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適切な「問い」の重要性 進化生物学における最大の謎:性

今週は寝込んでいて書くことがないので、「問い」の重要性について書きたい。

サイエンスであれ、アートであれ、デザインであれ、プロジェクトのスタート地点で適切な「問い」を立てれるか?が全てを決める。
ここでは進化生物学で最大の謎とされる「性」をテーマに考察する。

進化生物学で最大の謎:性

性は生物にとって普遍的であり、生物の99%以上が有性生殖をしている。
それなのに性がなぜ謎なのか?それは、無性生殖に比べて有性生殖は増殖に2倍のコストがかかるからだ。

単純な思考実験をしよう。
100匹の有性生殖の生物が子供を2匹産むとしよう。オス50匹、メス50匹が交尾して100匹が産まれる。これが繰り返される。
100匹の無性生殖の生物が同じく2匹の子供を産むと、100匹が2匹産むので200匹の子供が生まれる。

つまり、無性生殖に比べて有性生殖は増殖に2倍のコストがかかっている。

進化生物学において2倍のコストとはとんでもないコストであり、早々に淘汰されても全くおかしくない。それなのに、有性生殖の方が多いとうことは2倍のコスト以上のメリットがあるはずだ。

科学者は問いを立てた。
問い:無性生殖に比べて2倍のコストを上回る、有性生殖のメリットはなにか?

遺伝子で全て説明できるか?

この問いに対して、世界で広くコンセンサスをとっている説が2つある。
どちらも有性生殖で発生するオスとメスの遺伝子をシャッフルする特徴から仮説を立てている。

一つは「遺伝子の多様性」仮説

例えば、無性生殖だと単純なクローンなため、有害な突然変異が蓄積されて取り除きにくい。しかし、有性生殖はオスとメスの遺伝子のシャッフルなので、有害な突然変異があっても排除できる。

さらに、動物が早く走れるために2つの形質が必要だとする。足が長くなる遺伝子と、足の筋肉が多くなる遺伝子の形質が必要だった場合。
有性生殖なら遺伝子がシャッフルされるので、その形質を2つとも引いてこれる可能性が高まる。
無性生殖だとその2つの形質の突然変異が起こるまで待ち続ける必要がある。

しかし、これはあまりにも長期的な視点すぎる。環境が変動すると多様性があると有利だが、そんな頻繁に環境の変化は起こらない。遺伝子は利己的であり、進化は先を見ない。100年後2倍有利でも、今2倍有利の方が生き残るはずだ。

二つ目は「赤の女王」仮説

遺伝子の多様性は長期的にはメリットがありそうだた、進化は毎世代起こるから短期的なメリットの方が重要。
そこで、短期的なメリットがあるのでは?と考えたのが天才ハミルトン。

ハミルトンは考えた。ウィルスや寄生虫は体が小さいため、どんどん進化していく。宿主もそのスピードに対抗する必要があるのでは?
有性生殖は新しい遺伝子を生み出して、ウィルスに対抗しているのではないだろうか。

宿主とウィルス・寄生虫はお互い進化し続けて競争している。
これが、赤の女王仮説。

しかし、これも全てを説明できない。
そもそも寄生虫がいない動植物がいるのに、それでも性別があることをどう説明するのか?実証実験もすっきりしない。
研究者はもやもやしている。。。

性のような普遍的で美しい機能は、シンプルな説で説明できるはずだ。
シンプルがいいのはいろんな生物に適用できるから。なにせ、性別は99%以上の動植物にいる。

世の中のコンセンサスはここまで。
ここから、世界の最先端の説。おそらく正解だろう説を見ていこう。

オスは取り除けない説

いままでの、説の前提は有性生殖グループと無性生殖グループが完璧に別々に分かれている、暗黙の壁があった。
しかし、ここで暗黙の壁とりはらい、新しい問いを立ててみよう。

問い:メスが有性生殖と無性生殖を選択できるとしたら、どちらが残るのか?

さっそく、オスと交尾したら有性生殖するし、交尾しなかったら無性生殖できるメスがいる種を考えてみよう。

オスは交尾して遺伝子を残したい。しかし、無性生殖しているメスは2倍のコストを払いたくないため、オスと交尾したくない。
つまり、有性生殖するか無性生殖するかでオスとメスが対立している。これを性的対立と呼ぶ。

無性生殖のメスがオスを拒否すると、メスばっかになる。そして、オスの数が極端に少なくなる。
そして、集団中の性比が極端に偏ると、少数が有利になる。これをフィッシャーの原理と呼ぶ。

オスの周りに無性生殖のメスが増えるため、交尾できるように進化しやすくなる。一度メスの拒否を突破してしまうと、大量のメスがいるため、どんどん交尾できるオスが増えていく。
メス視点でも、極端に性比が偏っている場合はメスと競争するよりも、オスと交尾した方が有利になる。
最終的に、オスとメスが1対1になる。
これが、有性生殖が維持されている理由。

つまり、一度でも進化でオスが生まれるとその種はオスを取り除けないのだ。

そもそもの問いが間違っていた

最初の問い:無性生殖に比べて2倍のコストを上回る、有性生殖のメリットはなにか?
は問い自体が間違っていた。

有性生殖は2倍のコストはペイできていないのである。しかし、集団中の性比が極端に偏ると、少数が有利になる生物学のフィッシャーの原理によってオスは維持され続ける。

以上が、進化生物学の最先端の説、、、らしい。
ここまで、すごい進化ラジオの【性#01〜#03】の要約なので、気になったらぜひ聞いてもらいたい。
(この記事では勘違いしていることも多いと思うので)

最後に

すごい進化ラジオの最新話【性】の話が面白過ぎて、つい記事にしてしまいました。そもそもの問いが違うとか、そもそも有性生殖は不可逆的な変化だったとか、大好物すぎました。

仮説立てて思考実験して、検証して発表するってプロダクト開発とすごく似ているので、科学の話って本当に面白いです。

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