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「企業のESG経営プロセス」     ~ナイキと丸井グループ編~

 私たち(小林・中村・根岸)はESG経営について学部3年の夏から冬まで、半年間かけて研究を行いました。ESGをテーマにしたきっかけは、ESG経営が持続可能な社会をつくる新たな経営として注目されていることを知り、興味を抱いたためです。しかし、実際に起業家などの声を聞く中で、ESG経営は実務家にとって捉えにくく、イメージがしづらいものであるということが分かりました。そこで、ESGが注目されている今だからこそ、ESGを分かりやすく、捉えやすくすることで企業の持続可能な成長に貢献したいという想いをもち、ESG経営を研究することにしました。

目次
1.そもそもESG経営とは?
2.事例①:ナイキのESG経営
3.事例②:丸井グループのESG経営
4.まとめ

1.そもそもESG経営とは?

 ESGとは、それぞれE(環境)S(社会)G(ガバナンス)のことを指しています。ESGという言葉は、2006年に提唱されたPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)で初めて登場しました。またこの3要素を意識した経営をESG経営といいます。PRIにより投資の判断基準としてESGの観点が重要視されたことでESG経営が注目されました。ESG要素は社会の変化に伴い絶えず変化しますが、長期的な企業の成長のためには決して軽視できない要素です。

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 従来、ESGの情報は、環境や社会問題に対する企業の姿勢を重視するため、効果の測定が困難でした。しかし、現在はESG評価機関により企業のESGを評価し数値化する取り組みが行われています。

 そこで、今回はESG評価が高い「ナイキ」と「丸井」の2社について、そのESGのプロセスを研究してみました。その結果、「ESG評価が高い」という点では同じであるものの、2社のプロセスには違いも見えてきました。

2.事例①:ナイキのESG経営

 ナイキは現在、スポーツメーカー売上トップ企業であるほど有名な企業ですが、ESG経営の先駆者的な存在でもあります。このパートでは、ナイキのESG経営について説明いたします。

 ナイキは、1964年に創業者であるフィル・ナイトがブルーリボン社を設立したところから始まります。1972年に、ナイキに社名を変更し、この頃から企業が大きくなっていきます。その後、東南アジアに下請け工場を多く設け、1980年には、米国のスポーツシューズの市場シェアの5割を占めるまでに規模を拡大をしていきます。

 しかし、1997年〜1998年にかけて、ナイキの下請け工場で「児童労働が行われている」と雑誌などで大きく取り上げられてしまいます。また、児童労働だけではなく、工場での搾取労働などの問題も発覚します。

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 その結果、消費者による不買運動が起こり、売上が下がってしまいました。ナイキが不買運動によって失った売上高(1998年〜2002年の5年間累計)で約1兆3764億に及びました。(デロイトトーマツ「シリーズ 人権と数字 第2回」『人権を軽んじる企業には1000憶円以上失うリスクあり』<https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/strategy/articles/cbs/human-rights-2.html>より)

 当時のナイキは、即座にこの状況に対処しました。これこそが、後の「ESG経営」に繋がるのです。創業者であるフィル・ナイトは、

「(この児童労働問題を)改善しなければならない。工場を輝ける見本にしてみせる」

と決意しました(フィル・ナイト(2017)『SHOE DOG』東洋経済新報社より)。改善のための行動の1つとして「監査の拡大」が挙げられます。約50名の工場監査チームを作り、外部の監査人やNGOと協力し、工場の監査を実施しました。また、1998年には、工場の労働条件を改善するために「新しいイニシアチブ」(NIKE,Inc. HIGHLIGHTS 1998Annual Reportより)を発表しました。その後、企業秘密であった下請け工場に関する情報を公開するようになります。これは現在も行われており、ナイキの公式HPで工場の情報を公開しています(参考:https://manufacturingmap.nikeinc.com/)。その後、ナイキは業績が回復しました。

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 現在のナイキは、「Move to Zero」(参考:https://www.nike.com/jp/sustainability)「Girl effect」といった環境や社会に対する活動も積極的に行っています。

 その結果、MSCIによる「ESG Ratings & Climate Search Tool」で高評価を得ています。ナイキは、「自社の危機脱却のための環境・社会課題への取り組みがESGとして評価され、企業全体の評価向上につながった」と結論づけました。また、早くからESGに取り組んでいったことで、ESGの先進企業としての地位獲得に成功したと考えられます。ナイキでCSO(最高サステナビリティ責任者)・イノベーション推進担当副社長を務めるHannah Jones 氏はナイキのESGについて、次のように語っています。(Sustainable Japan『【アメリカ】ナイキが語る「サステナビリティ」と「イノベーション」』< https://sustainablejapan.jp/2014/09/10/nike-sustainability-innovation/11984>より)

「ナイキにとってのESGとは、リスクは管理すべき『危機』でもあり、前進させる『機会』でもある。」

 つまり、ナイキは危機に対処・管理を行いながら、この危機を企業の評価向上に活かしたのです。

3.事例②:丸井グループのESG経営

 次に、ナイキとは全く違う角度からESGに挑んだ丸井グループ(以下:丸井)についてご紹介していきます。

 丸井のESGは、若者の”百貨店離れ”が進む中で、青井社長がESGと出会うところから始まります。丸井は、2005年にCSR推進部の設置を始め、従来から企業の社会的責任を重視した取り組みを行ってきました。

 しかし、2007年頃、従来の百貨店のビジネスモデルが陳腐化したことにより、業績が低下してしまいます。そこで、青井社長が取った行動こそがESGを意識した組織変革でした。当時のことについて、青井社長は次のように語っています。(日経BizGate丸井グループを救った本気度100%のESG経営 青井浩社長、自著「サステナビリティ経営の真髄」を語る<https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZQOLM22APW022082022000000/>より)

「07年は深刻な経営危機に陥っていました。百貨店や総合スーパー(GMS)中心のビジネスモデルが陳腐化し、『ヤングの丸井』といった強みも薄れていました。(中略)その時にESGに巡り合い、徹底的な意識変革を決断しました。改めて『私たちは何のために働いているのか』を問い直しました。」

 ESGとの出会いを機に、徹底した意識変革を決意した青井社長は、2011年にビジネスモデルの変革を行いました。さらに、ESGやサステナビリティを促進するための組織変革・新部署の設置にも取り組みました。2015年にIRの専任部署を、2016年10月にESG推進部を設置し、機関投資家との対話や情報開示を積極的に行いました。

 意識変革のため、まず青井社長が注力したのが手挙げの文化と対話の文化です。このことによって、社内公募の仕組みを実現し、従業員が積極的に取り組む組織体制を構築したのも丸井のESGの強みです。組織変革後に行われた丸井のサステナビリティへの取り組みは公式HPをご覧ください。(参考:https://www.0101maruigroup.co.jp/sustainability/)

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 その結果、丸井は2019年3月期は連結営業利益が10期連続増益、株価はこの5年余りで2倍以上になっているのです。また、東洋経済新報社が行った「ESGランキング2020」で、400満点中392.9点と、高評価を得ています。ここまでをまとめると、丸井は、「危機脱却のため徹底した意識変革を行い、内部からESGに取り組む組織体制を構築した」と結論づけました。また、青井社長は次のようにおっしゃってます。(日経BizGate丸井グループを救った本気度100%のESG経営 青井浩社長、自著「サステナビリティ経営の真髄」を語る<https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZQOLM22APW022082022000000/>より)

「利益が出ているからESGを実践しているのではなく、ESGを継続したからこそ成長も可能になった。」

 現在は2030年度までに店舗における再生可能エネルギー調達100%を目指すグリーンビジネスの推進や社会貢献事業のベンチャー支援も推進しており、今後の動きにも目が離せませんね。(参考:丸井グループ『長期目標への進歩|ビジョン2050』<https://www.0101maruigroup.co.jp/ir/management/progress_01.html>)

4.まとめ

 ここまで紹介したナイキと丸井のESG経営ですが、どちらもESG評価機関から高評価を得ているという共通点がありました。しかし、同じことをしていたわけではなく、それぞれの企業でプロセス・取り組み方が違います。ここから、一言にESGといっても様々であり、「組織を超えた課題解決に力をいれる企業」と「組織内の改革に力を入れる企業」という分類ができると考えました。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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調査・作成 小林陽・中村涼楓・根岸奈愛
監修 井上達彦


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