【詩】ふるさとの風
堅く強固で、岩盤のような風。
正しく、清らかな蜘蛛の糸を張り巡らせる風。
低い唸りのような風音。
嬲り、恫喝されるたびに血液が揺さぶられ、
白く濁った液体を吐瀉した。
あの風はいつも、向かい風だった。
今から、逃げ出すための未来。
綿菓子のようなふわふわした夢。
風はいつも、行く手を阻んだ。
「愛」という正当な理由を振りかざし。
一秒もそこにいたくなかった。
脱獄するよりほかなかった。
騙し、欺き、汚れ、それでも逃れたかった。
そして、手に入れたかりそめの無風地帯。
それを、幸福と呼んでいる。
どれほど幸福を装っても、
しょせん逃亡者。
今でもあの風音が
耳の奥底から、
腹の奥底から、
響いてくるではないか。
逃げても逃げても追いかけてくるあの風。
内蔵を縮み上がらせ、鈍い痛みを与える。
疲れ果てふいに鏡を見る。
そこには、まんざらでもなく、
うっすらと微笑みを浮かべる顔がいるのだ。
その顔は妙に薄気味が悪かった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?