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自然に開かれたオフィス

自然に開かれた建築”の可能性を探り、そのヒントを書き留めておこうということで始めたnoteです。

 このオフィスは茨城県つくば市に計画された研究所施設群のためのメインオフィスです。立地特性を生かし、親自然で環境負荷の少ないオフィスとして高く評価され、サステナブル建築賞(奨励賞)と日本建築学会大賞(作品選奨)に選ばれています。

まず自然に開くことを考える

 高い知的生産性を期待される研究施設に限らず、オフィス空間は一般的に「安定した温熱環境」と「安定した光環境」を求められるのが一般的です。そのため、特に制約がなければ南北軸方向に主たる開口を向けるのが一般的なパッシブデザインのセオリーです。
 この研究施設の計画地は東西方向につくば特有の平地林が広がっており、利用者がこの豊かな自然環境を取り込んだオフィス環境で知的作業を行うことができれば、日々快適に過ごすことができるのではないかという考えで、東西方向に主たる開口を大きく開けた配置計画とすることにしました。

1階配置平面図


如何に開くか

 とは言え安定した温熱・光環境も求められるオフィス環境において日射のコントロールが困難な東西軸方向に単に開くだけでは取り込んだ日射によって室内環境を不安定にしてしまい、知的作業性を低下させてしまいます。そこで東西方向に広がる既存林も組み合わせた複合的な日射制御システム(ファサードシステム)を検討しました。

 周辺の樹木をモデル化し、樹木の日影による日射遮蔽効果をシミュレーションで確認しました。樹木によって遮蔽できない日射を奥行きの深い縦ルーバーや水平ルーバー、庇など、建築的要素を組み合わせてできるだけ日射を遮蔽します。樹木の粗密などによってどうしても取り込んでしまう不要な日射に対しては最終的にはカーテンを利用しますが、カーテンで視覚的に外部と遮断する時間帯を最小限にすることに成功しています。

 日射のコントロール以外にも温熱環境のコントロールのための配慮もされています。断熱性の高いガラスの使用は基本として、地窓と高窓の組み合わせによる自然換気により余分な室内発生熱を排熱しています。フルハイトの窓を開ければ通風による涼感を得られます。冬期暖房時や夏期冷房時などは設備暖冷房の効率を優先するため閉じられますが、季節的な中間期や中間期的な快適さを得られる時間帯にはその環境に対して開き、その快適さを日常的に空間体験できるような設えが施された建築となっています。

Passive design for Active life

 実際にどのように利用されているか訪問した時、可動ブラインドを動かしたり、窓の開け閉め、カーテンの開け閉めを各自が頻繁に行っているとのことでした。冬の夕方どうしても陽が入って作業できない時もあるそうですが、その時間は休憩タイムにするようにしているそうです。ここだけを取り上げると「手間がかかる」「面倒だ」という評価のようにも思えます。「でも基本的には楽しんでますけどね。」という話を聞きました。技術的には可動ブラインドや各種開閉を自動制御として制御のための手間を省き、より効率的なオフィス施設建築にすることは可能ですが、どうやらそれが必ずしも正解でもなさそうです。

 このオフィスの設計者でもある小玉祐一郎先生は大学での最終講義で「Passive design for Active life」(和訳:アクティブな生活のためのパッシブデザイン)をテーマとして話をされました。”Active life”とはここでは適度な快適環境を保つためにActiveに関わるという関係性のことを意味しています。(活動的な生活という意味ではない。)自然に開かれたこのオフィスでは、開くことによって得られる快適性を保つためにActive lifeされているようです。訪問時に「あそこの木が疎らで陽が入りやすいので、花が咲いて実の成る樹木を植えようと思います。」と案内してくれました。開くことで外の環境に関心を持ち、良くしようと心がけておられたのが印象的でした。”自然に開かれた建築”の可能性のひとつのような気がします。

建主:ベターリビング
意匠:小玉祐一郎+エステック計画研究所 (担当:金谷)
構造:金箱構造設計事務所       (担当:坂本)
空調衛生:科学応用冷暖研究所     (担当:高間)
電気設備:設備計画          (担当:山本)
施工:清水建設
写真:田中宏明写真工房
図版等:エステック計画研究所


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