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デンマークの社会システムを読み解く

今年の頭に4ヶ月、デンマークのフォルケホイスコーレという全寮制の学校に通っていました。同じ建物で暮らす中で、周りのデンマーク人(20代前半〜30代前半)の政治や社会への関心の高さと同時に、それらへの一定の満足感や誇りも肌身で感じることができました。
事前に調べていたこちらの情報も参考に、現地での友達や先生などとの会話を踏まえて、デンマークの社会システムがどう上手くワークしてそうなのかの仮説を一旦まとめてみたいと思います。これを行うことで、デンマーク社会への解像度を上げて、今後より深堀りしていく一つの足掛かりにできたらと思います。


社会システムのダイアグラム(仮説)

まず結論から。まだかなり粗い&大いに間違っている可能性もあるのですが、自分が現地で色んな人の話を聞いた結果、以下のような構造になってるんじゃないかなと推測して描いてみました。

社会システムの構造分析(仮説)

大筋を拾うと、『フォルケホイスコーレ』や、『デモクラシーフェスティバル』、『各政党のユース組織』などの存在により、若いうちから政治に興味を持つ仕掛けができており、それが高い投票率と、その国民からの監視体制による透明性確保+汚職が少ない政治に繋がっているのではないかと思いました。そしてその汚職の少なさや若い感性を持った政治家の存在により、きちんと国民に税金が福祉として還元され、『高福祉・高負担のシステム』が機能しているように思いました。還元先としては、ヘルスケアや教育費など、すべての国民が直接恩恵を受ける場所に還ってきていて、それらが政治への信頼感や暮らしへの安心感に繋がっている印象を受けました。


各要素を見ていく

ここからはもう少し細かく各要素を見ていきたいと思います。要素間の繋がりや、各要素の強弱も含めて記載していきます。

フォルケホイスコーレ

民主主義的思考を育てる学校と言われるだけあって、自分が通ったフォルケでも様々な取り組みが行わせておりました。(フォルケの詳細はこちら参照)

フォルケホイスコーレ(右下:AGORAの様子)

週に1度生徒みんな集まって学校での問題や改善策について議論する『AGORA』という集会があったり、授業の最初にどういう授業にしたいかを話し合う時間があったり、小さい枠組みで日常の課題などに話し合う『OIKOS』というランチ会があったり、より生徒主体で様々なことについて議論していく仕組みが上手く作られていました。また、下で述べる政治のユース組織に所属している生徒が中心となって、あまり関心がない人にも投票を呼びかけたりしており、共同生活している他の生徒からの影響はとても大きそうだと思いました。全国に70校ほどあり、生徒数は30-150と様々ですが、短期滞在も含めると年間約40,000人(参考)に同様の哲学での教育が行われており、この学校が政治関心に与える影響はとても大きいなと感じました。


デモクラシーフェスティバル

デンマークでは年に一度6月に、市民・国会議員・NGO・企業など総勢5万人(参考)が集まるデモクラシーフェスティバルというイベントがボーンホルムという島で開催されます。自分も今年(2024年度)のイベントに参加してきて熱気を感じました。

デモクラシーフェスティバル

このフェスティバルのユニークなポイントとして、音楽祭と表裏一体の構造になっているということかなと思います。有名ミュージシャンのライブ(参考)やキャンプ地でのテント宿泊(参考)も、若者をこのイベントに引き寄せる仕掛けの一つになっているようでした。昼間に真面目な議論をしていた政治家が、夜にDJとして登場したりと、真面目と遊びのバランスが上手いなと思いました。もっと小さな子供達にとっても、各政治のブースで楽しみながら考えるコンテンツがあり、小さい頃から政治について考えるきっかけにもなってそうでした。


政党のユース組織

日本ではあまり馴染みがないですが、デンマークでは10代-20代の時に各政党のユース組織に入ってる人が一定数います。自分のフォルケだと1/4程度の人が入っているみたいでした。

ユース組織(右上:ユースに入ってる人が投票に他の人を連れていく様子)

ユース組織に入ってる友人に話を聞くと、組織の集会ではビールを飲みながら同じ想いを持つ人と交流するらしく、こういうところにもデンマークのアルコール文化が染み付いているんだと思いました。本人たちは当然政治意識が高いのですが、周りへの影響も大きそうでした。自分のフォルケでは、ちょうど欧州議会選挙期間とかぶっていたので、ユース所属の生徒がみんなに呼びかけてみんなを投票所に連れていってました。こういうユース組織の若者を起点にした波及効果も、若者の投票率が高い一因だろうなと思いました。


高い投票率と透明性の高い政治

上記のような民主主義を育む仕掛けの影響もあり、デンマークの投票率は84.26%(2022年)です。一方日本の投票率は55.93%(2021年)で、約30%の差がありました。

高い投票率(左上:若い候補者のポスター|右下:たまたま会ったフレンドリーな前首相)

また、上記のポスターにも表れている通り若い議員も多く、平均年齢は45.7歳(2022年11月時点)で、女性比率は45.3%(2022年11月時点)でした。日本の衆議院の議員の平均年齢が55.5歳(2021年11月時点)で、女性比率が10.8%なのと比較すると大きな違いだなと思います。
フォルケ中に政治好きな友達の影響で、デンマークの人気な政治ドラマ『Borgen』をどハマりして見ていました。このドラマはデンマーク放送協会の監修によってリアリティがとても高く作られており、いかに民主主義国家としての透明性高い政治を行おうとしているのか、映像として学べるのでおすすめです。
ちなみにデンマークは汚職指数において清潔度が2018年から6年連続1位ということでした。


高福祉・高負担システム

デンマークは消費税が25%です。日本の消費税の10%と比べるととても高いなと感じます。他の税も軒並み高くなっており、高負担国家の衝撃を受けました。

高福祉・高負担システム(写真:リーベで売っていたアイスクリーム)

写真は街中のソフトクリームで、中サイズだと37 DKK=777円(1DKK=21円で計算)、大サイズだと49 DKK=1029円でした。日本だとせいぜい400円程度だと思うので、買い物をするたびにため息をついていました。
こんなに税金が高いことに不満はないのか気になったのですが、デンマーク人の88%が喜んで税金を支払っているという調査がありました。(参考
背景としてはやはり、全ての人が高福祉の恩恵を受けており、納税額に見合った見返りを受けていると"感じられている"からというところにあるみたいでした。(日本も福祉の恩恵はあるが、それを十分に感じられていない)


教育費無料とSU

デンマークでは、義務教育から大学を卒業するまで学費が無料です。日本では大学卒業までに安くても1,000万円以上かかる(参考)みたいなので、そこを国が負担してくれるのはとてつもなく大きいなと思います。

教育費無料(写真:Royal Danish Academyの図書館)

また、SUという返済不要の奨学金制度もあり、全てのデンマーク国民が受け取ることができます。こちらのサイトによると、少なくとも年間約46,000DKK = 96万円(1DKK=21円で計算)ほど受け取れて生活費などにあてがうことができます。お金の心配をせずに学生が学業に専念できる、素晴らしい制度だなと思います。
一般的に先進国の方が出生率は低い(参考)と言われていますが、同じ先進国でも日本は1.20(2023年度)で、デンマークは1.495(2023年度)と差が出ているのはこういったサポートの手厚さも一因としてありそうです。


充実したヘルスケアシステム

デンマークはマイナンバーを登録すると、外国人含めて医療費が無料になっています。一方日本は3割自己負担する必要があります。

ヘルスケア(右上:イエローカード|右下:イエローカード申し込みの際にかかりつけ医の登録)

デンマークで90日以上滞在する場合、イエローカード(日本でいう健康保険証)を申請する必要があるのですが、その際にかかりつけ医も一緒に登録します。(参考
日本のようにどこの病院に行ってもいい訳ではなく、このイエローカードに登録したかかりつけ医に行く場合、無料という形になっています。
自分は幸い滞在中に怪我や病気にならなかったのですが、病院に行く場合はかなり前もっての予約が必要だったり、大きな病院で検査が必要な場合もかかりつけ医の紹介状が必要だったりと、多少の不便さはありそうでした。(参考
そういえば、Borgenのエピソード(シーズン2の9話)でも、民間病院に否定的な立場の首相が、公立病院は1年以上待つ必要があるので、自分の子供を民間病院に入れてバッシングされた話もあったなと思い出しました。


フレキシュリティモデルと高い生産性

フレキシュリティとは、柔軟な労働市場を整備して成長産業に労働力の移動をしやすくし、手厚い社会保障で労働者の生活の安全を守る政策です。(参考

フレキシュリティモデル(写真:元ファッションデザイナーで現在ガーデナーの方が手入れした学校の畑)

雇用主は従業員を自由に解雇できる(参考)一方で、失業保険が充実しており、支給期間としては2年間、給与の平均70%程度の保証(参考)を行っています。
そのためか、平均勤続年数は日本が11.9年に対し、デンマークは7.2年と、比較的早いサイクルで転職が行われているようです。(参考
このモデルの影響がどのくらいの大きさかは分かりませんが、1人あたりGDPは日本が33,950ドル(2023年)に対し、デンマークが71,402ドル(2023年)と、2倍以上の開きがあります。(参考


労働者の権利を守る仕組みと休暇の充実

デンマークでは日本と違い、社会人でも夏休みはがっつり休みます。こちらの記事によると、多くのデンマークの家族は、7月中旬から8月上旬にかけて、3〜4週間の休暇を取るらしいです。

労働者の権利を守る仕組み(写真:コペンハーゲンでの平日の昼間の風景)

背景として、労働者が労働時間をめぐって争ってきた長い歴史(参考)があり、労働法が整備されていることや労働組合の影響力が強いことなどがあるみたいです。
ちなみに、デンマークでは労働組合の加入率は67.2%(2016年)と日本の17.3%(2016年)と比べてもかなり高い割合になっています。(参考


あとがき

以上、妄想も入ってるかもですが、デンマークの社会システムがどう全体でワークしていそうか考えてみました。
何人かのデンマークの友達に(北欧は近い構造だと思うのでフィンランドの友達や先生にも)ヒアリングもしましたが、大筋合ってそうな反応を貰えました。特に興味深かったフィードバックとしては、政治への入り口としては『政党のユース組織』が最も影響としては大きいのではないかということや、移民を受け入れすぎたことなど様々な問題で課題が出始めていること。また最も重要なポイントとして、教育やヘルスケアという全ての人が恩恵を受ける箇所の福祉が充実していることによる政治への信頼感が高いことが全体をより上手く循環させる潤滑油になっているという意見を貰えました。
日本の社会はこの循環構造とは違うし目指す必要もないのですが、一部でも参考にできる面はあるんじゃないかなと思います。今後はもう少し各ポイントを深堀調査しつつ、自分なりにどこのポイントが最もインパクトフルか、今後の自分の行動を決める上でも見定めていければなと思います。

(フォルケ生活の記録👉 https://www.instagram.com/hyggelife_yohei/


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