中川

希少品のSPA業態を可能にするバリューチェーン構築            ~ビジネスモデル分析紹介 中川政七商店編~

 中川政七商店は、1716年に奈良で麻製品のメーカーとして創業し、現在では麻製品の製造・販売に加えて、伝統工芸品を中心とした日用雑貨の企画・販売を行う企業です。
 伝統工芸品業界市場全体が衰退していく中で、中川政七商店は業界で初めて自社製品を直営店で販売するSPA業態を確立し、15年で売上高を約5倍の52億円まで伸ばすという驚異的な成長を遂げました。直営店を出店すれば、売り上げが伸びるというのは一見普通にも見えるかもしれません。それにもかかわらず今まで誰も直営店を出店しなかったのは、伝統工芸品メーカーはある理由から、直営店を運営するために必要な商品数を揃えることができなかったからです。中川政七商店は、この課題を業界で初めて解決し、直営店の出店を可能にしました。どのように解決したのでしょうか? 早速ご紹介しましょう。 

目次
1. 伝統工芸品メーカーはなぜ直営店を出せなかったか
2. 中川政七商店の打ち手①~成長を続けるメーカーとの協業~
3. 中川政七商店の打ち手②~業界特化型コンサルティング~
4. まとめ

1. 伝統工芸品メーカーはなぜ直営店を出せなかったか

 中川政七商店の成長のきっかけは、直営店の出店でした。下記は中川政七商店の売上高(棒グラフ)と店舗数(折れ線グラフ)の推移を表した図ですが、売上高と店舗数はほぼ比例する形で伸びています。

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出典 :Motivation Cloud 導入事例 中川政七商店
https://www.motivation-cloud.com/hr2048/4002/
 

 実際に13代目社長の中川政七氏もご自身の著書である『日本の工芸を元気にする!』(東洋経済新報社)で、下記のように直営店の重要性を強調しています。

「店という消費者と直接コミュニケーションできる場を持てば、私たちが何者なのか、どんな思いでものづくりをして、それを使う人の毎日をどんな風にしたいと考えているのかを様々な手段で伝えられる。その価値観や世界観に共感してくれる人が増えれば増えるほど、中川政七商店のブランド力は高まる。」

 直営店を運営していくため大事なことは、豊富な商品を揃え、店舗の鮮度を保つために定期的に新しい商品を店頭に並べることです。そうしなければ、消費者が店舗に新鮮味を感じなくなってしまい、徐々に来てくれなくなってしまいます。実際に私達が中川政七商店のお客さんにインタビューをしたところ、「月に一回くらいは商品が変わるので来ます。」(60代女性)や「ワンシーズンに1回くらいは来るようにしていて、毎回違うものを買うようにしています。」(20代女性)など商品の入れ替わりを楽しみに、継続して来店しているお客さんがいらっしゃいました。
 しかし伝統工芸品業界では、一つのメーカーが有田焼なら有田焼、輪島塗なら輪島塗といったように一品目しか作っておらず、また、手作業であることから大量生産も難しいため、豊富な商品を揃えることは簡単ではありません。中川政七商店も例外ではなく、自社での生産が可能なのは麻製品のみでした。
 こうした課題を抱える中、中川政七商店はどのようにこの直営店と伝統工芸品の相性の悪さを克服したのでしょうか?中川政七商店がとった手は、①成長を続けるメーカーとの協業②不安定なメーカーへの業界特化型コンサルティングでした。この二つの打ち手によって、多くの種類の商品を確保することができるようになったのです。

2.中川政七商店の打ち手①~成長を続けるメーカーとの協業~

 まず、一つ目は、衰退する業界の中でも成長を続けるメーカーと手を組んだことです。中川政七商店はいくつかのメーカーとコラボ商品を開発しています。その一つである中田工芸は、日本で唯一のオーダーメイドハンガーのメーカーです。多くのメーカーが販路の拡大に苦しむ中、中田工芸はまだ黎明期であったインターネットにいち早く着目し、ECサイトを開設し販路を開拓しました。また、2007年には、青山にショールームを設け顧客が直接ハンガーを試して、オーダーすることができるショールーム(下記の写真)を青山に設けました。近年では海外での展示会を行い、実際に香港、南アフリカから受注するなど海外での売り上げも伸ばしています。

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青山のショールーム(中田工芸HP http://www.hanger.co.jp/ より)

 中田工芸のような挑戦を続け成長していくメーカーと手を組むことで、中川政七商店は商品の品揃えを徐々に増やしていきました。しかし残念なことに、伝統工芸品業界では中田工芸のようなメーカーはほんのわずかしか存在しません。多くのメーカーはいつ廃業してもおかしくない状況です。そこで、中川政七商店はそのようなメーカーを救い、長期的なパートナーとなるために二つ目の打ち手を行いました。


3.中川政七商店の打ち手②~業界特化型コンサルティング~

 二つ目は、自身の経営を立て直したノウハウを応用した業界特化型コンサルティングを、経営の立ち行かないメーカーに対して行ったことです。
 実は伝統工芸品メーカーにおいては、帳簿もまともにつけていない、在庫も管理できていないというのは珍しいことではありません。職人は工芸品を作ることに関してはプロフェッショナルですが、どの商品がどれだけ売れているのかも分かっていないことが多いのです。中川政七商店のコンサルティングによって蘇ったメーカーの一つとして株式会社タダフサがあります。タダフサは1948年創業の、70年以上の歴史を持つ家庭、業務用の包丁のメーカーでしたが、近年売上が大きく落ちこんでいました。そこで、中川政七商店のコンサルティングが始まりました。まずは業務改善です。約900種類もの自社製品を70種類まで絞り、不良在庫を無くしました。次に、問屋に頼らず消費者に直接販売するため、一般消費者向けの新しいシンプルなブランドをつくりました。「初心者用」「ステップアップ用」という二つの切り口で最低限必要な7本を選定し、そのうちのパン切り包丁を中心に売り出したのです。デビューとなる展示会で一般的なパン切り包丁とタダフサのパン切り包丁を用意し切り比べてもらったところ、タダフサのブースは大にぎわいとなり、目標を大幅に上回る受注件数と金額を達成しました。中川政七商店は家庭教師のような形で、経営の健全化から、新ブランドのコンセプト作り、パッケージなども含む商品企画、マーケティング、受注獲得までを一貫して指導しました。
 こうしてできた商品は中川政七商店でも販売されます。メーカーは販路を確保し、中川政七商店は商品の種類を増やすことができるのです。

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基本の3本、次の1本 (庖丁工房タダフサHP http://www.tadafusa.com/より

4.まとめ

 このように中川政七商店は、成長を続けるメーカーとの協業と、業界特化型コンサルティングによる赤字メーカー立て直しによって豊富な提携先を確保し、豊富な品揃えを実現することができたのです。そして、バラバラに生産された商品を集めて売る従来の伝統工芸品を扱う小売店とは異なり、企画段階から関わることにより、商品に統一感を出すことに成功しました。こうして中川政七商店は業界で初めてSPA業態を確立し、驚異の成長をしているのです!
 これを研究室独自のフレームワークに当てはめると以下のようになります。

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 以下のスライドシェアにもパワーポイント形式でわかりやすく解説してい るため、そちらもご参照ください。
https://www.slideshare.net/inoueseminar?utm_campaign=profiletracking&utm_medium=sssite&utm_source=ssslideview

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