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[導入事例:安田女子高等学校] 繰り返しのトレーニングで協働力・共創力を養う

Inspire Highは、日本全国の小学校から高校まで、様々な地域、校種で導入されています。
実際に、学校現場でどのように受け入れられ、授業や生徒たちの学びに活用されているのか。Inspire Highを授業で活用いただいている学校を取材し、教員の準備から授業の様子、児童生徒たちの反応、さらには導入の効果まで、実際の活用事例をご紹介します。

今回は、広島県の安田女子高等学校における高校1・2年生の授業事例を紹介します。同校は「柔しく(やさしく)剛く(つよく)」を学園訓とし、創立107年もの歴史をもつ学校として、広島県でも人気の伝統校です。
2021年度から高校に新設された「STEAMコース」の特色である「IBL」の授業に、Inspire Highを活用いただいています。

安田女子高等学校

安田女子中学高等学校は、創立100年を超えた現在、新設されたSTEAMコースのほか、生徒全員に1人1台iPadを貸与してのICT活用、放課後に自分の興味関心を深める「アフタースクール」などにも取り組んでいます。

同校では、2021年度に続き、2022年度もSTEAMコースにおいてInspire Highを活用した授業を行っています。同校の教育コーディネーターとしてSTEAMコースの立ち上げから携わり、アフタースクールの放課後プログラムなども担当している柴田祐希さんに、Inspire Highを採用した経緯から活用方法までをお聞きしました。

【学校情報】
学校名:安田女子高等学校
所在地:広島県広島市
実施コース:STEAMコース 高校1、2年生

1. 導入の背景:
多様な人生を追体験することで、自分が見えてくる


――STEAMコースとはどのような特徴があるのでしょうか。

STEAMコースは2021年度から高校に新設された新しいコースです。このコースでは、社会を創る当事者として、社会をより良くしていくための行動を起こす力を養うために、「型にとらわれない」「まずやってみる」「失敗を恐れず挑戦し続ける」といったマインドセットを大切にしています。特徴は「PBL」と「IBL」という2つの授業です。

安田女子中学高等学校の教育コーディネーターを務める柴田祐希さん。

――PBLとIBLの授業について詳しく教えてください。

PBLは週4コマあり、約1年間の長期プロジェクトに取り組みます。現在は広島の企業とのバスオイルの共同開発、STEAM教材を制作している企業との新たな教材の共同開発、地元大学と連携してロボコンへの参加、研究機関と連携して河川の水質改善の研究、の4つのプロジェクトが進んでいます。

IBLは「Interest-Based Learning」の略で、生徒が自分自身で目標を立てて、それらを達成するために自学自習していく時間になっています。5教科を勉強する生徒もいますし、チームを組んで外部のコンテストに挑戦する生徒たちもいるなど様々です。

――柴田さんがInspire Highを推薦してくださったとお聞きしていますが、最初のきっかけは何だったのでしょうか。

Inspire Highを知ったのは、友人が「面白い教育プログラムがある!」と教えてくれたのがきっかけでした。早速、Inspire Highの公式サイトや動画を見て、「生徒に体験してもらいたい」と感じました。

Inspire Highでは多様な生き方を知ることができるため、「自分はどんな生き方がしたいか」と、自分を振り返るきっかけになるだろうと思いました。自分について考えることはすごく大事ですが、「自分は何が好きか」「将来は何になりたいか」と自分の頭の中だけで考え続けるのは、結構大変なことですよね。

様々な出演者の人生を追体験することで、相対的に自分が見えてくるところがとても良いと感じ、本校でも活用したいと思ったのが導入のきっかけです。

2.授業事例:
繰り返しアウトプットすることで表現力を磨く


――最初に導入されたアフタースクールについて教えて下さい。

テニス部のコーチから「スポーツの技術以外でも、部員を成長させる機会を作りたい」というお話をいただき、テニス部員向けのアフタースクールプログラムとして放課後に3回実施しました。

その時の生徒たちの様子を見て、「アウトプットはトレーニング」だと強く感じました。毎回の生徒のアウトプットをみると言葉の量が増えて、自分の思いを言葉で表現する力が確実に身についていくことを実感しましたね。この経験が、STEAMコースに導入するきっかけとなりました。

Inspire Highを利用する授業での様子


――Inspire Highと部活動がつながったのはとても面白いですね。STEAMコースではどのように活用されていますか?

2021年度のSTEAMコースでは、Inspire HighをPBLの授業に組み込みました。PBLでは、企業や大学と連携し身近な社会の課題をテーマに、生徒がチームを組んでプロジェクトに取り組みますが、いきなり企業連携などがスタートするわけではありません。最初の1学期はイントロダクションとして、校内で2ヶ月スパンのプロジェクトを3つほど実施します。

短期間のプロジェクトを通して、生徒同士がお互いのことを知り、STEAMコースで大切にしている「型にとらわれない」「まずやってみる」「失敗を恐れず挑戦し続ける」のマインドセットの素地を、生徒は身につけていくことになります。そういった期間に、Inspire Highを取り入れることがとても有効だと思いました。

なぜなら、PBLにおいて、自分の意志や考えていることを相手に伝え、お互いの意見を揉んで、ひとつのものをつくりあげていきます。そのためにも、Inspire Highなら自分の意見を言葉にし、人に伝える力が養えると考えたからです。

PBLのイントロダクションで2回実施したのですが、やってみてやはり思ったのは、短期間で数回の実施ではなく、長期的に繰り返し回数を重ねることの重要性です。そのため、スケジュールの兼ね合いで実施回数が限られるPBLではなく、今年度は通年で繰り返し実施できるように、IBLという別のプログラムでInspire Highを導入しています。

2022年度のSTEAMコースでの授業風景。

――回数を重ねる重要性については、他の先生方にも理解はすぐ得られたのでしょうか。

STEAMコースとして、大小含めたいろいろな刺激を、継続的に生徒に体験してもらいたいと言う思いもあり、先生方もInspire Highの取り組みに共感をしてくれました。

また、Inspire HighをSTEAMコースに導入する前に、先生が自分のデバイスで実際に体験する教員向け研修を行っていただいたことも理解の助けとなりました。実際に生徒と同じテーマについてアウトプットをしてもらう機会を作れたことは大きかったです。

さらに、Inspire Highで開催されている教員向けイベントに自主的に参加する先生もいて、「Inspire Highはコンテンツだけでなく、操作性や、生徒の学びが蓄積されていくシステムなど、プログラム自体がどんどん改良されている」といった、Inspire High自体の進化を理解していただけたことも大きな一因だと思っています。

――今年度は、IBLの授業でどのようにInspire Highを活用しているのですか。

4月のオリエンテーションからスタートし、高校1年・2年の合同で行っています。「色々な人の話を聞いて、自己を深掘りして世界を広げる」という目的とともに、「学年を超えたつながり」も今年度の目的のひとつとしています。

そのため、授業設計としてセッション鑑賞前後のアイスブレイクや感想の共有を積極的に行っています。

生徒同士で感想を共有する。

――事前にアイスブレイクを行うというのは、とても良いですね。

最初に空気をつくってから挑むと、同じセッションでも全然違うものになります。これまで「今の気持ちを色で表現してみよう」「星・月・木の絵を描いて、グループで共有しよう!」などのアイスブレイクを実施しました。
10分程度の短いものですが、考え方や捉え方の違いを面白いと受け取れる準備となることを意図していました。

授業前のアイスブレイクは、学年間での交流を育むものや、自分のクリエイティビティの制限をはずすといったことを意識しています。

3.授業での活用における工夫:
フィードバックはギフト。お互いの意見を取り入れる力を養う


――Inspire Highを使った授業をするうえで、こだわっていることや工夫されている点があれば教えてください。

Inspire Highを使った授業では、アウトプットだけでなく、生徒同士でフィードバックしあう時間も重要視しています。コースとして生徒同士で協働する際、お互いの意見を取り入れることでより良いものができていくと思っています。

そういう意味でも、Inspire Highの「フィードバックはギフト」というメッセージはとても良いですね。たとえ自分と同じ意見を持っていない人でも、共感を持ってそれについて考えることは、生徒たちにとって良いトレーニングになっていると思います。

――フィードバックも繰り返すうちに上手になりますよね。その他の工夫はありますか?

2022年度の授業は、1・2年生が全員参加する授業と、希望者のみが参加する授業を設けています。希望者のみが参加する授業は少人数になるので、参加者がお互いにコミュニケーションを取ったり、対話できるような時間を多く設けています。Inspire Highを振り返るだけでなく、動画を見て印象に残ったことを発表し、お互いにコメントやフィードバックを行いました。

フィードバックもトレーニングのようなもので、やればやるほど伸びます。他人の「いいね」と思えるポイントを見つけられるようになりますし、「自分はこういう風に思ったよ」という自分のことも伝えられる。そういった力をつけられることは、すごく大事だと考えています。

少人数の授業では、それぞれが好きな動画を見て感想を伝えあう。

――フィードバックをもらった側の生徒さんは、どう感じているのでしょうか。

自分の考えたことを受け取ってもらえるだけで嬉しさはあると思います。そして、フィードバックをもらったり渡したりすることで、多様性を受け入れる力がついていく。それが、協働に繋がっていくと思います。

また、授業前によく生徒に話しているのは、「出演しているガイドの生き方が一つの正解ではない」ということです。生徒にはガイドの生き方をそのまま参考にしてもらいたいわけではなくて、話を聞いて共感する部分、逆に共感できなかった部分はどこだろう?と考えながら、自分の歩みたい人生について考えてもらいたいと思っています。

――これだけが正解ではない、というのはとても大切な視点ですね。

わたしがInspire Highを通して伝えたいのは生き方の優劣ではなく、単純に「人生には、そういう選択肢があるんだ」ということです。Inspire Highではガイドの主観で、自身の人生をフラットに話してくれます。

「こういう人生を、みんな生きてね」というメッセージではなく、「自分の人生は、数ある生き方のひとつ」というスタンスが、生徒にとってもフラットに伝わるのではないかと思っています。

――とても良いですね。そうした工夫を行ったIBLの授業では、生徒さんのポジティブな変化などはあったでしょうか。

2022年度は4月のオリエンテーションを経て、5月に全体でInspire Highの授業を行ったのですが、そのあとに「自分の好きな動画をみていいですか」と、授業以外でも積極的に活用したいと思ってくれた生徒が出てきました。
おそらく、生徒の中に「自分の知らない世界を知ってみたい」「色々な人の話を聞きたい」というモチベーションが高まったんだと思います。ポジティブな影響はすごくあったと感じました。

4. 今後について:
「振り返り会」を実施し、さらに深い学びへ


――今年度、そして今後のInspire Highの活用について、展望などあれば教えてください。
 

まず、今年度の目標としては、月に1回ぐらいのペースでInspire Highを行ってトレーニングを続けていきたいです。

次に考えているのが、「振り返り会」の実施です。時期としては、夏休み明けかそれ以降に、Inspire Highのセッションを振り返りながら、何かテーマを決めて生徒に発表してもらう形で実施したいと思っています。

Inspire Highを実施しただけで終わりにしないという意図もありますが、同時にトレーニングの効果が生徒に出ているのか、複数回行った意味や価値を確認するという目的もあります。

――それはとても楽しみですね。 

はい。Inspire Highを知って3年経ちますが、人生の多様性や世界の広さ、自分らしい人生を形づくることの楽しみといったものを体現するゲストの方々が、ゲストの視点で生徒に教えてくれる点がとても好きです。それを聞くことによって、自分の中の世界も広がり、外の世界も広がっていく。

自分自身について、そして自分の外側に広がる社会について解像度が上がっていくことは、STEAMコースで目指している社会を創る当事者として、社会をより良くしていくための行動を起こす力を養うために価値があることだと思っています。

その価値を、授業を通して生徒に伝えていけるよう、プログラムの取り扱い方や、振り返り会の設計など、色々と工夫を加えて活用していければうれしいです。

2022年度のIBLの授業で使っている資料にも、
柴田さんの思いのこもったメッセージが綴られている。

――ありがとうございました。

***

安田女子高等学校でスタートしたSTEAMコースが目指す「答えのない問い」に向き合うための新しい学びにおいて、Inspire Highは「自分の世界を広げる」教材としてだけでなく、アウトプットのトレーニングとしても活用されています。

こうしたアウトプットやフィードバックといった伝える力、そして他者や多様性を理解する力は、これからの時代にさらに必要性が増していくことが予想されます。そうした際に、Inspire Highを活用する有効な事例として、ぜひ参考にしていただければ幸いです。