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たらちねの

赤とんぼひとり泣く蝉 待ちびと来たらず

母が鬼籍に入った。
突然の事故から8ヶ月。
意識が戻ることもなく、79年の人生を終わらせた。
80歳の誕生日まで、あと41日だった。

全てはわたしの小さな間違いから始まったのだと思う。
母にはただひたすら、ごめんね、と泣くしかなかった。
不慮の事故で誰をも恨むことができず、行き場のない気持ちだけが、残る。
ただただ悲しい感情だけが静かに波のように打ち寄せてくる。


キラキラと宝石箱のように光る街の灯りの下に、もう母は、いない。
家に戻っても、台所に母が立つ姿を見ることは、もう二度とない。
その声も姿も、物理的なものはすべて、目の前から消えてしまった。
もう二度と、母の手を握ることはできない。 

 つひにゆく道とはかねて聞きしかど
   昨日今日とは思はざりしを

母の文字が書かれた一筆箋。
ご冥福をお祈りします、と、いつかの誰かのためにしたためたのだろう文字を見つめる。

花を愛し、季節ごとにたくさんの花を咲かせ、いつも土いじりをしていた母の姿は、もうここにはない。
愛された花たちは主を失い、枯れ果てていた。
静かにそこにある、現実。

この喪失感の中から学んだたくさんのことが、母からの最後の贈り物。
唯一無二の存在だった。


産んでくれて、ありがとう。

いのちのバトンを繋いでいくね。



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