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ポータブルCDプレーヤーとジャケ買い

最近レコードプレーヤーを新調した。

長野に移住してからレコードを買うところがわからなくて困っていたけれど、好きなレコード屋を見つけて、知らない音楽に出会うのはやっぱり良いなあ、と。そんなことを考えていたら、10代のころCDを買ってた頃の気持ちを少し思い出した。

高校生のあの頃、ipodもまだ持ってなくて、配信サービスなんてまだまだ先のことで、同世代の友達も一番使ってたのはMDだった。自分で選曲したオリジナルのMDを作ったりしたのも良い思い出だけれど、なにより僕の音楽(ファン)人生のなかで一番熱かったのはポータブルCDプレーヤーだ。
MD同様ポータブルCDプレーヤーのことを知っている人もいつかいなくなるんだろう。けれど僕にはとても大事な思い出だ。







当時、高校では帰宅部で帰ったらほとんど毎日スケートボードをして過ごしていたが、そのための小遣い稼ぎにも、たまに日雇いのコンサートスタッフのアルバイトをしていた。
まる1日働くと1万円前後のバイト代が貰えるので高校生の僕には月に数日バイトするだけで十分な収入となった。そのバイト代でスケートボードのパーツを買ったり、服を買ったりしていたのだが、もう一つの使い道がCDを中心とした音楽だ。

レンタルショップにも良く行っていたが、音楽を聴くことに熱を帯びてきてからは、中古のCDショップなどで新しい音楽を探していった。特に気に入っていたのは、自宅から自転車で10分ほどの中古CDショップだ。6畳ほどの狭い店内に所狭しとCDが並べられていて、そのほとんどが知らないミュージシャンのものだった。特にレビューなどもなかったので、そこでの購入はほとんどジャケット頼み。いわゆるジャケ買いだ。カッコいいジャケットだったり、好きなジャンルのものを選んで買っていた。

そこで手に入れたCDはたまに好みではないこともあったが、新しいものも古いものも刺激的な音楽が多く、偶然出会った喜びも加味して素晴らしい音楽体験となった。
急いで家に帰ってすぐに封を解き、ミニコンポでさっそく聴く。初めて聴く音楽に高揚して悶えた。「くぅ~~!かっけぇー!!」
こういう感じのジャケットはこんな感じの曲だな、とわかるわけではないが、好みと違うものを引くことも減っていく。何度も新たな刺激を求めてCD屋で出会いを求めた。

そうやって音楽に対するワクワクが増幅されていった結果、家に帰るまでの10分ほどの時間が辛抱できなくなっていった。全然待ちきれない。無理過ぎた。そこで手に入れたのがポータブルCDプレーヤーだった。

ポータブルCDプレーヤーとは文字通りCDを持ち歩きながら聞ける端末のことだが、それ自体は僕が中学生のころから存在していた。しかし、ひどく振動に弱く正直使い物にならなかった。すこし揺れるだけで音が止まってしまうのだ。けれど僕が高校生の頃に買ったちょっと進化したポータブルCDプレーヤーは違った。多少の揺れにはびくともしない。少し大きかったり、バッテリーのもちなど面倒はあったがそれでもその時のベストであった。

ポータブルCDプレーヤーを手に入れた僕は最強だった。行きつけの店で手に入れたCDを抱えてすぐに人がいない小道に入る。すぐさま封を剥いで、ポータブルCDプレーヤーに入れる。イヤホンとプレーヤーの間にある再生ボタンを押す。渋いブルースやソウル、コンピレーションアルバムを買うことも多かった。何曲目か……「ギュィーン…」

ギターが聴こえる

「ギュィーン ギュィーン ギュイーン ドカドカドカドカ…!」
ドラムス!!鍵盤!!

他の楽器の音が重なっていく。


「……また出会ったーー!!!」と叫びたいような気持ちになりながら自転車を漕ぐ。
帰り道の風景が変わった。
楽しくて少し遠回りをすることも少なくなかった。


その後iPod、そして配信サービス、iPhoneなど便利な道具によってポータブルCDプレーヤーを使うことは一切なくなったが、今でもあの時の音楽への純粋な好奇心と刺激的な鑑賞体験は忘れることはできない。

また、ジャケ買いしたくなってきたなあ。


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