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製品に自信を持つな/クラファン成功の秘訣(1)

電子楽器インスタコードは、クラウドファンディングで約8000万円の支援(予約注文)を集めて誕生しました。
40代半ばの無名のおじさんが立ち上げた個人プロジェクトが、日本限定で8000万円という高額な支援を集めたことは、多くの方に驚かれました。

では、どうして8000万円もの支援を集めることができたのでしょうか?
その舞台裏を「事前準備」「広報」「宣伝」の3回に分けてご紹介します。

製品に自信を持つな

私は、製品開発で大切なのは「製品に自信を持たないこと」だと思っています。
「自信を持つな」というと「自信のない製品を売ってるのか?」と思われそうですが、そいういう意味ではありません。

製品を発売しても大して売れずに失敗に終わることがあります。その原因は「これは売れるはずだ」と思い込んで、市場のニーズを掴めていない場合がほとんどでしょう。

自分の製品を「素晴らしい」と思うのは当然のことです。
しかし「根拠のない自信」ほど危ういものはありません。

もともと自信過剰な私が40代後半になってようやく気づいたのは
「自分を疑う」ことの大切さです。

製品を売るためには、自分の「思い入れ」なんかより「世間のニーズ」の方がよっぽど大事です。
その製品を「欲しい」と思う人が全人口の何%なのか?
その割合を把握し、その割合を高めていけば必ず売れる製品を作れると思いませんか?

「自分の信念を曲げるな」とか「自分を信じろ」というメンタルトレーニングがありますが、そもそもの「信念」がズレた方向を向いていたために、どんどん泥沼にハマっていく人を今まで何人も見てきました。

自信をもつことは、売れる製品を作るための障害になりかねないんです。

客観的データに頼る

ですから製品を開発する際は、客観的データを集めながら方向修正していくことを大切にしています。様々な角度から、疑って、疑って、疑いの余地がなくなるまでデータを集めてようやく「自信を持てる」製品になると考えています。

例えば、インスタコードの開発を始めた当初、私は「初心者向けの楽器」を作るつもりはありませんでした。
最初は「作曲支援」や「音楽教育」のためのツールを作りたかったんです。
しかし市場調査の結果、簡単に弾ける楽器のニーズが高いことが分かったので「初心者向けの楽器」という切り口に方向修正をしました。

データの集め方

市場調査にはジャストシステム社の「Fastask」というアンケートサービスを利用しました。

最初のアンケートはインスタコードにニーズがあるかどうかを調べました。

Q. 楽器の演奏に興味がありますか?
Q. ふだん楽器を演奏をする機会はどれくらいありますか?
…など、約2000人を対象に調査を行ない、年代、性別ごとに集計しました。

その結果、楽器の演奏には興味があるけど弾く機会がない or 弾けないという人が多くの割合を占めました
つまり「楽器を弾けないけど弾きたい」というニーズがあることが分かったんです。また、その人たちに「弾けない理由」を質問すると

  • 時間がない

  • 練習が面倒

  • 演奏が下手

という回答が上位を占めました。
つまり「時間」「練習」「演奏技術」の3つの問題を解決する商品は「楽器を弾けないけど弾きたい」というニーズに応えられます。

そこで、インスタコードは

  • 時間がなくてもサッと弾ける

  • 練習はほとんど必要ない

  • 演奏が苦手な人も弾ける

という点を重視し、製品の方向性や仕様そして広告物のキャッチコピー等を決めていったんです。

アンケート調査は、ニーズの有無の確認や、製品の方向性を決めるのに非常に役立ちます。

偉い人の助言には注意

アンケートだけでなく、色んな人に直接会って試作機を触っていただき意見を聞きました。

ここで注意しないといけないのは「偉い人の意見は大きく聞こえる」ということです。

権威ある人に「こうした方が良い」と助言されると、それに従わないといけない気持ちになります。だからといって鵜呑みにしてはいけません

偉い人の意見も、小さな子どもの意見も同じ一票です。権威ある人もそうでない人も、1人の消費者に過ぎません。その意見が全体の何%なのかを冷静に判断する必要があります。

感覚に頼らない

他にも、本体やパーツの色のように、感覚に頼るところはアンケート結果を参考にしています。本体色は白とグレーですが、赤や青を熱烈に希望される方がいらっしゃいますし、私自身も本当は赤いインスタコードが欲しいんです。
しかし、本体カラーの希望を調査すると、黒と白の希望者が圧倒的に多く、現在の生産ロットでは、赤や青をラインナップに入れることは難しいということが分かったので生産を断念しました。

このようなアンケートは外部サービスを使わず、インスタコードを予約してくれたお客様を対象に行なっています。

価格の決め方

本体価格もアンケートに基づいて決めました。

通常、商品の価格は原価の3〜5倍に設定します。
インスタコードの価格は3万円台ですが、原価を考慮すると本来なら5万円以上にしないと元が取れない製品です。大手企業の人からは「普通のメーカーならこの価格で売ることは不可能」と言われます。

しかし別に「安くすれば売れるだろう」という安易な考えで価格を決めたわけではなく、事前のアンケートで「最も売れる価格帯」を調査して、その価格帯に合わせたのです。

アンケート調査によるとインスタコードの購入を検討する価格帯は
・音楽経験のある人は3~5万円台
・音楽経験のない人は1~3万円台
という幅がありました。

また、上級者が欲しい機能と、初心者が欲しい機能には違いがありました。

大手メーカーなら、機能を限定した「エントリー向けの機種」とフルスペックの「上級者向けの機種」に分けて製品化するでしょう。その方が利益率を上げることができます。
しかし開発当初の資本で2つのラインナップを開発・製造する余裕はないので、1アイテムに絞る必要がありました。

  • 初心者でも手の届く価格

  • 上級者も満足させる機能

2つの条件を満たすには、原価率を上げて利益を圧縮するしかありませんが、幸い新規メーカーですから問屋さんや楽器店との付き合いが一切ないので、「ネット直販」に限定することが可能です。直販なら原価率が高くてもなんとかなります。このような経緯で、材料費を抑えにくい小ロット生産にも関わらず、高性能で3万円台という価格に設定したのです。

クラウドファンディングの予約購入は、普通のショッピングと比べると非常にハードルが高いので、とても小さな市場だと認識する必要があります。
その中で大きな売上を上げるためには、ターゲットを広く設定しないといけません。音楽未経験者から上級者まで幅広い層をカバーする仕様と価格を組み合わせたことが、クラファンを成功させた要因の一つかも知れません。

ニーズに寄り添う

アンケートでは「どんな場面で楽器を演奏したいか」という質問もしました。
するとコンサートなどでお披露目するよりも、自宅でひっそり楽しみたいという人が結構いることが分かりました。
ほとんどの楽器はそのような使い方を想定していないので、インスタコードの特徴として訴求できるだろうと考え、1人でひっそり楽しむニーズに合うように、サイズや仕様を決定しました。

信頼を高める

2020年当初、購入型クラウドファンディングでは、完成品が届かないというトラブルが問題になっていました。
全く無名のメーカーがゼロから始めるプロジェクトなので、不安になって支援を躊躇する人も大勢いらっしゃるはずです。
その不安を少しでも取り払うために、以下の2点を準備しました。

盤石な開発メンバーを集める

私自身は電子機器の開発経験が全く無いので、開発、製造、は全て外部発注しています。その担当には各分野のプロフェッショナルを集めました。

チーフエンジニアは電子楽器ウダーで有名な宇田さん、スピーカーの開発は高性能スピーカー「OVO」を開発した宮崎さん、さらに、Bluetooth MIDI の第一人者キッコサウンド廣井さん、ユニバーサルデザインのトップリーダー武者さん、そして製造は数々のIoT機器を手掛けるジェネシス社。

ガジェット好きやモノづくり界隈の人なら誰もが知る超有名人が名を連ねているので、SNSでは「ドリームチーム誕生」とか「アベンジャーズだ」などと驚きの声が上がりました。

クラウドファンディングに参加する人は、新しモノ好きな人や技術に詳しい人が多いので「このメンバーが作るなら良い製品に違いない」と分かってもらえたことも、支援を決定づける大きな後押しになったようです。

推奨コメントを集める

インスタコードのホームページには、一流のミュージシャン、大学教授、ライターの方など様々な人が推奨コメントを寄せてくださっています。

この中に、以前から面識のあった方は1人もいません。

AZUさんはもともと友達の友達の友達ですし、篠田元一さんは各楽器メーカーのシンセの監修もされている超有名プロデューサーなのですが、私の1通のメールで会って下さったんです。

数えきれないほどの方にコンタクトを取ったので、会いたくても会えなかった人や、全くリアクションの無かった人も大勢いらっしゃいます。持てる人脈はフル活用しつつ、とにかく当たって砕けろという気持ちでいろんな人に連絡して現物に触ってもらう努力をしました。

次回「テレビ・ラジオで紹介される方法」

今後もこのnoteでは、私がハードウェアスタートアップの起業で経験したことや、失敗しないものづくりのノウハウなどを書いていきます。

次の記事は、テレビ・ラジオなどで紹介されるための広報活動について書きました。

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インスタコードにも興味を持っていただけると嬉しいです。

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