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ストレスの正体 18

脳のストレスの対処力

ストレッサーは「情動」を生み出す

 生活をしていくうえで、寒い暑いなどの環境要因からくる物理的要因のものから、人間関係のトラブルや忙しさからくる社会的のもの、そして疲労やケガ病気などからの身体的ストレッサーなど様々な刺激を受けています。その刺激によって、マイナスやポジティブな感情が生まれます。
 こうした「感情」の中で、一時的で急激に生まれる感情を大脳生理学絵は「情動」といいます。

 この情動が生まれることにはどんな意味があるのでしょう。
「情動」とは、感覚器官から得た情報に対する脳の生理的な反応で、瞬間的に生まれる原始的で本能的な感情のことを言います。
 この情動をつかさどっているのは大脳辺縁系に属する「偏桃体」。偏桃体は、視覚などの感覚情報をもとに、過去の記憶と繋げながら生理的な好き嫌いや快不快を瞬時に評価判断します。その評価判断が、次にどう行動するかにつながる原動力となります。
 つまり、ストレッサーや環境の変化にどう対処するのかを決める上で、重要なきっかけとなる反応が情動なのです。

 地球上に生命が誕生したのは約56億年前。狩猟から農耕へ、そして産業革命へと生活は変化。この生活の変化は、ストレッサーの質や種類の変化をもたらしています。
 喜びや悲しみ、恐怖や怒りといった情動が生まれているものの、それらのほとんどが生命危機に伴うものではなく、社会的なもの人間関係などに伴う情動であることが大きな変化といえるでしょう。こうした変化によって、ストレッサーに対する脳の対処力も自然と変化しています。そこに大きくかかわるものが「前頭前野」の発達です。

前頭前野による対処力

 前頭前野は理性の脳。大脳皮質の前部に位置する前頭葉の大部分で、大脳皮質の30%を占めています。人間が人間らしくあるために最も必要な脳領域であると考えられます。
 働きとしては・・・
・考える ・意欲を出す ・判断する ・記憶する ・アイデアを出す
・集中する ・評価する ・応用する ・情動や行動をコントロールする

 もう少し分けると3つの領域に分かれます。
○背外側部 ⇒ ・認知処理や行動の計画 ・実行 
        ・前頭前野の中枢的な役割や理性をつかさどる
○眼か部  ⇒ ・情報処理や情動に基づく意思決定
○背内側部 ⇒ ・行動発現のための動機付け ・社会性に基づく認知処理

ストレッサーを受ける
  ⇒ 大脳皮質の感覚領域を経由した情報が
    ⇒ 偏桃体や前頭前野に送られストレッサーへの対処が行われる
という仕組みです。 

 前頭前野は、脳の中で発達が最も遅い部位の一つといわれます。成長する過程で、様々な経験や思考を繰り返すことで発達し20歳で完成すると考えられています。
 一方、老化に伴って最もや早く機能低下するのもここだと言われます。

 もう一つ覚えておきたいことは、「前頭前野は怒りにすぐ反応できない」ということです。これは前頭前野が怒りを感じしっかり働くまでに時間のずれがあるといわれます。一般的には3~5秒かかるといわれます。
 これが怒りのコントロール術として有名は「アンガーマネジメント」の手法で、反射的に行動せず、ひと呼吸おくことで、前頭前野の働きを持ち冷静さを取り戻し対応するというものなのです。

 私たちの現代の生活環境は急激な変化を続けています。その中でますます複雑化し、悩みが尽きなくなってきました。現代では、江戸時代の1年分の思考を一日でしているとも言われているのです。
 すこし「脳を休める」ことを心がけたいものです。

「神経伝達物質」による対処力

 「神経伝達物質」とは、前頭前野に偏桃体で生まれた情動を届ける役割をしているものです。100種類以上もの物質が脳内で分泌され、もたらされる精神状態はその分泌の種類や量によってかわるのです。

【セロトニン】
 精神を安定させる作用のある物質。ノルアドレナリンやドーパミンなど興奮性の神経伝達物質の分泌を抑える働きをします。
 セロトニンの分泌を促すことで脳内の興奮を抑え情動を理性で抑えれるのです。前頭前野の機能低下によりセロトニンの分泌が弱まると、抑うつ感が高まり鬱の発症につながります。

【オキシトシン】
 愛情ホルモンやシアワセホルモンと呼ばれ、脳の視床下部で生成され脳下垂体から分泌されます。分娩時に子宮の収縮を促すことや乳腺を刺激して母乳の分泌を促す働きがあることから、女性の出産期に必要なホルモンとされています。
 最近では、ストレスを軽減させ、不安や心配を緩和させるなど精神的効果にも注目が集まっています。また、脳の疲れをいやしたり気分を安定させる作用もあります。

脳が忘れることによる対処力

 記憶には
【宣言的記憶】 内容を言葉にして説明できるもの
【非宣言的記憶】体で覚えたり特定の感情が伴うもの
の2つがあります。
 記憶のカギは、海馬が情報のフィルターとして入ってきたものを収取選択し、海馬がどう判断するかによります。海馬での記憶は一時的で、数秒から長くても1日以内には消えてしまいます。新しい情報が入ると次々と交信して過去の情報に上書き保存されるのです。
 意味記憶を長期記憶にするには、何度も繰り返し学習することで海馬に優先的な情報だと判断される必要があるのです。

 逆に忘れたい記憶はどうしたら忘れられるのでしょうか。
 そのためには前頭前野が扁桃体の働きを抑えることが必要になります。まずは「その原因となる状況から離れて新たな経験を積むことにより記憶を上書きする」、そしてショック状態の回復具合を見て、「認知行動療法」などの手法を通じた理性的な認知の仕方を学習し、前頭前野による脳の対処力を高めていくという考え方が基本になります。

体のストレスの対処力

変化するストレッサーに追いつかない体

 現代において、SNSなどによる人間関係トラブルや高齢者において近年のテクノロジーについていけないイライラも深刻化しているといわれています。
 古代では「生命の危機」こそが一番のストレッサーでしたが今ではそのような危機を感じることは少ないでしょう。 
 約700万年という人類史をみると、最後の一万年でようやく農耕と牧畜が始まり定住生活を送るようになったといわれています。そして産業革命がおこったのが今から200年ほど前。これを機に様々な電化製品や最近の感染を守る抗生物質などが次々に発明され大きな生活ン変化を遂げました。その長い人類史から見れば、現代の文明は最後の一瞬。

 それにともない、社会生活を円滑に過ごすためにストレッサーに対処するため脳は発達してきました。sれでも大脳皮質で対処しきれなかったストレッサーの影響が体に出ることがあります。そのからだに備わる対処力として次のものがあげられます。

【体温】

 外気温が何度になっても体温は36~37度という非常に狭い範囲に保たれています。この体温調整機能は、鳥類や哺乳類に備わった生体恒常性の特徴の一つ。
 〈恒常性〉
  体内では、食べたものを消化分解し吸収しエネルギーに変える生命活動 
  を維持する代謝が行われています。それに欠かせない酵素が触媒として
  最も活性化する温度が体温と同じといわれています。これが温度を一定
  に保つ理由。この温度を超えると酵素はタンパク質からできいて、その
  タンパク質が変性し本来の機能がhっ気できなくなるのです。体温が下   
  がるのも、血流が低下し酵素反応が緩やかになり免疫力の低下にも繋が
  ります。
 〈感染症〉
  体温の恒常性に影響を及ぼすストレッサーとして著しいものは感染。
  観戦時には、視床下部の体温調節中枢による体温調節のセットポイント
  を正常入り高くずらし発熱を起こします。体内に細菌やウイルスなどが
  侵入すると、探求やマクロファージなどの免疫細胞から発熱物質として
  作用するインターロイキンやインターフェロンなどのサイトカインが放
  出されます。それらによって発熱時に、悪寒や震え、皮膚血管の収縮な
  どで体温が上昇します。
  発熱による体温上昇は、多くの病原体の増殖を防げる一方、抗体産生能
  更新するなど免疫細胞の働きを活性化します。体温が41~42度を超えな
  いよう仕組みがしっかり働いています。
  アスピリンなどの解熱剤は、プロスタグランジンの生成を抑えて上昇し
  ているセットポイントを正常に戻す作用があります。43度以上になると
  死に至ります。
  また、精神的ストレッサーに対しても体温上昇が起こります。この場合
  血液検査をしても原因がわからないことがあるのです。

【血糖値】

 血糖値は空腹時で70~110m/dlnlに維持されています。食事の影響だけではなく、精神的・身体的なストレッサーによっても血糖値は変動します。

 〈恒常性〉
  血糖値を一定に保つ目的は、脳や筋肉などの全身の細胞の働きを維持し
  続けるため。食べ物の炭水化物を体内でグルコースに変え、それを血液
  の流れに乗せて全身の細胞に運びエネルギー源として利用し生命維持し
  活動しています。グルコースをエネルギーに変えるのはインスリン。イ
  ンスリンは唯一、血糖値を下げる方向に働くホルモン。
  一方、グルカゴン・アドレナリン・グルココルチコイド・成長ホルモン
  など血糖値をあげるものがあります。
  血糖値の変化は、直接膵臓に作用して膵臓のホルモン分泌を調節するほ
  か、肝臓や小腸、視床下部にあるグルコースの受容器によって完治され
  脳内で信号が統合されます。その結果、自律神経を介して膵臓と副腎の
  ホルモン分泌が調節されるのです。
  副交感神経が高まるとインスリンが、交感神経が高まるとグルカゴンや
  アドレナリンが分泌増加します。

 〈飢餓ストレス〉
  脳のエネルギー源となる糖を枯渇させないよう様々な仕組みが備わって
  います。貯蔵する仕組みや作り出す仕組みです。
  血糖値が低い状態が続くと脳は機能障害を起こし、場合によっては昏睡
  状態に陥り、最悪死に至ることもあります。血糖値を下げるものがイン
  スリン1つのみで、あげるものが多く存在するのも、すべては古代のス
  トレッサーである飢餓から身を守るために備わった体の対処力だといえ
  ます。

 〈コルチゾール〉
  緊張など精神的なもんだけでなく、痛みなどの身体的ストレッサーによ
  っても血糖値をあげるホルモンの分泌が高まり血糖値が上昇します。例
  えば、通常血中コルチゾール濃度は正午に向って低下するのですが、午
  前中にストレスを与えると午後に下がるはずの値が下がらないことがわ
  かっています。
  現代は飽食の時代であり糖は取りすぎといわれるくらい。ストレスが多
  いことも合わせれば糖尿病のリスクが上がることもわかる気がします。

【血圧】

 現在の正常血圧は120/80mmHg未満、高血圧は140/90mmHg。

 〈恒常性〉
  体の各機関に酵素や栄養素を与え、不要な代謝産物を回収するために
  は、各器官へ常時血流を供給する必要があります。そのため一定に保た
  れます。
  血圧は、血管壁に存在する「圧受容器」で感知され、血圧の上昇や低下
  が圧受容器から脳に伝わると、交感神経や副交感神経の働きで調節され
  る仕組みになっています。

 〈血液量減少ストレス〉
  血圧は血液量によって変動します。血液量が減少し心房に流入する血液
  量が減少すると血圧の低下を感知し、その情報が延髄の循環中枢と視床
  下部に伝えられます。その結果、下垂体後葉からのバソプレッシンの分
  泌が増加し、腎臓に作用して尿が減ります。
  その他複雑な作用により、イノチを繋ぐうえで必要不可欠な血液を元の
  量に戻し血圧を高めるという対処をしています。
  また、運動や精神的ストレスは交感神経の活動を優位にさせます。する
  とノルアドレナリンが分泌されるほか、副腎髄質からアドレナリンが分
  泌され血圧が上昇します。
  現代では、精神的ストレスに関しては長く続くことで、循環器系に影響
  を及ぼし、高血圧や動脈硬化の原因ともなるため負担を体にかけてしま
  っているのでしょう。

○まとめ

 生活使用は大きく変化していても、古代より大きく変化を遂げていない体にとって、体温や血糖値、血圧などの低下は「生命危機」に直結する状況を意味します。生活習慣病を防ぐため「食べ過ぎない」「飲みすぎない」ことが健康を維持するうえで重要となっています。ストレスが何であれ、体は全て古代と同じように対処を行うため、今は少しミスマッチが生じているのかもしれません。

脳と体のストレスを回復させる【睡眠】

 疲労の多くの原因はストレスにより交感神経が過度に活動することで「活性酸素」が過剰に発生してしまうことにあります。活性酸素により脳や体の細胞が傷つけられてしまうと、細胞から疲労物質であるものが発生します。この疲労物質の増加が脳に伝わることで「つかれたな」と感じるのです。
 活性酸素が増える原因としては、
・精神的なストレス
・携帯やパソコンの長時間の使用による脳の緊張状態が続くこと
・激しい運動
・紫外線を長時間浴びる
などがあります。日常わたしたちが感じている疲労は、脳披露だといわれています。
 慢性的な脳疲労は、集中力や判断力を低下させ感情的になったり理性をうまく働かせることができなくなるのです。

睡眠が脳と体にもたらす目的

 自律神経のバランスの乱れは脳がつかれている証拠です。
 睡眠の目的は、脳や体を休め回復させるだけでなく、脳内の情報整理や記憶の定着や消去、感情の整理、さらには脳や体の活性酸素の除去にも深く関係しています。
 眠気を誘発するメラトニンには、高い抗酸化作用があり活性酸素の働きを抑え疲労回復を促します。しっかり睡眠をとることは大きな効果があるのですね。

【レム睡眠】
 浅い睡眠とも呼ばれ、体を回復させている時間であり夢を見る時。この時にその日のことを整理しています。アセチルコリンという神経伝達物質がばらばらの記憶を関連付け整理し記憶の定着が促進します。また不要な記憶は消去されます。
【ノンレム睡眠】
 深い睡眠とも呼ばれ、主に脳の回復させている時間。人類の脳の発達に従い、この睡眠時間が睡眠時間に占める割合が増えてるといわれます。このとき、成長ホルモンがきちんと分泌されることによって体の成長や皮膚や細胞の修復が行われます。成長ホルモンは就寝後、最初のノンレム睡眠の時最も分泌されるといわれます。

 日本は世界的にみても睡眠時間が短いといわれています。平均すると7時間が最適な時間だそうです。ただ時間だけではなく質も重要。

【睡眠の質を高める因子】
・朝起きたときに太陽の光を浴びる
・真っ暗な部屋で睡眠
・メラトニン分泌を促す栄養素の摂取
・適度な運動
・ぬるめの温度で入浴

【睡眠の質を低下する因子】
・夜のコンビニや繁華街の強い光
・寝る直前までのパソコンやスマートフォン
・寝る直前の食事や飲酒
・寝る直前の暑いお風呂

睡眠・疲労回復に必要な栄養素

【タンパク質】
  筋肉や皮膚・血液などの体の構成成分以外にも神経伝達物質の原料となる。特に必須アミノ酸のトリプトファンは、セロトニンの原料になるため、精神の安定や質の良い睡眠をとるために重要。
 〈多く含む食品〉肉・魚・卵・豆類・乳製品など

【ビタミンB6】
 セロトニンの合成に必要な栄養素。腸内細菌によって合成されるため、基本的に欠乏することはないが、抗生物質を長期間服用している場合は不足しやすいので注意。
 〈多く含む食品〉肉(牛レバー)・魚(サンマ・アジ)・バナナなど

【ビタミンB12】
 脳神経の正常な働きを助けるほか、体内時計を整える作用を持つ。
 〈多く含む食品〉肉(牛レバー)・魚介類(アサリ・さんま)・乳製品など

【マグネシウム】
 セロトニンの合成に必要な栄養素。気持ちを落ち着ける作用があり、っストレスが増えると消費量が多くなる。
 〈多く含む食品〉種実類(アーモンド)・未精製の穀類・豆類など

【イミダゾールペプチド】
 活性酸素を抑える抗酸化作用や疲労回復物質であるファティーグリカバリーファクター)の分泌を促進することができる。
 〈多く含む食品〉鶏むね肉・魚(まぐろ・かつお)など





 


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