音楽と凡人#03 "メンバーを探す旅、京都編2"

 夜中に開いている店はコンビニくらいしかない。昼の観光地らしい賑わいは嘘のように、18時以降は山と川に包まれた静かな風景に切り替わる。京都市内の右端、嵐山。その魅力を言葉で語るとありふれた観光案内のようになってしまいそうで、できることならば直接案内をしたい。様々な考えを頭の中に巡らせ、本当によく歩いた。どんなに恥ずかしい感傷的な気分も静かに馴染んでしまうような隙間のある景色だ。たくさんの種類の緑色が一つの画面に詰め込まれたような渡月橋から見える山々、その傍を歩き近づいて行くと1枚の写真が無限の立体へと連続的に変化していくようである。

 大学を辞めてから半年以上が経っていた。普通の大学生ならば4回生の冬、就職先も決まり最後の学生生活を謳歌している頃だろうか。社会に出て働くということが自分に関係のあることだとは子供の頃から思ったことがなかった。当たり前のように新しいバンドのことについて考えていた。川の流れる音が背中で小さくなっていくのを感じながら原付でコンビニへと向かう。中学の同級生であるミズモトとなんとなく待ち合わせをしていた。遊びに行くという言葉が飲みに行くという言葉になかなか変わらない私は煙草とカフェオレさえあれば何時間でもコンビニの前で話すことができた。

 「ドラム誰かおるかな」
 「まぁ言うてギターもおらんよな」

 中学校に入る頃にはすでに音楽をやろうと思っていたが、帰宅部がなかったために一番練習が楽そうだと思ったバドミントン部に籍を置いた。そこで出会ったのがミズモトである。中学の頃からよく遊んでいたわけではないが、その後地元から少しだけ離れた高校へ入学した時、一人で軽音楽部の見学に行くのが億劫だった私は楽器経験のない彼を無理に連れて行った。最終的に私は学校のスタジオの割り当てを決めるミーティング以外ほとんど何のイベントにも顔を出さなかったが、ミズモトは部員とも仲良くなり、音楽関係の専門学校に進んだ。私は高校で進路を決める時にはミュージシャンではなく芸人に憧れていて、大阪にあり学生数が多いと言う理由で関西大学を選んだ。高校卒業後は互いに何をしているか知らなかったが、気づけばまたよく会うようになっていた。

 「メンバーってどうやって探すんやろ」
 「まぁとりあえず大阪引っ越してみよかな、人多いし」

 小学校高学年の頃、通学路の工事開始の看板に書かれた数年後の建築完了予定日を見て、それは永遠に完成しないように思われた。いつ完成したかもわからなくなった頃、私は京都から大阪へ出た。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?