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本についての所感

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#読書の秋2020

神々の戦い:倉橋由美子著『城の中の城』を読んで

 いろんな国へ渡っても、最後は生まれた場所へ戻ってくる鳥のように、気がつけば倉橋由美子氏の作品を読み返している私がいます。

 氏の作品はその時期によって文体から受け取るイメージが異なり、初期には翻訳文学を思わせる鉱物的な文章であったのが、作品を追うごとに柔らかく、植物的に変わってゆきます。そして最後の小説作品である『酔郷譚』に至っては、酒をテーマにした短編集ということもあってついに水のように滑ら

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文字噛み砕く音のする:中島敦著『文字禍・牛人』を読んで

 この週末はいちだんと冷えこんで、私の街でもそろそろ雪が積もりそうな気がしています。

 私はもともと雪国の生まれではなく、ご縁があって今の町に住んでいるわけですが、何年もいると厳しい冬にも愛着がわいてくるものです。

 そもそも小さい頃から親の都合で転勤が多かったものですから、生まれ故郷と呼べるような町がありません。前の町ではそこが一番だと思っていましたし、今はこの雪国が一番だと思っています。ま

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花蕊の下に冴えて在るもの:瀬戸内寂聴著『花芯』を読んで

 昨朝目が覚めると外が薄い雪化粧でした。夜中のうちに結構降ったのでしょう、家の前に白く積もっているのを見ていると街も心も一気に冬めいてくるようです。
 根雪とまでは至らぬために、昼過ぎにはほとんど綺麗に融けてしまいましたが、そう遠くないうちに本格的な冬が到来することと思います。

 そんな風で、世情と寒さに家の戸をしっかり塞がれているものですから、することと言えばやはり小説を書くか本を読むかしかな

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禁断の遊戯:倉橋由美子著『夢の浮橋』を読んで

 私は倉橋由美子氏の作品をこよなく愛しており、折に触れて氏の作品を読み返す日々を送っています。

 コロナ禍で休みの日も家にいることが多く、氏の作品を読む機会にも恵まれているこの頃、ただ読んだだけで終わらせるのは勿体ないと思い、備忘録も兼ねてこうして所感を書き留めておくこととしました。

 あくまで所感ということですから、作品についてあれこれ批評をするつもりはありません。そもそも敬愛する氏の作品を

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