スピンオフから3カ月、スリーエムのバランスシートの変化
2024年の4月1日（月）に、3M Company からヘルスケア部門がスピンオフ（分離独立）しました。同日、分離した新会社 Solventum Corporation はニューヨーク証券取引所に上場しました。
Solventum が上場して最初の3カ月が終わり、その決算が出ましたので、この記事では、Solventum のスピンオフで 3M Company のバランスシートがどう変わったのかを確認します。
資産の部
下の図は、3M Company のバランスシート資産の部の変化を表したものです。
左が Solventum分離直前（24/03/31時点）のバランスシート、右が分離後最初に出る財務諸表（24/06/30時点）のバランスシート、中央が24/06/30時点での3MとSolventumを合算したバランスシートです。
左と中央を比較すれば、3MとSolventumでどう資産を配分したかが、中央と右を比較すれば、3Mにどれだけ資産が残ったかが分かります。
このグラフから以下のことが分かります。
Solventum 分離後、資産の8割弱が3M Company に残った。
のれん、無形資産（赤色）の半分以上がSolventum に移転した。
縦軸の単位は100万ドルなので、分離前の資産額は約550億ドル、分離後は435億ドル弱
負債の部
一方、バランスシートの負債の部も同じように分析してみます。資産の部と同じように、分離直前、分離後合算、分離後の3Mの負債の部をグラフ化したものが下の図です。分離後の3Mの資産が分離前の8割弱になっていたのと見合うように、負債も8割弱に変化しています。下のグラフで目立つのは長期負債（赤色）です。
分離前に206億ドル弱あった長期負債のうち、約4割にあたる83億ドルがSolventum Corporation に引き継がれ、3M の長期負債は118億ドルに激減した。
単純に、もともとヘルスケア部門の借入金が多かっただけなのかもしれませんが、ヘルスケア部門の売上は3M Company全体の25%でしたので、Solventumがけっこう多額の負債を引き受けたんだね（タイヘンそうだなぁ😅）、という印象を受けます。
また、無形資産の55%も Solventum に移転しています。無形資産というのはブランド、ソフトウェアなど、その名が示すとおり目に見えないものなので、うまく使えば強い競争力の源泉にもなりますが、狙い通りに稼げないと減損処理をしないといけません。CEOが決算会見で
Some of Solventum’s businesses have “consistently underperformed their markets,” mainly due to commercial misalignment and poor R&D productivity,
と（市場が求める製品を出せていない、研究開発の効率が悪い、と）なかなかイタイことを言っているので、この無形資産、使いこなせるものか注意して見守る必要がありそうです。
一方で、3M Company の方はちょっと身軽になったと言えるかもしれません。
純資産
24年3月末時点で 3M Company の純資産（Total Equity）は49.33億ドルでした。
6月末時点では 3M Company の純資産は 39.88億ドル、Solventum の純資産は28.67億ドルとなっています。2社合計すると、68.55億ドル。3月末から20億ドル近く増えています。
ただし、3M Company は Solventum の発行済み株式（1.727億個）の約20%を保有していますので、3MとSolventumの純資産を単純合算するとその分が重複してカウントされます。
4～6月の3カ月で3Mは12.1億ドルの純利益を稼ぎ出し、3.86億ドルの配当を支払っています。自社株買いは実施していません。3Mの純資産は8.24億ドル増える計算になります。
一方、Solventum はわずか8,900万ドルしか稼ぎ出せていませんが、配当と自社株買いは実施していませんので、Solventumの純資産は8,900万ドル増える計算になります。
4～6月の稼ぎにより両社合算しての純資産は、8.24億ドル+0.89億ドル=9.13億ドル増加するはずなので、残りの10億ドルが重複カウント分と推定されます。
まとめ
こうして Solventum 分離後の最初の決算だけを見ると、3M Company はスピンオフで稼げない部門を外し、負債も大幅に減らすことで重たい荷物から解放されたように見えますが・・・1期の結果だけで判断するのはまだ時期尚早です。しばらく、2年くらいは注意深く見守りましょう。
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