読書note|『歴史をつかむ技法』

歴史の学びにもきちんと技法と言えるだけの正しい思考の方法があるのです。技法と言うと単なるハウツーと勘違いされそうですが、歴史を学び、探求する上で必要な、理性的で、論理に沿った、基礎的な思考の方法のことです。

山本博文「歴史をつかむ技法」はじめに

 この本を料理本だとすると、定番メニューと共に包丁の使い方などを書いてくれている本である。購入履歴を見ると4年半前に買っていた。歴史を学び直そうと思っていい本がないか調べた時にこの本がレコメンドが多かったので選んだ。選んでよかったと思う。


  • 山本博文「歴史をつかむ技法」

  • 新潮新書 2013年10月17日発行

  • 255ページ


 世の中にはわからないことが多すぎて、何かを知ろうとした時に何から手をつけていいのやらわからず、迷っている間に興味がうすれてしまうということは珍しくない。この本を最初に選んでよかったと思った理由は、何か一つの正解やサプリメントのような知識を提供してくれるという態度ではなく、現在は何が一番信憑性が高いと考えられているかそしてそれはどのような経緯でそう考えられているか、というような態度で書かれているということである。語り口からも著者の誠実さが伝わってくる。

しかし、「幕府」は中国を起源とする言葉で、元々は出征中の将軍が幔幕を張って宿営しているところを指し、これが転じて日本では近衛府や近衛大将の居館を指す言葉となり、武家政権のことを指すようにもなるのですが、一般に幕府と広く呼ぶようになったのは、なんと江戸時代も末期になってからのことでした。しかし、歴史学ではこの言葉を借りて、鎌倉時代以降の武家政権の統治機構を統一して「幕府」と呼んでいるのです。

山本博文「歴史をつかむ技法」第一章歴史のとらえ方

 これについて私はこの本を読むまで全く知らなかった。日本史の教科書という今以外の過去を全てラベル付けしてパッケージングしたものしか読んでいなかったので、武家政権という概念を統一的に示すために便宜的に幕府という語をつかっていることを知らずにいた。歴史用語にはこのようなことが多くあり、そう考えれば「日本」という国号について疑問がうまれ、あるいは日本人という感覚がいつから芽生えたものであるかということにも疑問が及んでくる。「鎖国」という言葉について書かれたところも面白かった。

しかし、歴史に限らずおよそものを学ぶにおいては、むしろ多少アバウトでも、同じ物事を複数の視点から繰り返し見ていくことが大事だと思います。個々のパーツを細密に仕上げてからそれをパズルのように組み立てるのではなく、油絵を描くときのようにまずデッサンをして、全体を捉えてから少しずつ細部を描き込み、また色を重ねていく感じだと言えば良いでしょうか。

山本博文「歴史をつかむ技法」序章歴史を学んだ実感がない?

 この部分は非常にハッとさせられ、大事にしようと思う態度である。間違えたくない、正しいものを効率的に得たいという思いが自分にも起こってしまうが、本屋の平積みされている本を眺めてみるとそう思う人は多いようである。まわり道かどうかはさておき、どこまでも歩ける足を鍛えること、歩くことそのものを愉しみにしたい。

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