自分の正義で他人を攻撃している人に何が起こっているのか

「コロナの問題では、何が正しいわけでも間違っているわけでもないのに自分の気持ちを爆発させている。この状況をどうおさめていけばいいのかを知りたいです。」というご質問を研究職の方からいただきました。

未知のウィルスに恐怖心をもつのは自然なことです。
しかし、その恐怖心が偏見や攻撃となって、感染者やその家族や、感染症に懸命に対処している医療関係者や、コロナという名前がつくあらゆるものに向けられている現実を目の当たりにすると、とても悲しい気持ちになります。

このような恐怖で思考停止になっている人の考えを変えようとしたり、批判したり、裁いたりすることでは問題は解決しません。なぜなら彼らを動かしている恐怖心をさらに増大させてしまうからです。まずは、自分の正義で他人を攻撃している人に何が起こっているのかを理解することからはじめましょう。

■人はサバイバルモードのときに、短絡的、攻撃的、排他的になる

まるで正解がひとつしかないかのように正解を探したり、
自分と考えが違う人を攻撃して排除しようとしたり、
善か悪か、敵か味方か、早急に白黒つけたくなる。
このように、人が二元論、二項対立に陥っているときは、その人の心理的安全感が奪われ、”食うか食われるか”、”殺すか殺されるか”、のサバイバルモードになっているときです。戦うことで、もって行き場のない恐怖や怒りのエネルギーを放出しているのです。それだけ新型コロナウィルスの問題に気づかないうちに影響されていたといえましょう。

サバイバルモードで恐怖や怒りの感情が暴走している状態になると、思考停止、視野狭窄に陥り、自分の状態を客観視するメタ認知能力や他者視点取得能力も失われます。そうなると、状況把握、問題解決、コミュニケーションにおいてさまざまな問題が生じてきます。

具体的には、
相手がどういう気持ちでいるのか、相手のために何が必要か、といった共感や思いやりの気持ちは持てず、自分のことしか考えられなくなるのです。
また、複雑なことが考えられず、状況を俯瞰できず、長期的視点をもてず目先のことしか考えられない、といった状態にも陥ります。
その結果、自己中心的、衝動的、短絡的な言動に走りがちになります。

私たちは、このような自己中心的で攻撃的になっている人を見ていると、自分や人が攻撃されそうで怖くなったり、腹が立ったり、恥ずかしい・みっともないと嫌悪感をもったりします。
そして、感情的、衝動的な言動をしている人を批判したり、排除したくなってしまうのです。

■自分への共感からはじめる

「自分はあんな風にみっともないことはしない!」と思いがちですが、その“嫌悪感”こそ、排他的、攻撃的な言動の原動力となります。
自分の感情が揺さぶられているときは、偏見で人を攻撃している人に「恐怖で周りが見えなくなっているのね」などと思いやりの気持ちを向けることは難しいと思います。
まずは、自分の中にある不快感:恐怖や怒りや嫌悪感といった気持ちに正直になり、それらを認めることからはじめましょう。自分の気持ちが落ち着くと、相手に共感することまではできなくても、相手から少し距離をとって観察することはできるようになるかもしれません。

■恐怖、嫌悪感の背景には無理解がある

自分の気持ちを正直に認めると少し余裕ができて、
「なぜこの人たちはこのような言動に走っているのだろう?」
「どういう背景で、どういう気持ちになっているのだろう?」
「どういうニーズを満たそうとしているのだろう?」
「どんな安全・安心感が奪われているのだろう?」
などと、相手の行為の裏になる気持ちやニーズなどを想像してみることができます。
相手を理解しようとする姿勢そのものが愛であり、自分自身の気持ちもそれによって安定するのです。

”理解があるところに愛がある” ティック・ナット・ハン


■メディアとの付き合い方には注意が必要

物事を理解するためには情報が必要ですが、メディアによっては、視聴者の関心を引き寄せるために人の感情を揺さぶるような極端なことをクローズアップしがちです。テレビや動画を見た後で、自分の感情があおられていないかどうかをモニタリングすることも大事です。そこに巻き込まれないためにも、自分の影響力が及ばないことには、少し距離をとることも必要なのではないかと思います。

■自分の中の小さな安全・安心からはじめる世界平和

私たちは自分が安心安全でないと、人のために何かをすることはできないのです。すべては自分からはじまるのです。自分が安全・安心感をもって人を思いやり、共感すれば、安全・安心を感じる人が世の中に増えます。そうしたら、どのようにしたらみんなが差別なく、平和で安全に暮らせるかを考える余裕ができてきます。

今、世界中で起こっている差別や不寛容に対して、不安や怒りや無力感を感じる人も多いのではないかと思います。自分の気持ちに向き合い、自分に共感し、自分の中の小さな安全・安心を作ることからはじめてみませんか。

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