ファッションを現実世界へと引き戻す
『GQ JAPAN 2024年4月号 113-115ページ』に、興味深いインタビュー記事が掲載されていた。
2023年にGUCCIの新クリエイティブ ディレクターに就任したサバト・デ・サルノのクリエイションと思想に迫るインタビュー記事だ。
そのタイトルは
「ファッションは現実のものー サバト・デ・サルノがグッチに込めた信念」
今回は、このインタビューにフォーカスして展開していくが、それはなにも新生GUCCIやサバト・デ・サルノに注目することではない。
この記事を通して、“ファッションはあくまで現実の世界で行われる営みである”ということを改めて考えていきたい。
昨今、SNSが人々のサード・プレイスとなりつつある中、SNS的な着こなしや洋服が増加しているように思える。ファッションは文化であり、時代によってその形が変化することは当然である。SNSが流行すれば、SNSの中で映える洋服がトレンドになることもまた自然といえる。
がしかし、SNS的な着こなしだけがもてはやされ、現実世界における着こなしがどこか軽視されがちでもある。
そこで、今回GUCCIのクリエイティブ ディレクターに就任したデ・サルノのクリエーションの方向性と照らしながら、リアルクローズ(日常における装い)とSNSについて考えていきたい。
ファッションは現実のもの ーサバト・デ・サルノー
今回取り上げたGQ JAPANの記事はデ・サルノ就任後初となるメンズ・レディースの両コレクションを終えたタイミングでの取材であり、前任のアレッサンドロ・ミケーレが作り上げてきたGUCCIの方向性から大きく舵を切ったことが話題となっていたタイミングだ。
タイトルは前述のとおり「ファッションは現実のものー サバト・デ・サルノがグッチに込めた信念」。
インタビューの全体像は「GQ JAPAN 2024年4月号」を読んでいただくこととして、中でも注目に値する発言にフォーカスしたい。
彼は
との考えを述べた上で、こう続ける。
近年のGUCCIのイメージはまさに前任のアレッサンドロ・ミケーレが形作ってきたものだった。
あまりファッションに詳しくないという人でも、ここ最近のGUCCIといえば、蜂や蛇などの動物モチーフがウェアや財布に用いられているイメージがあるはず。Gを二つ重ねたGGロゴを現代的にアップデートし、復権させたのも、彼の手腕によるもの。
GUCCIのクラシカルな印象を破壊し、端的にいえば“派手で装飾的なGUCCI”を築き上げたデザイナーだといえる。
そして、そのミケーレが築き上げてきたGUCCIのバトンを受け取ったのがデ・サルノである。
この前提を踏まえると「誰かがブランドとしてのグッチを着ているところは見たくありません…(中略)…ファッションは現実のものです。実際の生活で日々着る。日常の装いなのです。」の聞こえ方が変わってくる。
これまで華やかで舞台映えするクリエーションを数多く残したミケーレとは対照的に、デ・サルノはモダンでありミニマルなスタイルを中心としている。
この舵切りは簡単なことではない。
いかんせん、ミケーレは7年にも渡ってGUCCIでディレクターを務め、その世界観を確固たるものにしているのだから。
しかし、GUCCIというブランドネームの前で、デ・サルノの哲学は揺るがなかった。
コレクションを見れば一目瞭然。
まさに「ファッションは現実世界のものである。」の言葉を体現したアイテム、スタイリングの数々。そこに“ブランドとしてのGUCCI”を窺わせる様子は微塵もない。
SNS的着こなしの蔓延。そんな時代に見せたデザインの機微。
デ・サルノはインタビューの中で、彼のモダンかつミニマルなコレクションに賛否が分かれたことについて次のように語った。
ここがこの記事の中で最も中心的に取り上げたい内容だ。
デ・サルノのコレクションレビューではないため、その詳細についての是非は避けるが、注目したいのは「インスタ映えに慣れてしまった我々の目が、彼の作り出す繊細なコレクションの美しさを見落としてしまっているのではないか」という旨の指摘だ。
たしかにこれまでのGUCCIのデザインやバレンシアガが牽引したラグジュアリーストリートの文脈に照らせば、彼のデザインは地味で見劣りする。
しかし、それは私たちが洋服や着こなしに対してSNS的な見映えという一元的な観点で評価しているからに過ぎないのかもしれない。
SNSの存在により、どんどん“現実世界のファッション”から“コスチューム”に近づきつつある昨今。
本来のGUCCI、本来のラグジュアリーに回帰したともいえるデ・サルノのクリエーションは、ファッション界に新たな激震をもたらす要となりそうだ。
【おまけ】この流れこそがクワイエット・ラグジュアリー
長文を辛抱強く読んでいただきありがとうございます。
ここまでご覧いただいた方のために、少し蛇足を。
デ・サルノが指摘する
このインスタ映え(SNS的着こなし)に対するアンチテーゼ(カウンター)こそが、2023年の冬頃から一大トレンドワードとなっているクワイエット・ラグジュアリーの正体。
インスタ映え(派手)に傾倒していた昨今のファッショントレンドに飽食気味みになり、それならと、インスタでは伝わりきらない素材やパターン、デザインの機微に注視したトレンドがクワイエット・ラグジュアリーなのだ。
注)この記事を読むと、終始、インスタ映え(SNS的着こなし)を批判しているようにも読み取れるかもしれませんが、そんな意図は全くありません。というか、筆者もまだまだ派手な服装をしがち。それだけ、わかりやすくて再現性の高いトレンドだったんですよね。
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