シングルモルトな男

今夜はシングルモルトの話をしよう。

シングルモルトとは、単一の蒸留所で作られるモルト（大麦麦芽）のウイスキー。ワインのように、もともとブドウの種類によって、味わいが変わるのではなく、主に二条大麦という、味わいに大差のない穀物を発酵させ、その液体を各蒸留所のポットスチルという窯で蒸溜させる。グレーンモーレンジのように、背のたかーい、ポットスチルだったり、マッカランのようにズングリムックリだったりが、味わいに違いをもたらすのだ。ピート（泥炭）によるピート香も、忘れてはいけない。

そして、ウイスキーとはその土地の水を味わうこと。その蒸留所に住み着いた微生物と水で、他のどこにも存在しない、固有のキャラクターを生み出す。

そう。私はシングルモルトな男が放つ、その人にしかない汗や体臭を、思う存分、嗅ぎたいの。

おっと、シングルモルトといえば、スコッチウイスキーがやはり代表的なのだけど、スコットランドだけではもちろんないよ。日本の山崎蒸留所やニッカウヰスキーとかジャパニーズのウイスキーもシングルモルト。でも、今夜はスコットランドのシングルモルトを話そう。

随分昔のことで正確には覚えていないけど、イングランドのロンドンから車で半日かけて、スコットランドに入った。一応は同じ国ではあるはずなのに、都会的、機能的に動くロンドンとは、空気さえも違った。時間はロンドンの十分の一ほどの速度でゆっくりと流れ、観光客向けのネッシーのお土産やさんさえも、「本当にネッシーいるんじゃない？」って思うほど、どこか神の領域に入ったような気さえした。

神と感じてしまうのは、圧倒的な自然を背景に持つからだろう。俗世にまみれる人々は、自然の脅威には反論できず、ひれ伏すしかない。反論すれば、一瞬で存在を消されるほどの恐ろしさが自然であり、神だ。悠然と回る風力発電機は、神に逆らうのではなく、ギリギリのところで共存しているように見える。

だからだろうか。シングルモルトな男というのは、詩的で浮世離れした言葉を放つ。神の遣いなのか、神の寵愛を受けたような印象があるのだ。彼の哲学的で美しい詩のような言葉たちに煽られ、頭を真っ白にして溺れたい。こんな美しい言葉に濡れない女なんているのだろうか。

けど、欲深い私は思うの。

シングルモルトの神々しい所も、バーボンのスタイリッシュで刺激的な所も、全部、欲しいと。

だから、私がウイスキーと向き合って、ストレートかロックで飲んでるときには、話しかけないでね。ことの最中に話しかけるほど野暮なことするなんて、恥を知りなさい。当然だよね。ハイボールなら許します。

で。「なるほど、あなたが愛するｋがスコットランドのシングルモルトなのね」という考察はずいぶん、短絡的すぎるんじゃない？　答えはNo。彼は宇宙人なので、シングルモルトにも、バーボンにも、日本酒にも、焼酎にも化けてしまう。ターミネーターの液状金属みたいに。だって、あんなにガッチガチの理系頭なのに、あんな美しい言葉が収納されてるなんて、説明つかないでしょ？言ったことすぐ忘れるし。

シングルモルトのような宇宙からの言葉を聞いて、興奮もするけど、オヤジギャグやしょうもない即席コントで笑わせる、焼酎みたいな所が私は一番好きだったりする。

とにかくやっぱり、あなたが好きなのです。