駆け出し百人一首(15)いかにせむ行方も知らぬ玉くしげ再び逢はぬこの世なりけり(飛鳥井雅経)

いかにせむ行方(ゆくへ)も知(し)らぬ玉(たま)くしげ再(ふたた)び逢(あ)はぬこの世(よ)なりけり

明日香井集

訳:どうしよう、どうしようか。行方も分からない我が娘の魂よ。二度と会わないこの世なのだなぁ。

What should I do? My daughter's soul has gone somewhere. I cannot see her any more.


承久元(1219)年七月、雅経は娘を亡くします。13歳の若さでした。
玉くしげ(玉匣、玉櫛笥)は、櫛などの道具をしまっておく箱のこと。箱には蓋が付き物ですから、「ふた」を引き出す枕詞になっており、この歌でも「再び」と結び付いています。
この歌が詠まれたのは、娘が亡くなって2ヶ月後のこと。寺への布施に、彼女の使っていた「玉くしげ」を差し出しました。そのときに詠み、箱の中に入れたのが、この歌です。玉くしげにはそうした文脈上の役割もあるのです。


和歌の修辞法

玉:「玉くしげ」の一部であると同時に、「魂(たま)」でもある。掛詞。
玉くしげ:この直後の「再び」の「ふた」を引き出す枕詞。

文法事項

この世なりけり:和歌の文末に用いられた「けり」は詠嘆。


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