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[導入事例:聖ドミニコ学園中学校]進路の入口に。自ら考える力を身につける

Inspire Highは、全国の小学校から高校までの様々な学校に導入され、授業等で活用されています。この記事では、授業等に導入いただいた学校を取材し、教員の準備から生徒たちの反応まで、どのような授業が行われているかの事例をご紹介します。

今回ご紹介するのは、東京都世田谷区にある中高一貫の女子校である聖ドミニコ学園中学校です。2019年より「Sustainability(持続可能性)」「Design(デザイン力)」「Connect(つながる)」の3つを軸とした、21世紀型教育をスタートしました。現在はすべての授業でPBL(Project Based Learning)を行い、1人1台のiPadによるICTを活用した教育を積極的に行っています。

聖ドミニコ学園のホームページより


同校では「自ら考え、発信する力」を育むことを大切にしており、そのひとつである探究プログラム「ドミニコ学」において、中学3年生がInspire Highを使ってキャリア教育を学んでいます。

ドミニコ学のカリキュラムマネジメント・サブリーダーとして、中学3年生でのInspire Highの授業を先導した国語科の西亀咲江教員に、お話をうかがいました。(取材内容は2022年3月時点のもの)

【学校情報】
学校名:聖ドミニコ学園中学校
所在地:東京都世田谷区
実施コース:中学3年生 アカデミックコース/インターナショナルコース
【実施環境】
利用端末 :教員、生徒の端末(iPad)
授業時設備:AppleTV、プロジェクター、MetaMoji ClassRoom

1. 導入の背景:
進路を考える入口のためのInspire High

――Inspire Highを導入されている「ドミニコ学」とはどんな授業ですか。

ドミニコ学は、2019年から始まった本校独自の探究プログラムで、中学・高校の「総合的な学習の時間」(2022年度から高校は「総合的な探究の時間」)にあたるものです。

知識・論理・創造の3つの分野で、自分から他者へ、そして世界へと視点を広げていく学年横断の学びです。全学年で毎週1時間実施しており、学年ごとに探究テーマを決めています。

聖ドミニコ学園中学校 国語科教諭の西亀咲江教員。中学3年生の副担任も務める

――なぜ、ドミニコ学にInspire Highを採用されたのですか。

今年度の中学3年生では「お仕事」をテーマにすることが決まっており、教材として「何か外の世界とつながるプログラムはないか」と探していた時期に、ちょうどInspire Highを紹介していただいたのがきっかけです。本校は1人1台のiPadを使っていますが、Inspire Highはブラウザで利用できる点も使いやすかったです。

――これまでのドミニコ学では、どんな課題があったのでしょうか?

本校では2019年から大きな教育改革を開始したのですが、実際に実現するとなると、教員の力量が非常に問われます。各学年の教員が毎週のテーマを考え、ゼロから授業を立ち上げるということを3年ほど続けてきましたが、毎回新しいテーマを出し続けることの大変さを感じていました。

また中学3年生は義務教育が終わる時期でもありますので、このタイミングで、自分の進路のことを考える入口に立ってほしいという教員側の希望もありました。

学びの土台である思考力を育てるドミニコ学
聖ドミニコ学園のホームページより)

――西亀先生が、初めてInspire Highをご覧になった印象はいかがでしたか。

外の世界の新しい分野の最先端で活躍している方のお話を聞けるという点が魅力的でしたね。卒業していく生徒たちは、教員が知らない新しい世界に飛び込んでいきます。授業でもそうした世界への接点を持たせてあげたいけれど、教員が対応できるかというと、難しいのが現状です。

その点、Inspire Highはすでにコンテンツが完成されており、「今、世界ではこういう方が活躍していて、こんなことを考えているんだ」ということをリアルタイムに知ることができました

Inspire Highの多様な出演者(ガイド)

2. 授業事例:
アウトプットを重視した活用へ

――授業でInspire Highを活用するにあたって、どのような準備をされましたか。また、負担感はありましたか?

「お仕事について考える」という軸はすでに決めていたので、Inspire Highからそれに合う動画(セッション)を見繕うところまではスムーズに行えて、導入にあたっての難しさは感じませんでした。これからInspire Highを導入される学校の教員方は、テーマを前もって決めておくと、絞り込みやすくてよいと思います。

――他の先生方との連携はどのように進められましたか。

私が使いたい動画を選んだうえで授業案のたたき台を作り、担任・副担任の全7名で毎週ミーティングを行い、そこで進め方の確認をしました。

――実際の授業の様子を教えてください。

2学期は、3教室にわかれてそれぞれにファシリテーターが1人つき、全部で3つの動画を活用し、8回分の授業で構成しました。2週間かけて1つの動画を活用することにしました。

活用した3つの動画
西亀先生が作成した、中学3年生の「ドミニコ学」の計画表

また、日頃から全教科で「アウトプット」することを大事にしていますので、1週目はまず全員で20分間のガイドトークを視聴し、その後、生徒たちが心ゆくまで書けるようにアウトプットの時間を延長できる幅をもたせました。

2週目は、クラス内のアウトプットに対してのフィードバックと、自分へのリフレクションの時間にあてました。ガイドトークを聞いて印象に残ったことを、Inspire High上に投稿したり、自分用にiPadのノートアプリ「MetaMoji ClassRoom」で記録したりしていました。

また、本校では「ドミニコ学 思考コード」という独自の学びの基準を用意しており、それに合わせて気付いたことや考えたことを記入するようにしました。1つの動画を2回の授業に分けて取り組む進め方でちょうどよかったと思います。

学年ごとに作られた「ドミニコ学 思考コード」

――続いて、3学期はInspire Highをどのように活用されましたか。

まずは冬休みの宿題として家庭で動画をたくさん見てもらいました。そして3学期には読書の「ビブリオバトル」のように、Inspire Highの好きな動画をひとつ選んでもらい、全学年を4人ずつに分けてグループ内でバトルをし、各グループのチャンピオンの発表をシェアしました。

この取り組みは、より生徒の自主性を重んじることができたので、こちらが予想していたより、動画の面白さについて熱く語っている生徒もいて、しっかり見ているし、刺さっているんだなということが印象に残りました。

3. 導入後の効果:
生徒自らが動画の面白さを語り合うように

――授業を実践してみての手ごたえなどは、いかがでしたか。

とてもポジティブな反応が多く、「よかったよね!」と教員間でも大絶賛でした。

さらに、「お仕事」というテーマで区切ったせいか、教員自身にも自分の仕事観やキャリアにグサグサと刺さっていましたね(笑)。職員室に戻ってから、普段の仕事の中では話さないような、自分の仕事観や死生観といった話題で盛り上がったことが印象に残っています。

生徒のアウトプットにも驚かされ、担任の教員方と「こんな意見が出ていた」といった会話が多くありました。

――生徒さんの反応も良かったのですね。

はい。特に、ふだんの教室の様子ではあまり積極的でない生徒が、今回の授業ではとても良いアウトプットをしているのを見て、生徒たちにとっても素晴らしい経験になったと思います。

また、生徒の振り返りでも「これまでは社会課題という点まで意識できていなかったので、これからはそういう視点も持ちたい」という風に、リフレクションしていくなかで少しずつ視野を広げようという思いが感じられました。

――総合の授業の評価は難しいという声が多いですが、「ドミニコ学」ではどのように評価を行ったのでしょうか。

ドミニコ学を始めた際に客観評価は向いていないと判断し、全学年で同じフォーマットを使って自己評価をし、その紙を通知表と一緒に成績表がわりに保護者に渡しています。

生徒は記録したメモを見ながら、今学期を振り返って「思考コード」と連動した9項目について4段階で自己評価します。さらに自由記述で、自分がどういうことを学んだか、気付いたかということ、また続きをやるとしたら、どういうところを伸ばしたいかなどを書きました。

生徒が記入する「自己評価シート」
(I.H.はInspire Highのこと)

4. 今後について:
自分たちで問いを立てオリジナルのInspire Highを企画したい

――中学生にとってInspire Highの難易度はいかがでしたか。

本校の生徒が、普段から考えたり書いたりすることに慣れていたこともありますが、「世界とつながっているんだ」ということが感じられ、難しさのレベル設定も、中学3年生に投げかけるのにぴったりの問いだったと思います。

生徒のアウトプットを見ると「そこまで深く考えているんだ」と驚くことの方が多いので、低学年でも学年なりに響き、本質の部分はつかむんじゃないかと思います。

――今後、学校が目指す学びに、Inspire Highをどのように活用されたいですか?

直近では、Inspire Highをドミニコ学の1教科だけの副教材にするのではなく、たとえば、英語話者の動画をリスニングの生きた教材として使うなど、ほかの教科でも活用することを検討しています。学校内で「Inspire Highって面白そう」という雰囲気をつくりたいと思い、毎週のドミニコ学の打ち合わせを職員室で行って、他の学年の先生にも波及することを期待しています。

個人的な野望としては、今回Inspire Highを体験した生徒たちが高校3年生になったときに、もう一回出会わせて、15歳の自分が書いたアウトプット見せたいですね。継続して何年後かにもう一回そのタイムカプセルを開けることができたら、とても意味があると思います。

――楽しいタイムカプセルになりそうですね。長期的なプランもありますか?

他の先生方と話して盛り上がったのが「自分たちでInspire Highをつくる」というプランです。理想としては、低学年の1年間はInspire Highを視聴者として体験し、2年目は自分たちで企画書を書いてInspire Highをつくる、というものです。

グループで企画して、ガイドトークを台本通りに読み合わせをして収録し、さらに自分たちで10代に向けたしびれる問いをたてて、アウトプットテーマの発問までもやる……という授業をしてみたいと思っています。

――とても面白そうですね。ぜひ実現しましょう!

Inspire Highは問いの立て方が素晴らしいと思っているので、生徒にも体験してほしいと思っています。学校教育において「自分で問いを立てられる人を育てる」ことが、私の永遠のテーマです。

――ありがとうございました。これからもさまざまなご活用を楽しみにしています。

***

探究型の授業は、効果ややりがいも大きい分、教員の負担が大きいことも課題となっています。「Inspire Highを使えばコンテンツを一から考えて作り出す負担が減る」と西亀先生が話すように、準備にかかる負担や時間を軽減することで、生徒へ向き合うことに専念できます。

また、生徒にとっては、世界で活躍する仕事や人物を知ることができるので、ドミニコ学が目指す「卒業後の生き方に役立つスキルを育む」学びにおいて、効果的に活用された事例でした。