「テトラ」が見守る新しい「ジュブナイル」~映画『GHOST BOOK おばけずかん』~

20年もかかっちゃったな……

妻となった"おっきい"岬らが見守る中、「テトラ」が眠っている箱のふたを開けながら、"おっきい"祐介は、そう言った。

山崎貴監督のデビュー作『ジュブナイル』(2000年)のワンシーンだが、この時、"おっきい"祐介と岬は、吉岡秀隆と緒川たまきが演じた。
そこから22年後の最新作『GHOST BOOK おばけずかん』(以下、本作)は、"ちっちゃい"祐介(遠藤雄弥)と岬(鈴木杏)が、ちゃんと"おっきく"なっていた!
Wikipediaによると『ジュブナイル』には決まった定義はないようだが、映画的には、『日本では少年向け冒険SFやそれを匂わせるものを意味したりする』というのが当てはまると思う。
もちろん本作は『ジュブナイル』とは全然別の話だけれど、祐介と岬が一男一女の親になっていて、リビングにはちゃんと「テトラ」が飾られているというのは、感慨深い。
そして今作では、彼らの息子・一樹(城桧吏)が冒険の旅に出るというのだから、その感慨が一層深まるというものだ。

ネタバレになるのでストーリーは書かないが、50歳を過ぎたオヤジが、結構本気でハラハラ・ドキドキし、クライマックスでは身を乗り出さんばかり(そういう観方は周りの観客の迷惑となるので、もちろん実際に身を乗り出してはいない)に喰いついてしまった……ということで、私の満足度を察していただきたい。

それにしても、この20年で色々変わったなぁ、と本作を観ながら思ったのだが、一番変わったのは、きっと「大人」の扱いだろう。

『ジュブナイル』では、大人である神崎(香取慎吾)と木下(酒井美紀)は、子どもたちより上の立場で、いわば指導者・保護者だった。
しかし、本作では事情を知らぬまま図らずとも冒険に巻き込まれてしまった葉山(新垣結衣)は、教師(といっても新米産休代用教師でしかも赴任初日)ながら、指導者・保護者どころか引率者ですらなく、子ども(生徒)たちの完全なる「仲間」だった。
と書くと非難しているように聞こえるかもしれないがそうではなく、単に、世間一般の「大人」の扱いが変わったのだと感慨を持った、というだけである。
もとより、私自身「指導者・保護者」的な大人になれなかったという自覚があるので、非難する資格はない。
また、本作自体も、葉山というか新垣結衣本人のキャラクターもあって、あざとさは全く感じなかった。


ところで本作パンフレットのインタビューで、山崎監督がこう述べている。

『ゴーストブック おばけずかん』のような作品は、親に連れて行ってもらうだけじゃなくて、子供たちが友達と誘い合って見に行く最初の映画になる可能性が少なからずあると思っているんです。これから青春時代が始まる子たちの最初の一ページになりうる可能性があることをちゃんと自覚して、夏休みの思い出の一つになるような作品を作りたいと思っていました。

本作、大人も(50歳を超えたオヤジでも)楽しめる作品なので子どもを連れて観に行くのも良いが、ここは本作をきっかけに子どもに冒険させてみるのも良いかもしれない。


メモ

映画『GHOST BOOK おばけずかん』
2022年8月3日。@TOHOシネマズ新宿

本作冒頭、先の祐介と岬を見て、かつての「テトラ」と同じように『おっきい祐介になったなぁ』(実際は「おっきい祐介に戻ったなぁ」と言うのだが)と思って、その成長にジーンときた。

だが、冒頭ジーンときたのはそこだけではない。
葉山役の新垣結衣のファーストシーン。
海の近くの日本家屋で、産休代用教師の話、しかもちょっと乗り気じゃない感じ……
これって、『くちびるから歌を』(三木孝浩監督、2015年)ではないか!
とジーンときたのだった。
(ちなみに私は、「冒頭で日本家屋で電話」というところまで……と思ったのだが、冒頭で電話していたのは、新垣結衣演じる柏木ではなく、恒松祐里演じる仲村ナズナだった)

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