有機農産物の「参加型認証」を考える
参加型認証とは、消費者と生産者などで組織する認証団体が有機農産物の生産者自身を保証する、人と人のつながりを重視した制度です。
消費者と生産者の距離を縮め、その関係を質的に高めながら、誰もが安心して住み続けられる地域にするために「食を起点とした地域づくり」に、あなたも参加してみませんか。
有機農家を支えた産消提携
農業の近代化(化学化)以降、食べ物の安全性に強い不安を抱いた消費者たちは、大都市を中心に農産物、卵・牛乳、無添加食品などの「安全な食べ物を手に入れる運動」を起こしました。
いっぽう、農薬による直接的な人体被害や、農薬・化学肥料による家畜の異変や土の疲弊を感じとった生産者は、各地で有機農業を実践しはじめました。
1970年代には、これら生産者と消費者が繋がり、農産物や加工品を生産者から消費者へ直接、信頼関係に基づいて届ける「提携(産消提携)」が日本各地で行われました。
「提携」とは、単なる「商品」の産地直送や売り買いではなく、生産者と消費者が顔の見える関係を大切にして進められました。消費者も農作業の手伝いなどをとおして農業への理解を深め、互恵互助の精神に基づき話し合いで価格を決め、ともに学び自然を大切にした生活を目指した活動です。
有機JAS認証とは
有機JAS認証制度が始まったのは2001年。流通・販売・消費を保証する「商品」として有機農産物の基準を国が定めた制度です。
それ以前は農産物の安全性への関心や健康志向が高まるなかで、「有機」「減農薬」などの不適切な表示が横行し、生産基準も不統一でした。
有機JAS認証を受けるためには、農林水産大臣に登録された第3者機関である登録認証機関が有機JASに適合した生産が行われているかどうかを検査し、認証を受けた生産者や事業者のみが有機JAS認証を得ることができます。
「有機」「オーガニック」を表示するには有機JAS認証を受ける必要があります。農産物、畜産物、飼料及び加工食品は、有機JAS認証を受けていないものは「有機○○」「オーガニック」などの名称や「自然」「ナチュラル」といったまぎらわしい表示を付けること、有機JASマークのシールを貼ることも禁じられています。
有機JAS認証の課題
有機JAS認証の取得面積は18,887ha(農林水産省、2023年3月)で、日本国内に占める有機圃場面積の割合は約0.44%です。国が目標としている2050年までに有機圃場面積割合25%(100万ha)達成には、さらに踏み込んだ取り組みが求められます。
有機JAS認証の取得には、生産者にとって書類作成などの手間がかかること、認証にかかる経費が高価であること、品目ごとの認証であるため多品目少量生産をしている小規模農家には向かないこと、などの課題があります。
そのため、消費者との信頼のなかで提携をしてきた生産者など、認証基準を満たしていても有機JAS認証を取得していない生産者も多数みられます(有機JAS認証を取得していない実施面積を含めると、有機圃場面積の割合は約0.6%になります)。
有機JAS認証の取得は、大規模栽培で単一農産物を多量に生産していたり、有機農産物を扱う流通業者、加工業者、スーパーマーケットなどに、新たな販路を確保したい場合には有効です。
しかし、有機JAS認証の取得が必ずしも農産物の付加価値に繋がるとは限りません。「認証マークを使ってどのような経営をしていくのか」をよく考えたうえで取得することが大切です。たとえば、有機農産物として流通業者に出荷していても、有機農産物の需要がなければ特別栽培扱いとして低価格で販売されることになります。
参加型認証とは
有機JAS認証とは異なり、消費者と生産者などで組織する認証団体が有機農産物の生産者自身を保証する、人と人のつながりを重視した制度です。
有機JAS認証と比べて、文書作成や記録保存、手続きの負担を減らすことができ、経費も安くなります。
「参加型認証」は、農産物の認証を容易に取得するためだけの制度ではありません。少量多品目を栽培している有機農家でも参加しやすく、専業農家だけでなく定年退職者や移住者、地域おこし協力隊の若者らが新たに有機農業に取り組む際の販路の確保にも活用でき、地域に有機農業者を増やすことにもつながる制度です。
身近な人と人のつながりを重視した制度であるため、地元の住民や施設の理解も得やすく、学校給食、病院食、食堂など新たな販路の確保もしやすくなり、有機農業の理解者を増やし、地域の活性化にもつながります。
それには、自治体のサポートが最重要であるのは言うまでもありません。
ここで認証された農産物は有機JAS認証とは異なるため、「有機」「オーガニック」を名乗ることはできません。
しかし、国際有機農業運動連盟(IFOAM)の「参加型認証システム(PGS)」に登録することも可能です。
IFOAMには、第3者認証による国際基準とは別に、生産者の負担を減らし地域ごとに消費者と生産者が中心となって有機農産物を認証する「PGS」があり、2018年に岩手県雫石町の「オーガニック雫石」が、日本で初めてを取得しています。
「提携」から「参加型認証」へ
生産者と消費者が手を携え合い生産・流通・消費を行う「提携」では、生産者と消費者が固定している場合が多く、生産者を起点に地域へ広がることは稀でした。
新規の生産者が研修受入先の近くで新規就農しても、研修受入先の消費者まで提供してもらえるとは限りません。固定した提携組織には、新たな消費者が入りにくい場合もあります。
大分県臼杵市や鹿児島県姶良市のように自治体が地域認証をとおして積極的に有機農産物の販路拡大に取り組んだり、JAたじまやJAやさとのように有機農産物の販路をJAが開拓しているところでは、新規就農者が販路の確保に努力する必要は少なくて済みます。
しかしこのような取り組みのない地域では、慣行農家をはじめ新たに有機農業に取り組もうとする方に販路の道を開く仕組みが必要です。
1970年代と異なり専業主婦が激減し、スーパーマーケットでも有機農産物を入手できるようになりました。
「参加型認証」を始めるとして、有機農産物を求めて生産者と関係を重視し足しげく農場に通う消費者がいるのだろうか、どのように消費者と生産者を組織化(運営)すればよいのか、認証基準、認証費用、手続きをどのように決めるのか、などなど。いざ始めるとなるとさまざまな課題があります。
しかし国が「みどりの食料システム戦略」を掲げ有機農業の拡大を図らねばならなくなったように、環境負荷の少ない持続可能な農業の実現は、私たち自身にとっても喫緊の課題です。
「参加型認証」は、住み続けられる地球環境であり続けるための国際目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた、身近な活動でもあります。
消費者と生産者の距離を縮め、その関係を質的に高めながら、誰もが安心して住み続けられる地域にするため、人と人の信頼に基づく「食を起点とした地域づくり」であり、地域循環型社会の構築にもつながります。
いま、便利だと感じている食生活を見直すのですから、実現に向けた課題は山積です。
しかし、各地の先進的な取り組みを参考に「この便利な食生活がいつまでも続くとは思えない」と気づいた消費者と生産者が双方からその距離を縮め、地域の食料自給率を実感するところから始めてみてはいかがでしょうか。
もちろん自治体の積極的な関与も欠かせません。自治体職員も地域の一員であり、組織的な活動に欠かせないスキルを持っているのですから。
地域に根ざした食と農がつながれば、「食べもの」を通して生産現場、自然環境、地球の気候変動など、生活するうえで何が大切かを身近に感じられ、「令和の米騒動」の真の原因も見えてきます。