掛かります。
日本の社会保障制度(約120兆円)を全てベーシックインカムに割り振れば賄えると言う専門家もいますが、失業手当や国民年金が無くなるのは分かるが介護や医療費が自己負担になるのは非常にリスクが大きいので、大幅な税制改革が必要になります。
消費税で賄う場合50%以上にするような事態になるので、それでは生活水準が変わってきそうなので難しいですね。

・労働意欲の低下
これは賛否があり、逆に生活基盤が安定するので新しい事に挑戦しやすくなり、労働意欲が上がると言う意見もある。
しかし、ある程度の金額を稼げば最低限の生活は出来るので、日本の労働時間ばかり長く生産性の低い環境下では、離職や労働意欲の低下が起きる可能性が高いでしょう。

メリット・デメリットはこんな感じです。
月に8万円程度入ってくると聞くと非常に魅力ですが、デメリットも大きいので施行には大きな社会制度改革が必須となりますね。
ただ、それで結果として効果が高いのなら施行する価値はありますよね。
フィンランドでは、このベーシックインカム制度を2017年から2年間実験的に失業者2000人対して実施して、追跡調査を行っています。
また、ドイツでも2021年から200人を対象に実証実験を開始しており、世界的にも注目が高い制度となっています。

実証実験ベーシックインカム in フィンランド

フィンランド

フィンランドでは2017-2018の二年間に無作為に選んだ2000人の失業者に対して月額560ユーロ(当時約6万7千円)を支給して、支給しなかったグループと比較する実証実験をヘルシンキ大学と協力して調査を行いました。

年齢:25歳~58歳
男女比(%):52:48(男:女)
対象基準:失業補償などが支払われている失業者を無作為にランダムで選んだ
支給額:月額560ユーロ(失業保険の支払金額に相当する額)

ベーシックインカム・労働意欲の変化

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何もしなくても月に生活が可能な額が手に入る状況なので、労働意欲が損なわれるのではないかと懸念されています。
では、実際にフィンランドの失業者ではどうだったのでしょうか?
フィンランド政府のプレスリリースに実験結果が掲載されていたので見てみましょう。

フィンランド 就労日数

このグラフは、Experiment group(ベーシックインカムあり)とControl group(ベーシックインカムなし)の就労日数を比べたものです。
両者間に差は殆どなく、ベーシックインカムを受け取っても就労意欲に変化は無いことを示しています。(3
また、実際に稼いだ金額はどうでしょうか。

フィンランド 収入傾向

収入に関しては、ベーシックインカムを受給した方が僅かに劣る結果になりました。(4
これに関しては、金額で就職先を選ぶのでなく興味が持てる職を優先的に選んでいる可能性が示唆されています。

労働に関しては、一定の収入が確約された状況下においても就労意欲は保てることが確認できた。
就職の条件では、金額より興味などの条件を優先する傾向があった。
企業に就職するのではなく起業または企業の計画を立てる人も増えた。

参考文献:(3)(4)Results of Finland's basic income experiment: small employment effects, better perceived economic security and mental wellbeing

ベーシックインカム・精神安定効果

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ベーシックインカムの効果として鬱病に関する抑制効果が期待されています。
残念ながらフィンランドのベーシックインカム実験は2年間と短く、実際に発病したデータは非常に少ない。
しかし、精神衛生に関するアンケートを取っていますのでベーシックインカムによって精神がどういう変化になるのかは推測する事が出来ます。

フィンランド 精神状態チェック

このグラフは鬱病に関するアンケートで、鬱傾向にあるかどうかを調べたグラフです。
簡単にいうと「あなたは鬱病ですか?」と聞いていて「はい」と答えた場合、鬱病傾向を実感している事になります。
結果をみると、やはりベーシックインカム受給者の方が鬱症状は少ない傾向を示している事が分かります。(5
その差は10%と割合としては有効な差と言えます。
また、生活満足度に関してもアンケートを取っています。

フィンランド 生活満足度

今の経済状況・生活状況に対する満足度を表しています。
こちらもベーシックインカム受給者の方が満足度が高く、充実した生活を送れている事が示されています。
ベーシックインカム受給者は半数以上が生活に満足しています。(6

精神衛生に関しては、生活に余裕が持てており、満足度も非常に高い結果を示しています。
精神疾患も鬱病傾向が少なく、ベーシックインカム受給者は以前から言われている精神の安定に非常に有効なデータとなっています。

参考文献:(5)(6)Results of Finland's basic income experiment: small employment effects, better perceived economic security and mental wellbeing


フィンランドでのベーシックインカムの効果をまとめると
・毎月一定の金額が保証されていても労働意欲が失われることは無かった。
・精神の安定には一定の効果があり、生活への満足度が向上した。


グラフにはなっていませんが、社会保障がベーシックインカムに一本化されたことにより、手続きの簡素化が実現され行政のコストダウンも可能と推測されています。

結局、ベーシックインカムはどうなの?

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フィンランドの実証実験について結果を見てきましたが、ここからは私の考察を述べたいと思います。

結論から言うと、非常に面白い制度だと思うが、相当しっかりと考えて整備しないとリスクが大きすぎて施行は出来ない!と感じました。
正直ベーシックインカムはこれからの制度であり、まだまだ議論を重ねる過程だと思います。
理論上の予測では大きな成果が予想されていましたが、フィンランドの実証実験では、大きな変化を確認する事は出来ませんでした。
特にプレスリリースで公表されたデータは1年間の集計で、2年間でどう変化して、その後数年経って生活変化等の追跡調査はまだ公表されていません。
ただし、ここまで長期間に渡り数千人規模の実証実験はフィンランドが唯一なので、今後新たな発表がある事を期待したい。

ドイツも2021年から実験的にベーシックインカム(規模200人程度)を導入するなど今後はもっと活発にデータが集まる事が予想されます。

日本の場合に置き換えてみると、ネックとなるのは財政問題です。
2020年に一律定額給付金が実行されましたが、あれはベーシックインカムの観点から言うと不完全です。
継続性が無く、生活に変化を起こすレベルの支給ではありませんでした。
また、野村證券が一律定額給付金の使い道を調査したデータを出したが、個人的には集計の仕方がおかしいと感じてますが、それは話が逸れるので今回は割愛します。

上記でも述べましたが、実際に年間約115兆円の費用をどうやって捻出していくのかは、現状の税制では不可能です。
社会保障の全てを犠牲にして実現させるとアメリカの様に医療費が非常に高額となり社会問題になってしまいます。
特に高齢化の進む日本では介護医療費などの社会保障は必要不可欠です。

日本は赤字大国と言われていますが、財政としては非常に健全な国です。
財政として短期的だあれば、国債を発行すれば十分賄う事が可能です。
よく国債発行は次世代の借金を増やすと政治家が言ってますが、その発言は正しいとは言えません。
信用通貨論と呼ばれる理論の常識です。
日本やアメリカの様な先進国がいくら自国通貨建ての国債を発行しようが、破たんする事はありません。
これは、財務省もホームページで公表している事実です。(7
半年程度の短期間であれば、増税や社会保障の割り振りを避けて実施できると言われています。

しかし、長期間になるとベーシックインカムは日本の税制を大幅に変えないと不可能だと思いました。
また、効果に関しても今のところは実証実験の傾向を考えるとメリットが少なく、効果的ではないと考えました。

ただ先進国の中ではベーシックインカムの論議は非常に大きくなっており、実際に小規模ではあるが実証実験を予定する国も増えてきている。
この先、十分なデータと有効性が確認できるのであれば、新たな経済様式として数年後には多くの先進国の常識になる可能性はあります。
現状では私にはリスクが大きいように見えるが、この先の未来で覆してくれるの様なデータが出てくることを期待します。

参考:(7)外国格付け会社宛意見書要旨(外務省HP)

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