見出し画像

『ブーバーに学ぶ』 ブーバーの存在を知らなかったことを後悔させる1冊だ(イスラエル)

 ロシアとウクライナの戦争のおかげで思考の幅が広がった。その中にひとつに「ブーバー」がある。その存在すら知らなかった、という自分の無教養さに悔しさを覚えるほど現代の世界に必要性の高い哲学者だ。

 イスラエルを建国したダビット・ベングリオンのチンの荒野にある晩年の自宅にも訪れたことがあるが、そのとき、ダビット・ベングリオンの功績やヘルツェルの功績に共感を持っていた自分がいた。したがって、イスラエルを理解したいと、ユダヤ教を学び、彼らの歴史や文化を学んだ。すると、ユダヤ人という他者を知ろうとすればするほど、日本人とは何かを知る必要性が出てくる。「差異」が知りたくなるのだ。したがって次は、日本人とは何かを勉強することになり、そうすることでユダヤ人への理解がさらに深まることになるのだが、同時にユダヤ人とパレスチナ人との関係において、ユダヤ人を根本的に理解することができない自分がいた。それはおそらく、河合隼雄さんのいう日本人の中にある中空構造的な本質がそうさせるからだろう。以降はパレスチナ人のことを勉強するようになる。これはまさにH.G.ガマダーの「地平の融合」だ。

 ブーバーは「我と汝」という哲学をハシディズムから提唱し、ユダヤ人でありながら、イスラエルとアラブの和解のために尽力した。したがって彼は、ダビッド・ベングリオンの国家的問題を最優先する姿勢とは違い、人類的な視野を持っていたのだ。彼の思想は、フロイトやユングのいう無意識に対する捉え方とも違い、肉体と魂が分かれる以前の本源的で全一的な領域と捉え、神性を与えている。私のように日本人としてイスラエルとパレスチナの関係を考える場合とイスラエル人としてその関係を考える場合とではアプローチの違いはあるのだろうが、行き着く考え方にそれほど差がないことを本書で認識することもできた。

 また、本書を書いた斎藤啓一さんは、ホスピスのカウンセラーのようだが、実に分かりやすくブーバーの哲学を解説しているので、フランクルの解説書も読んでみたくなり、注文してしまった。システム工学では「人間=A+BX」と定式化しているが、これをベースにユングやガマダー、ブーバーなどの考え方をまとめておく必要性が高いと本書を読みながら痛感した。なぜなら、日本は移民と共生せざるを得なくなるすぐそこの未来に対し、ベースになる指針が必要になることだけは確かだからだ。本書によって、いずれ機会が訪れたらまとめておきたい衝動にかられてしまった。近未来の日本社会のインサイト(マスクドニード)は、ブーバーを学ぶことでくっきりと認識することができるだろう。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。