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楕円軌道

kと会った後の1週間ぐらいは魂のゲートのようなものが開いてしまって、
ふとした瞬間に訳もなく涙が溢れる。嬉しいわけでも悲しいわけでもない。この現象を私は「魂の結露」と呼んでる。魂と外の世界は当然温度が違うから、その境界にある私の体から涙が出るのだと認識してる。

kと出逢ってから、私の人生観ははっきりビジュアル化した。個々の魂は惑星のようなもので、それぞれ男女関係なく、別の楕円軌道で回ってる。どんなに近い人でもどんなに愛していようとも、必ず同じ軌道はない。だから、人を変えることはできない。
「必要なタイミングで必要な人が必要な情報をもって私の前に現れる」と信じているが、それぞれの軌道を回りつつも、ものすごく近くまで接近するイメージ。然るべき意味を持って近づき、そしてまた然るべき理由で離れる。それは単純に「出会い」「別れ」というものではなく、あくまで精神的なもの。でもいつも私の頭にはこの絵がある。

4年くらい前に仕事でkと出逢った。当時は「なんかやたらチャラく話しかけてくるし、変な男だ」としか思っていなかった。それが何かをきっかけに接近し、私の奥から何かが溢れ出した。奥に眠っていたパンドラの箱をkによって発見され、どこかに埋まっていた鍵さえも見つけられた。何度も誤って削除してしまったのに、その当時のLINEだけは奇跡的に残っている。哲学的でこの世のものとは思えないほど美しかった。体を重ねる前に魂が共鳴した不思議な体験だった。その時は「なんでこんなことをするのだろう」と一時期ひどく情緒が乱れたが、社会的な不安定さはなかった。あくまで私の中だけで起こってたことであり、会社ではいつもどおり精力的で、黄色いイメージの私だったし、家では娘のいちいちに感動したり、怒ったり笑ったりする今と変わらない私だった。側からみれば、宇宙のどこかの小さな惑星が周りながら小さな衝撃を受けた、その程度のものだった。

パンドラの箱に残っていたのは「希望」ではなく、「私の感性」だった。kはどこかに埋まってた鍵を探し出し、箱の前で私に、「はい。開けるか開けないかは自分で決めな」ってニッコリと鍵を差し出した。だから、どんなことがあろうとkが愛おしい。ひなが最初にみた鳥を親だと思うように。この感覚はkはわからないだろうし、「体の相性のよさに女性は何か意味を見出す」って平気で言うだろう。でも、それでいい。あなたは全てわからなくていい。女の体は宇宙と繋がってるんだよ。

いつも会う時は、kから膨大な量の話を聞き、私も真剣に聞き共感し、反論する。きっとkの概念的な話をこんな興味をもって聞ける人はいないと思う。性的行為を目的にした場所で、こんな話を聞いてる女はそうそういないはずだといつも思う。
そして呆れるほど私の体を愛でて、呆れるほどの激しい私の獣を涼しい顔で受け止め、その上でのkの超越した性に呆れて笑ってしまう。「一体、体の構造はどうなってるのだろう、きっと宇宙人に違いない」と、どこか本気で思ってるぐらい。

全ての出会いがそうであるように、kとの出会いも、とてつもない奇跡だと思っている。体つきも顔も全然違うのに、なぜか手の形や感触がすごく似ていて、重ねるとどこかほっとする。「人間は人肌を求めるものだし、子供とかを抱き締めるとほっとするのと同じだな」っていう、感性とは真逆にいるガチガチ理系のkも、私の一部だと思える。kに触れられると涙が出る。性欲の先にキラキラ光る真っ白な世界がはっきりと見えて、美しさに涙が出る。「セックスとは自分を知る行為であって、俺は単にトリガーでしかないんだよ」ってそういえば前に言ってたな。

4月からはおそらく私は会社でkと会うことはなくなる。予兆は去年からあった。すごくフロアが近くなったと思えば、また離れ、お互いのリモートのリズムも合わないので、一緒に帰ることも激減した。そして私の仕事の役割も激変し、kもまた環境が変わった。うまいこと人生プログラムできてるなって本当に感心する。すべての変化が「しかるべき」であって、それに抗うほど私は愚かではない。
だけど、やはり変わらないものがある。「あー、でもやっぱり、時々でも会えないってなると寂しいな」って思わず溢すと、「俺たちは変わらない。違う環境でまた会った時に別の発見があるでしょ」と子供を諭すように言われた。そこから、「出会う前のサキがここだとして、知り合った今がここ、で、職場が変わってここまで下がったとしても、ここより上でしょ、これをどう捉えるか。人は失うことの方が悲しむもんだな」「いや、その前提はおかしい。仮にkが海外とかに行ったとして、物理的に会えないという点では知り合う前のここになるけど、その時の私と今の私は違うし、その比較は成立しないわ」と、呆れる言葉遊び。

kの頭の中では「仕事」を「仕事」と括っていない。大成するとかじゃなく、kがこれからどんな選択をして、どんな軌跡を描くのか、想像するとワクワクする。
そして私も。なんかここまで色んなことがお膳立てされてると、とにかく目の前にきたことを全力でやるしかないんだろうな。

そしてきっと私とkは変わらず。
呆れるほど、私たちは変わらない。

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