音楽と凡人#05 "メンバーを探す旅、くだまき本舗そしてGOZORO’Pへ"

 大阪に引っ越して数ヶ月で私とベース、ドラムの三人が揃い、定期的にスタジオに入ってオリジナルの曲を合わせていた。演奏は拙かった。完成度の高い曲もない。しかしその不完全さがロックバンドへの幻想を加速させていた。多くの人がいずれその夢から覚め、一握りの人間がその夢を多数の聴衆の脳内へ充満させる。それはどこまでいっても実体のない風のような気がする。気がするとしか言えない。

 そんな中、このリュウキとは別に、昔バンドを組んでいた同級生のドラマーから久々にスタジオで音を出して遊ぼう、という連絡があった。アキラは中学一年の時に出会いくだらないケンカをたくさんした後、一番仲良くなった地元の同級生である。高校も大学も違ったが定期的に会って、相変わらずくだらない話をする仲であった。大阪梅田のスタジオでなんとなくのジャムセッションをした。

 「そんな感じのドラムやったっけ?最近ファンクとか聴いてるん?」

 「いや、特にそういうわけでもないけど。ドラムはちょくちょく叩いてるな」

 以前アキラと組んでいた時のイメージと違った。率直にいうと自分の好きな感じであった。技術がすごいと言うより、楽しくなりそうというイメージが心に湧いた。音楽を表面的に分類することはいくらでもできるが、本質的にはやはり言語化されない言語だと思う。無数の言葉を交わしてきたもの同士だと、音楽理論やセオリーをなぞらなくてもその場で音を合わせることができるのだと思った。リアルタイムで感情を共有し、脈打つように空気に波を起こす。確かなものではないが、小さなロックの芽のようなものをその日見た。

 スタジオのミーティングスペースで近況を話しながら、互いになんとなくそわそわしていた。アキラは大学卒業後就職し、社会人として立派に働いていた。私は相変わらず自分には何かできると思い込んでアルバイトをしながらふわふわとした生活を続けていた。メンバーはひとまず見つかったし、なんとなくながら動き始めようとしていたところであった。この日にどこまで込み入った話をしたか今は覚えていない。適したストーリーを作ってもよかったが、覚えていないと書くことでバンドの始まりは恋愛のように始まりが曖昧なものであると表現できるかもしれないと思った。恋愛という例えでいくならば、浮気である。でもそれは適切ではない。

 理想のバンドを組む為に、時として人情に背く選択をしてしまうことがある。私は自分から巻き込んだリュウキに、新しいドラムと出会ったからもしキーボードをやってくれるならこのまま一緒にバンド活動をしようと伝えた。リュウキは子供の頃ピアノを習っていた。心の優しい彼はそんな訳のわからない提案を一度受け入れてくれた。私とベースのミズモト、キーボードのリュウキ、ドラムのアキラ、そしてギターにアキラの弟のユタカ、この五人で梅田のスタジオで音を合わせることとなった。そのスタジオを最後にリュウキはバンドを抜け、残る四人、全員地元の中学の同級生で「くだまき本舗」、のちの「GOZORO’P」というバンドを結成することとなった。

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