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ファミレス

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ファミレスであった話です。
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ファミレス(4/4)

ファミレス(4/4)

 見慣れた近所の風景だ。並び立つマンション、セブンイレブン、本当に弁護士がやってるのかも怪しい法律事務所、たびたび休業する整骨院、庶民的な風体のお好み焼屋がそこかしこにある。

 違うのはそれらを黒い霧が包んでいることだ。霧は濃く、あたり一帯に立ち込め、前方の数十メートルですら目視できないほどだった。

 とりあえずは歩いてみよう。そう考えてあたりを散策した。町は薄暗闇のなかにあった。暗いのにどの

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ファミレス(3/4)

ファミレス(3/4)

 それからもおれは毎日のようにファミレスへ行った。平日の会社帰りだけでなく、休日に一日中滞在する日もあった。

 あるときに思った。小学生の女の子が全く似ていない男と頻繁に店に入り浸っているのは、やはり不審に思われるだろうか?それが会社に知れたらどうなるのだろうか?

 結論からいうと全く問題なかった。二週間もしないうちに、店員がこちらのことなど一切気にかけていないことにおれは気ついた。家庭教師と

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ファミレス(2/4)

ファミレス(2/4)

――おじさんさあ、やっぱ女の子によくカモられたりするでしょ?

 …ん?と言ったきりおれは固まって動かなかった。

 そのあいだに「お待たせしました。わらび餅と緑茶のホットです」「ありがとうございまーす☆」「ご注文の品は以上でお揃いでしょうか?」「大丈夫でーす♪」「失礼します」と店員が来て店員が去って行った。

――おお、なかなかイケる。最近はファミレスも頑張ってるねえ~。

「…あのう」

「ん

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ファミレス(1/4)

ファミレス(1/4)

 ひどく落ち込んだ気分に身体を圧迫されるような日がある。そんなときはだいたい夜中に悪夢を見る。悪夢の内容はいつも同じだ。あたりは黒い霧に覆われていて、ごおーっという太い音で突風が拭いている。その風の音がまるで人の声のように聞こえるのだ。声はとてつもなく大きな音で耳の奥に響き渡る。「お前のせいだ」と声は言っているようだった。

 最近は悪夢を見る日が以前よりも増え、それにともない次第に眠りも浅くなっ

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