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#甲子園 #フィールド・オブ・ドリームス

驚いた。
これほど日本の高校野球の、高校スポーツの素晴らしい側面を描いた作品があっただろうか。

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日本の高校スポーツ界は特殊だ。
端的に言うと、「学校の先生=スポーツ競技の指導者」。
世界的に見ると、異質だけど、日本という国には合っている、とされてきた。

その中でも、日本の高校野球は、特殊中の特殊。
素質がある(と思われる)選手は、必ず高校に進学する。
それが、プロ野球選手になるには一番の近道だからだ。

ただ、00年代に入って、「部活」は忌み嫌われるようになった。
科学的ではないとか、古くさいとか。
確かにそういう面があることは否めない(と、高校サッカー界に20年以上いた自分は思う)。

しかし、今でも、「部活」は大切にされている。
そして、この作品に出てくる横浜隼人高校の水谷先生と生徒Sにまつわるエピソードこそ、「部活」の真骨頂と言える。

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水谷先生は、エラーを重ねてレギュラーから外したSの楽観的な性格を見抜いていた。
Sには課題を与えながら様子を見ていて、ある練習試合で出場機会を与えた。しかし、Sはエラーをしてしまった。

Sは悪い生徒ではない。むしろ、フレンドリーで、人当たりの良い感じ。
先生がSに課した体重増だって、打球のスピードを上げて彼に強みを加えるため。
しかし、Sは大事なチャンスで課題である守備でエラーをし、つけていた体重の記録も途中で止めていた。
そして、夏の大会。Sはベンチ入りを逃してしまった。

夏の大会前にベンチ入りメンバー20人を発表した後、「試合に出ることは一瞬。それよりも一生が大事。2年半頑張ったことを糧にしてほしい」といったことを、水谷先生は生徒に語りかける。

横浜隼人高校野球部は、野球を通じた人間形成を目的に掲げている。
1年生のレクリエーションで、1年生の教育係を担当する3年生が一から野球部の活動方針を伝えるシーンが出てくるが、メンバー発表後のSの行動に目的の結実が表れていた。

メンバー発表後、人目をはばからず泣いていたSは、次のシーンで泣いているチームメイトのところにやって来て、腕を掴んで立ち上がらせた。
彼は、同じ境遇のチームメイトに手を差し伸べ、前を向くよう促せる、そんな生徒になっていた。そして、1回戦のスタンドで、全力で応援していた。
本当に、カメラをよく回していたなぁ。

他にも、
横浜隼人高校野球部のアップのランニングが美しい、とか。
毅然としているように見えるキャプテンも悩んでいる、とか。
試合に出られない3年生が、チームの支えとなるべく裏方で鼓舞する姿が頼もしい、とか。
先生の家庭は、奥様がとんでもなく大変だ、とか。
(実際、これで家庭崩壊している先生を、たくさん知っているww)

これはほんの一部。
94分とは思えない、本当にたくさんのエピソードが詰まっていた。

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ここに登場する横浜隼人高校の水谷先生、花巻東高校の佐々木先生は、「部活」の先生として模範的と言える。
それは、野球部の生徒を、選手としての成長を促すとともに、人として精神面の成長を促そうとしているところ。
(多くの先生は同じようなことを志していると思うけど、実際にできているかは別の話)

もちろん完全ではないはずだし、先生たちも常に迷いながら、ベストだと思う方法を選択し、生徒に向かい合っていることだろう。
ただ、描かれないところで、謙遜しつつ、チームを卑下することもあったはず。

しかし、そういう部分を、この作品では出していない。
これは、「何が大事なのか」を分かっていないと取り除けない。
そういう面で、このドキュメンタリーは特異であり、素晴らしい!

上映後、山崎監督とお話させて頂き、水谷先生と佐々木先生への取材は、偶然の出会いから生まれたことを知った。
この出会いは、本当に奇跡だと思う。こんな良い先生、なかなか出会えないし、水谷先生のもとで佐々木先生がコーチを4年務めていた、なんて奇跡でしょ?
そして、偶然が積み重なっててできたこの奇跡は、必然と言っていい。

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高校スポーツ界は、排他的だと思う。
同じ土俵で戦っていなければ「よそ者」。
だから、取材相手などには、質問を聞いて、それ相応の回答をする。

しかし、この作品は先生たちの、生徒たちの本音を引き出し、高校野球の、いや、日本の高校スポーツ界の核みたいなものを浮き彫りにしている。
それを可能にしたのは、山崎監督はじめ、スタッフの尋常ではない熱意だろう。

何千時間も撮影したそうだ。
佐々木先生の「あの話」は、6時からの朝練に出向いた時に話してくれたことだったらしい。
横浜隼人のあのランニングだって、何回も訪れなければ、あんなにきれいには撮れない。

撮影されることに慣れていなければ、横浜隼人高校野球部の生徒の素の姿や本音を引き出せなかったはず。
信頼を得るまでに、どれだけ足を運んでいたことだろう。。

そして、こうした膨大な素材も、山崎監督の鋭い洞察力と取材相手への敬意がなければ、こんな素晴らしい作品にならなかったと思う。
山崎エマという名前を見たら、絶対チェックした方が良い。


ちなみに。
20年以上高校サッカーの現場にいたけど、朝から取材しようとするマスコミやライターは見たことがない。

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