若者は何故闘うのか~映画『少年たちの時代革命』~

「悔しくても香港は変わらない」
長期化するデモを経て、もしかすると多くの香港市民の諦観となってしまったのかもしれないこの言葉が、一人の少女を絶望させ、彼女を救うべく若者たちが街を駆け巡る。

映画『少年たちの時代革命』(任侠レックス・レン林森ラン・サム共同監督、2021年。以下、本作)は、2019年から続く香港の民主化デモを舞台とした「劇映画」だ。
だから、おそらく本国で上映されることはないだろう。
それを承知しているにも拘わらず「それでも撮らなければならない」という2人の監督の情熱が、スクリーンからあふれ出ている。

ストーリーは簡単だ。
冒頭に書いた言葉を友達から聞いた「YY」と名乗る少女は将来を悲観し、18歳の誕生日に、自殺をほのめかす言葉をSNSに書き込み、姿を消す。
その書き込みを見たデモに参加する若者たちが、彼女の行方を探し始める。

一見、ありがちなストーリーにも思えるし、デモと自殺の関連性が理解できないかもしれない。
しかし、パンフレットに掲載されている、当時の状況をよく知る倉田明子・東京外語大学大学院総合国際学研究院准教授の寄稿によると、『(劇映画というフィクションだが)きわめてリアルな映画でもある』という。

(2019年)6月29日、女子大生が抗議文を壁に書き残して自殺した。Telegram(引用者註:抗議者たちが使用していたSNS)には追悼と政府への怒りの声があふれた。自殺の連鎖を心配する声もあった。そしてこの頃から、「△△で〇〇が遺書を残していなくなった」とか「△△付近で〇〇という人を探して欲しい」といった書き込みを目にするようになった。(略)折しも7月1日の深夜には、立法会の議場に突入し、そのまま決死の覚悟で居座ろうとした若者を、仲間の抗議者が「一緒に行こう」と叫びながら担ぎ出していく一幕があった。この抗議者たちの強い仲間意識が、自殺するかもしれない若者を必死に探す人々の原動力でもあった。

パンフレット寄稿文より

本作は、香港デモを描いてはいるが、テーマはデモそのものに依拠していない。本作のテーマはもっと普遍的なもので、「何故闘うのか」「何故闘いの中で自殺を選択する者が出るのか」「何故同志とはいえ見ず知らずの人の自殺を止めるために多くの人が必死で奔走するのか」。
それは、デモに参加する若者たちだけでなく、中国政府を支持する人の声もちゃんと入れていることからもわかるし、だからこそ、優れた劇映画として本作が成立しているのである。

香港のデモは、現地の複雑な事情もあり、日本にいると状況が掴みづらい。しかし本作を観れば、日本も無関係ではないことがわかる。
YYはクレーンゲームで「ポケモン」や「クレヨンしんちゃん」のぬいぐるみをゲットして大喜びし、デモに参加する男女がやりとりするのは「ハイチュウ」なのである。

1970年に私が生まれた時には、既に東大安田講堂は陥落していたが、私は本作で死に向かうYYに向かって、「連帯を求めて孤立を恐れず」という言葉をかけていた。
私は、YYの自殺に反対していた。

メモ

映画『少年たちの時代革命』
2022年12月18日。@ポレポレ東中野

ポレポレ東中野では、2019年に起きた「香港理工大学包囲事件」を扱ったドキュメンタリー映画も同時公開されています。
別作品(料金も別)ではありますが、現在も続く香港の民主化運動を伝えているので必見です。


この記事が参加している募集

#映画感想文

68,495件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?