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ルックバックのネームについての考察

ルックバックのネームの考察をしていきます。
映画の感想もおまけで書きました。


こんな感じで3項目に分けて、それぞれネームと漫画での違いを見つけ、それを考察していきます。

①半自伝的要素

最初ネームを読んだとき、設定が変更されているのにとても驚いたので、まずはこのことについて。設定の変更点は下の3つ。

A:キャラクターの名前が「藤野」ではなく「三船」(1ページ)、「京本」ではなく「野々瀬」(4ページ)

B:藤野が本やスケッチブックを買った本屋が秋田県にかほ市の本屋がモデルになってない (11ページ)

C:藤野が書いてる漫画が「シャークキック」ではなく「ラックラット」(74ページ)

1つずつ見ていきます。

A:キャラクターの名前が「藤野」ではなく「三船」、「京本」ではなく「野々瀬」

言わずもがな、なんですけど「藤野」「京本」を合わせると「藤本」になっています。『ルックバック』は作品として独立しつつも、藤本タツキの半自伝的作品(創作に対しての挫折、葛藤、苦しみなど)としても楽しめると思ってたんですが、まさか最初は主人公の名前が違っていたなんて、最初ネーム読んだ時めちゃくちゃ驚きました。

B:藤野が本やスケッチブックを買った本屋が秋田県にかほ市の本屋がモデルになってない

藤野が京本の4コマ漫画を見て本屋に行くシーンがありますが、漫画では秋田県にかほ市にある文林堂書店をモデルにした本屋が登場します。ネームの方では本屋の看板だけ出てきてました。

C:藤野が書いてる漫画が「シャークキック」ではなく「ラックラット」

漫画では「シャークキック」という「チェンソーマン」のオマージュ漫画がでてきますが、ネームでは全然違いました。




①の改変を行うことで藤本タツキの半自伝という話であることを分かりやすくするために②③のような改変が入ったと考えられて、この改変はルックバックの命運を分けたと言っても過言ではないと思います。ネーム段階でも京本が通っている大学が東北芸術工科大学(藤本タツキの母校)であったので、最初から少しは意識していたのかもしれないです。東北芸術工科大学は分かりやすい三角形の校舎があるので、芸術系の大学であることのが一目で分かるようにしただけかもです。実際、藤本タツキは美大に通いながら漫画を描いていたので、漫画を描き続ける藤野と美大に通う京本というのは藤本タツキを半分で割った分身のようなもので、ネームを見て、これが半自伝であると見抜いたのは林士平なのかな、と思って本当にデカい存在だなと思いました。


②"ルックバック"というタイトルの意味

演出面での変更点について見ていきます。ここで見る箇所は

葬式後、京本の自室のドアにあるのが「サイン入りの半纏」ではなく「4コマ漫画」(130ページ)

このシーンというのは「サイン入りの半纏」にすることで、タイトル回収コマになったので重要だと考えてます。
『ルックバック』というタイトルには色々な意味が込められていて、漫画内で随所に散りばめられてます。look backの"back"というのは「過去・背中・後ろ」という意味があります。backに様々な意味があるので、『ルックバック』には「後ろを見る」「背中を見る」「過去を振り返る」という3つの意味が掛かっていると考えました。

「背中を見る」は主に読者視点のことで、藤野は絵や漫画を描いているとき基本背中を向けています。また、藤野が4コマを描かずに京本が生き残った世界線では京本が『背中を見て』という4コマを描いてます。
「過去を振り返る」のは葬式後に藤野が京本との思い出を振り返ってます。

本題に戻りますが、変更されたシーンでは「藤野が京本の部屋に入り、後ろを向くと、背中にサインが書かれた半纏がドアにかかっているのを見る」というようになってますが、このシーンには「後ろを見る」「背中を見る」「過去を振り返る」の3要素を同時に満たしています。

まさにタイトル回収。


③藤本タツキ作品の"扉"について

演出面での変更点をもう一つあげておくと

京本が「扉の絵」ではなく「森の神社の絵」を描いている(106ページ)

漫画ではチェンソーマンのデンジの昔の家の扉をコピーしたものと思いますが、藤本タツキ作品では"扉"というのを重要なものとして扱われいて、それを強調しているんじゃないかと思います。

『チェンソーマン』では"扉"が開かれてしまうと大抵良くないことが起こってしまい、『ルックバック』でも京本の"扉"を開けて外の世界に出してしまったことで良くないことが起こってしまったと藤野は思っています。
『チェンソーマン』では扉が開かれることが不幸に繋がっていたが、『ルックバック』では藤野が扉を開いても開かなくても結局京本は美大へ行く運命であったので、"扉"のレベルが1個上がってます。

④まとめ

入場者特典で原作ネームが貰えるのを知ってから、ずっと欲しかったのでゲットできて良かったです。一昔前まではアナログ作画が主流であったので、原画が展示されることが多かったと思いますが、最近は(というか結構前から)デジタル作画が過半数になり、原画というのがそもそも無くなってるので、今はネームを公開するようになったんですかね。まるまるネームを公開してくれて感謝感激です。他の漫画家のネームももっと見てみたいです。


p.s. 記事を書き終えたあとTwitterで調べたら、このマンガがすごい2022に、地獄楽の作者である賀来ゆうじの助言で主人公2人の名前を変えたことが書いてあったそうです。賀来ゆうじは元々藤本タツキのアシスタントをしていたので、助言を貰っていたんですね。この改変をしたのは、本当にすごいことなので本当にありがたいです。

おまけ:映画の感想

先日6/28(金)に公開されました。
初日に観に行きたくて3限を切って2限と4限の間に頑張って大雨の中遠くの映画館まで行きました。想像以上にすごすぎて観た後映画館の椅子に座ってぼっーとしてたら4限間に合わなくなって、そのまま家に帰りました。

アニメ『チェンソーマン』や、最近だと映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション後章』で好きな漫画のアニメーション化で心が折られてるので、観る前は少し怖かったです。

計画性が無さすぎるため、大雨の中、上映10分前くらいに映画館に到着し、あたふたしながらチケットを買って、入場者特典の原作ネームを貰い、席に座ったらすぐ暗くなりました。

結果的に、帰宅後にネーム読んで大大大横転してるので、映画の前にネームしてるのでギリギリに行って良かったな、と。

映画『ルックバック』が開始。

初っ端からアニオリから始まってめちゃくちゃ驚きました。

学級新聞配られたとき藤野が「5分で描いただけどね」と言ってるのが見栄張ってるだけなのが分かりやすく補強されてて「最高~~~~~~~~」って感じでした。

↑こんなこと言ってるけど開始10秒くらいでもう涙目になってます
最初から最後までずっと泣いてたり涙目だったりしたんで細かいとこは見逃してるとこもありそう

この特報なんですけど、てっきり京本と出会ったあとのシーンだと思ったら実は4コマ漫画を掲載してたときのシーンだったの激震でした。やってることがすごすぎる。


4コマ漫画『ファーストキス』のアニメーションも良かったです。

京本の4コマ漫画を読んで田んぼを走っていくシーンまで観て、観る前の懸念が一切消えていて、映像に圧倒され続けてました。

ちゃんと原作に忠実に映像化するためにコマとコマの間が繊細に描かれている、かつ漫画と差別化するためにオリジナル要素も所々散りばめられている。本当に理想のアニメ化でした。

声の方も想像してた声とめちゃくちゃ合致して、特に京本は方言がある上に引きこもっていてあまり人と話すことが得意で無いのをちゃんと表現できてとても驚きました。

卒業証書を渡しに行き、メタルパレードを描き始まるまでのシーンはずっと圧倒されてました。京本の1人称視点で目線がグラグラ揺れながら玄関まで走っていくシーンや、藤野が帰り道どんどん動きが大きくなっていき雨の中踊るシーン。

漫画だと見開きなのが、雨の中踊るコマと、2人が漫画を描く回想コマの2つなので、雨の中踊るところがとても時間をかけて描かれてて嬉しかったです。

大雨で靴の中がびしょびしょだったので雨のシーンはほぼ4DX。

漫画のコマ割り自体が映画的なのに、それを超えていく現代アニメの革命を観たような気がしました。

漫画の賞金で観ていた映画は『さよなら絵梨』なんですかね?

漫画版では、本棚に自分の本が増えていくことだけで、売れている作家であることを表してましたけど、映画だと週刊少年ジャンプ掲載順位データも出てきて「これ、これ、これ~~~~」ってなりました。

たまに見ていたサイトなので、こんな形で漫画に逆輸入されることがあるのか、と思いました。
このサイトが出てくる漫画家漫画があったら教えてください。


葬式後、京本の部屋のドアを隔てて、未来と過去が邂逅するシーンはずっと鳥肌が立っていました。

不審者のセリフが修正前(最初のweb版)になっていて良かったです。批判によって表現が規制されることは良くないことなので、セリフ改変はされてなくて良かったです。

最後、藤野が徹夜で漫画を描き続けることをバックにエンドロールが流れてましたが、最初に声優が来ないのは革新的だなと思って、優先順位というか、まずは絵があるから映画が成立するんですよね。

エンドロールでは京本への讃美歌、鎮魂歌のような曲が流れていて涙が止まりませんでした。(開始10秒後からはずっと泣いてはいましたが)

すごい映画を観てしまった、と思い、衝撃波を受けたような顔で帰宅しましたが、パンフレットを買うのをすっかり忘れてしまいました。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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