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「いのち知らず」を鑑賞して

はじめに

ご無沙汰しております。書くネタがなくてしばらく更新をお休みしていました。

さて、今回は先日鑑賞した、M&Oplaysプロデュース「いのち知らず」についての感想を述べていきたいと思います。できるだけネタバレを避けますが、最後に少しネタバレがありますので動画配信等で鑑賞される予定の方はご注意ください。なお、ネタバレ部分はきちんと明記します。

岩松了の脚本

「いのち知らず」について語る前に、まずは皆さん岩松了さんの脚本を読んだことってありますか?私は大学生のころ拝読した「シブヤから遠く離れて」が初めての岩松作品だったのですが、感想は「なんじゃこりゃ」でした。いや、私の勉強不足に因るところもかなりあるのですが、やたら「まぁ」とか「いや」とか文字に起こされることが少ない言葉が台詞として書かれてあって混乱しますし、何より「この人は一体何にそれほど引っかかっているんだろう?」と思うような理解できない登場人物の行動が多々ありました。「そんなに怒る?」とか「それ気になるか?」というツッコミどころなのかどうかも判然としない場面が多数存在します。

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続いて読んだ「青い瞳」も同様でした。こちらは「シブヤから遠く離れて」や他の作品に比べても少し異質で、3時間を超える超大作です。全体的に陰鬱な雰囲気が漂っており、終始息苦しさを感じます。

ここまで書くと「え?岩松作品嫌いなの?」と思われてしまいそうですが、決してそんなことはありません。むしろ逆です。私は両作品を通して岩松作品には決してすべての意味を理解していない、むしろほとんど理解できていないのに、それ故に読み手、つまり観客に思考の余地があるという不思議な魅力があることに気がつきました。「何でこんなことを言っているんだ?」という疑問は別に演劇のなかだけの話ではありません。日常生活でやりとりされるコミュニケーションのほとんどを私たちは瞬間的にある意味勝手に解釈して、理解したつもりになっているのです。それを理解したつもりにさせない岩松さんの脚本に私はいつの間にか虜になってしまいました。(いつか「青い瞳」を上演してみたいと淡い夢を抱いております…。)

ちなみに岩松作品を観劇するのは「二度目の夏」以来2回目になります。「二度目の夏」は男女にスポットを当てた作品だったので、今回はまた毛色が違う作品を観られそうです。

いのち知らず

そんなこんなで期待値爆上がりの中での本公演、「いのち知らず」です。豪華キャストに彩られた2時間はあっという間でした。時間を意識したのは暗転のときだけです。というより、他のことを考えてると舞台で起きていることが分からなくなってしまうので、全身全霊をもって鑑賞させていただきました。

まず、キャスト。

半端ないですね。ずっと観ていたいです。勝地涼さんのパワーとキレ、仲野太賀さんの溢れ出る主人公属性、新名基浩さんの不安定さの中にある安定感、岩松了さんの独特なキャラクター、光石研さんの強さと弱さが同居している感じ…最強の布陣で上演しているんだろうなぁと感じました。きっと今回の脚本も余白の多いセリフがたくさんあったと思うのですが、役者の方から聞こえる台詞は全てに意味がのっていて、当たり前ですが「やっぱりプロだなぁ」と感動してしまいました。岩松作品のように台詞一つ一つの解釈の幅が広い作品は役者によって大きく方向性が変わりそうで、そこも作品の魅力なんだと思います。

次に、演出。

会場に入った瞬間のあの舞台上の圧倒的な存在感。岩松了さんはいつもガッツリ装置を組むイメージがありますが、今回もガッツリでしたねぇ。30分ほど開演まで時間がありましたが、「この道具はこう使うのか?」とか「はけ口はそことあそこと…」と考えていたので楽しく時間を過ごすことができました。額縁舞台では装置を最初から見せる人とそうでない人がいますが、装置を見せて事前に情報を与えると、観客には観劇の土壌ができるので、難解な作品やスピーディーな作品には向いているかもしれません。

あと…紗幕ずるくないですか!?いや、ずるくはないんですけど、久しぶりに演劇を見て、紗幕を使った演出を見ると「あぁ…これこれ!」と舞台ならではのワクワクを感じてしまいました。ドラマならCG使えますもんね。脚本やキャスト以外のところでも刺激を受けられる、それも舞台の魅力の一つなんだと再認識しました。

最後に、脚本。(ネタバレ注意!

すいません…ここまで引っ張っておいてなんですが、私は今回の舞台を理解することが出来ませんでした…。いや、岩松了さんの作品だからある程度覚悟はしていたんですけどね…。

脚本全体に流れる疑念とか嫉妬、あとは組織に属することと個を保ち続けることを両立する難しさとかは分かるんですが、はっきりしていることがあまりにも少なくて解に辿り着くことができません。まず、時間軸。最初と最後はつながっているんでしょうか?あのハンガーにかかった衣類に当てられた照明の意味するところは?なぜシドの声は録音されていなかった?そして、人体蘇生実験の真偽。序盤は難癖に近いような内容だと思っていましたが、ロク以外の登場人物全てが蘇生されていると考えると筋が通るような気もして…でもそれだと蘇生された描写があまりにも弱く確信を持てないという、何とも宙に放り出されたような気持ちになっています。ご回答をお持ちの方、私見でも構いませんのでメッセージをいただけると幸いです。

上演後に拝読したパンフレットには岩松了さんのこの作品への思いがインタビューで語られていました。インタビュー自体がかなり難解だと個人的には思っているのですが、作品を読み解くヒントになりそうなところが「「現在」を描きたい。」という部分です。岩松さん曰く、「過去」のものはすべて解釈できるが、「現在」は解釈できない、すべてが判然としないもの、だそうです。確かに解釈しようとしている事象はすべて過去のことがらですし、今この瞬間に起きていることに意味付けをすることはできませんよね。そう考えるとこの作品をどうにか解釈して形にしようとしているのが間違っているのかも…とか思ってしまいます。

終わりに

消化不良感は否めないですが、私にとって久しぶりの観劇は大変刺激的で日々の活力になっています。答えのない問いに挑戦している感覚は何とも言えない高揚感がありますよね。今後も観劇の予定がありますので、ドンドン掲載していこうと思います。演劇最高!

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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