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ダウンフォール・オブ・ザ・トリックスター

「こわいこわいもうやだこわいやだこわい」

圭子はついにその場でへたり込み、うわ言を繰り返すだけの存在と化した。井上さんはまだ自分のネクタイを旨そうに咀嚼している。

館を焼き焦がす炎はいよいよ私たちに迫り、灼熱の空気が喉を焼く。脱出しなければ命は無いが、唯一の出口にはあの男が立ちはだかり、こちらに銃口を向けている。藤堂すみれは初めからこの男を蘇らせる事しか頭になかったのだ!

BLAM!!!

弾丸は空を裂きどこかへ飛んでいった。わざとか。次はもう無いかもしれない。くそッ、こうなったら一か八 KABOOOM!!! 男は爆裂した。

呆気にとられた私は爆心地に突然現れた血塗れの人物に目をやる。見間違いじゃなければ、こいつは男の体内から現れたのだ!

その人物はまだ若い、背の低い女の子だ。血溜まりの中でうなだれて立ち尽くしている。その手に握られているのは、いわゆるバールの SMASH!!! 男の生首は殴打粉砕!再び舞い散る肉片と脳漿、そして、昆虫の脚!…え?ひょっとして、これは何か…恐るべき生物が…頭の中に…?…この館で巻き起こった惨劇を理由付けるピースが…埋まっていく。もう何もかも遅いけれど。

謎の女はぎりぎりと首を巡らせて何かを探している。光の無い眼球は小刻みに震えていた。矛先が私に向く前に逃げなけれ SWOOSH!!! 女は何も無い空間にバールを振り抜く!そして間髪入れず、そこに見えない穴が開いているかのように慎重に手首を滑り込ませた!

一刻も早く逃げなければならないというのに、私は彼女から目が離せなかった。やがて彼女は見えない穴から腕を引き抜き、姿勢を正してバールを構えた。

ごう、と炎が揺らめく。

「…そこだァ!」

叫びと共に振り向き、背後の空間にバールを突き刺した!響き渡る叫びと共に引き摺り出される、漆黒にして無貌の怪物!なんだこれ?!というかさっきの動き意味なくない?!

【続く】

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