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クリストファー・ノーランの原点、驚異の自主映画『フォロウィング』映画評
クリストファー・ノーランの最新作『TENET テネット』が公開されました。
コロナ禍によって映画館での映画鑑賞という行為が危機的な状況にある中で、映画が再び活気を取り戻すための希望の星ともいえる大作です。今、クリストファー・ノーランは、映画業界人と映画ファンの期待を一身に集めていると言っても過言ではないでしょう。
ノーランが6000ドルで1年かけて作った自主映画
今や映画業界を背負って立つノーランですが、デビュー作から既に非凡な才能を見せていました。
そんなノーランの記念すべき第1作である『フォロウィング』。
1998年、ノーラン28歳のときに作られたこの作品。なんと制作費6000ドルで、仕事の合間を縫って1年かけて撮影したという完全なる自主映画なのです。
監督・脚本・製作・撮影・編集の5役をこなしたという兼業ぶりを見ても、紛れもなく自主制作であることがわかりますね。にもかかわらず、自主映画のレベルではないです。
本作は英国インディペンデント映画賞と第28回ロッテルダム国際映画祭を受賞しているようで、出世作である次回作の『メメント』を制作する上で大きなステップになったであろうことが想像できます。
映画の内容はこうです。
作家を目指す男・ビルがネタ探しのために街で見かけた見ず知らずの人を尾行していると、尾行していた男・コップに気づかれてしまう。コップは空き巣を生業としていて、ビルはそそのかされるままにコップとともに空き巣を行うようになって……という話。
ミイラ取りがミイラになる話かと思いきや、実は最初のミイラはミイラではなかった、というようなひねった展開になっています。
男が悪に手を染めて堕ちていくサスペンスで、フィルム・ノワールな雰囲気が素晴らしい。
ある男と出会ったことがきっかけで犯罪の抗いがたい甘美な魅力に惹かれていき、身を滅ぼしていく展開や、空虚な登場人物たちの様子はどこかロベール・ブレッソンの『スリ』を彷彿とさせます。
モノクロで撮っているというのはフィルム・ノワール調を出すためだとは思いますが、自主制作の映像の質を良く見せる上でも、モノクロが一役買っているようにも思えます。
1作目から炸裂するノーラン作品のコア「切り刻まれた時間軸」
ただ、やはりこのモノクロのサスペンスというのは、映画の歴史へのリスペクトという意識があったのかもしれません。CGを使わずかつてのスタジオシステム時代のように大掛かりなセットを組んで撮影したり、フィルムを使うといった、映画の伝統的なものへの強いこだわりを持つノーランならおそらくは。
しかし、映画に対して徹底して伝統主義の姿勢を見せるノーランから、『インセプション』『インターステラー』『TENET テネット』のようなラディカルな作品が生み出されるというのがノーランの面白いところです。
『フォロウィング』では近年の作品のようなラディカルさはまだ顔を見せてはいません。ですが、第1作目にして既に、ノーランの作家性のコアともいえる切り刻まれた時間軸が炸裂している点は、特筆すべき点でしょう。
ここから『メメント』の時間軸の逆回しに繋がり、『インセプション』の時間感覚の拡張に繋がり、『インターステラー』の時空を超えた愛に繋がり、そして『TENET テネット』の時間の逆行に繋がるわけですね。
想像ですが、ノーランの不定形な時間へのこだわりは、時間を自在に編集できる映画というメディアそのものへの意識から来ているように思えます。メディウムスペシフィシティ、つまり映画を映画足らしめているものへの自覚的な表現が根幹にあるのではないでしょうか。
とにもかくにも、『フォロウィング』はまさにクリストファー・ノーランの原点。ノーランという映画作家を理解する上で、観ておきたい一作です。『TENET テネット』を観る前や観たあとにぜひ。
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