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改めて、2022年の音楽を振り返ります

2023年4月になって、やっとこれを書けた……去年末にTwitterにも自分のAOTY 2022を投稿したけど、いっぱい聴き直したので、やっぱり若干違います。普段はUK/USロックを主に聴きますが、2022年はなんと邦楽が大半を占めた、ちょっと変わった一年でした。

Art Rock/Art Popはまだ死なない

年間ベスト:Black Country, New Road『Ants from Up There』

(art rock, UK)

我らの時代の『OK Computer』とも言える。切望、憂鬱、懐かしさ、そして何よりも、孤独……この時代に生きるからこそ感じられることを語り尽くした、時代精神を詰め込んだ一枚。

始まりの始まりは繰り返したサックスリフ。そして、ベース、ピアノ、ヴァイオリン……それぞれの入場。どの曲にも楽器の大合唱があって、ポストロック色が強く、とにかく美しいけど、予期せぬ展開となる所も多く、「ただ美しさ」と「サプライズ」が併存した一枚。やっぱり、言葉で形容するのが難しいので、とにかく聴いてほしいです。

バンドも自認したが、確かにArcade Fire色が濃い。でもArcade Fireと全然違います。どのバンドに似てるかと聞かれても……Arcade Fireか、Radioheadか、Slintか、どっちも少し似てるところがあるけど全然似てない。聴けば聴くほどBlack Country, New Roadの天才さが分かる。

そして、また10年後に振り返えしたい。『OK Computer』みたいに、ひと世代の音楽に大きな影響を与える名盤になれるかな。自分は、なれると信じてる。

RYUTist『(エン)』

(art pop, Japan)

2022年一番の問題作。君島大空、石若駿(SMTK)、蓮沼執太、柴田聡子、ウ山あまね、パソコン音楽クラブ、ermhoi、そしてチームRYUTistの同心協力による完成した、音楽性が豊富でありながら、統一感も強い、アート・ポップの名盤。

ギリギリのポップ性とアイドル性を保ちつつも、色んな電子音を取り入れ、たくさんの未踏の領域を探索した、とてもアバンギャルドな一枚。Indietronicaな「朝の惑星」、フュージョンな「うらぎりもの」、R&Bな「オーロラ」、ハイパーポップな「たったいま:さっきまで」、そしてチルアウトな「逃避行」……正直、このアルバムの音楽性の豊かさはRadioheadの『Kid A』とBjörkの『Homogenic』ほどの名盤にしか見たことない。

もし『Ants from Up There』が我らの時代の『OK Computer』であれば、『(エン)』は我らの時代の『Kid A』で間違いない。そして、RYUTistは古町を飛び出し、渋谷を経由し日本を一周して、今だってきっと、苗場行き。それとも、世界行き。

The Smile『A Light for Attracting Attention』

(art rock, UK)

RadioheadのThom YorkeとJonny GreenwoodにドラマーのTom Skinnerを加えた3人組、Radioheadの別動隊とも言えるThe Smileのデビュー作。

別動隊ということで、本隊のRadioheadよりもっと気軽に音楽を作れる。Radioheadのアルバムと比べて、リズムのパルスはジャズ寄りでもっと自由で、変拍子や吹奏楽など、普段では少し控えた要素もたくさん取り入れた。「You Will Never Work in Televesion Again」という、ThomとJonnyが珍しくロックンロール全開した曲もあった。そしてドラマーのTom Skinnerはジャズ出身なので、Radioheadのアルバムで中々聴けないグルーヴと、アフロビート寄りの複雑なリズムパターンが多用された。

Radioheadらしい、でも「あくまでRadioheadではない」一枚。

betcover!!『卵』

(art rock/progressive rock, Japan)

前作たちよりもプログレの道に進んだ。バンドサウンド全開の内省的ジャズロック。不穏なリズム、張り詰めたピアノリフ、哲学的ドラム・ビート、めちゃ変な歌声……20代の柳瀬二郎さんにしては、大人らしき一枚。

King Gizzard and the Lizard Wizard『Ice, Death, Planets, Lungs, Mushrooms and Lava』

(psychedelic rock/jazz rock, Australia)

2022年にアルバムを5枚も出した、オーストラリアの変わったバンドKing Gizzard and the Lizard Wizard(KGLW)。アルバムの数が多さに関わらず、質はいつも高い。

5枚の中に一番気に入るのは『Ice, Death, Planets, Lungs, Mushrooms and Lava』です。KGLWの特徴的なサイケデリック・ロック、スペース・ロック・サウンドにジャズの自由爛漫さを加えた、夢境みたいな音楽。

電子音・EDMビート+○○○で遊ぼう

The Comet is Coming『Hyper-Dimensional Expansion Beam』

(nu jazz/jazz fusion, UK)

電子音+ジャズ。初耳で「何これ!」ってなった。確かに、聴いたことのない音楽に探険に出かけたみたいな感じでした。

テクノ的な爆速で複雑なエレクトロビートという底色に、フュージョン的なキーボードサウンドとジャズの特徴的なサックスサウンドを加えたら、魔法になる。それが『Hyper-Dimensional Expansion Beam』。踊り出したい時もあって、夢みたいな時間もあって、色んな感覚を味わえる一枚。

ばってん少女隊『九祭』

(electropop/EDM, Japan)

電子音+アイドルポップ。2回も方向変更を経ったばっしょーは、今ここにたどり着いた。ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)を始めとした豪華な作家陣を迎えて、クリエイターそれぞれの音楽性を表現し尽くした、でも統一感が強く、ばっしょーらしい一枚。

九州7県をモチーフにしたコンセプトアルバムで、ダンサブルなエレクトロ・ポップという底色を保ちつつも、楽曲それぞれの個性が彩る。Balearic beat(「YOIMIYA」)、tropical house(「和・華・蘭」)、Celtic trap(「さがしもの」)など、色々なEDM要素も取り入れ、音楽性を妥協せずに、「アイドル」のための音楽を作り出した。家で聴くにも、ライブにもぴったりした、ばってん少女隊しか作れない「ばってん・サウンド」。

ウ山あまね『ムームート』

(hyperpop/experimental, Japan)

電子音+実験音楽。極めて複雑難解で、実験的な一枚。何よりも、「怖い」と感じた。不穏なリズムや重ねたサウンド。何というと、何かを作り上げて、そしてこれを潰した、といった感じ(Thom Yorkeの言葉を借りて)。エレクトロニカの『Bitches Brew』で合ってるかな。未だになかなか理解できてない一枚……

インディーズで、今しか言えないことを伝えよう

くだらない1日『Rebound』

(Midwest emo, Japan)

エモはMidwest emoとポストハードコア・エモという2つの流派に分かれているが、このアルバムはその「中間点」に在る一枚。だから、Midwest emoのキラキラでメロディアスなギターサウンドやマスロック気質と、ポストハードコアの激く歪んだラウドなサウンドを両方楽しめる、すごく面白い一枚。ボーカルはとても激情的、スクリームも多用されます。Eastern YouthとAmerican Footballを取り混ぜた、みたいな感じ。

downt『SAKANA』(EP)

(Midwest emo/dream pop, Japan)

本格的Midwest emoサウンドにドリーム・ポップの感性を加えた一作。Midwest emoのキラキラさとドリーム・ポップの夢幻さを兼備した、エモさに溢れた一作。Midwest emoとドリーム・ポップ、意外と相性抜群だよね……特に「minamisenju」に注目してください。そして、日頃の変拍子不足の中で、変拍子をいっぱい供給してくれてありがとう。

Gt. Vo.の冨樫さんのギター演奏は勿論、声質もとても綺麗です。やっぱり、女性ボーカルのMidwest emoはちょっと珍しいので、もっと増えてほしいです!

UTERO『眠れぬ夜の君のため』(EP)

(indietronica/dream pop, Japan)

yumegiwa last girlの夢際りんとしてアイドル活動もしている(残りあと一週間ですが)、シンガーソングライターのUTEROのデビュー作。自作3曲とNo BusesのCwondo、Parannoulの提供曲から成る一枚。

自作曲の「祈」と「froozen girl」はインディー・ポップのキャッチーさと、面白い電子音と、ドリーム・ポップの幻のような雰囲気を見事に融合させた。Cwondo提供曲の「moonstar」はすごくSweet Tripみがあって、Sweet Trip好きな私は聴くたびに高まる。Parannoulによる提供曲「空白」は本格なシューゲイザーサウンドに電子音を取り入れた感じで、Parannoul節全開とも言える。そして、最後の「エーテル」はアンセム性の強い、シューゲイザー・ドリームポップ辺りで珍しいロックアンセム気質の曲。

全体的に、ソングライティングのレベルがとても高く、ドリーミーでありながらメロディアスで(良い意味で)キャチーで、眠れない夜に聴きたい一枚。

Tokyo Shoegaze Happening

羊文学『our hope』

(indie rock/shoegaze, Japan)

羊文学の3rdアルバム。Gt. Vo.の塩塚モエカのソングライティング才能を最大に発揮した、軽快な曲が多く、全体的にギターポップ気質も強く、メロディーやキャッチーさを極めた一枚。しかし、ほとんどの曲はシューゲイザーの雄大なサウンドが全開した。「光るとき」と「OOPARTS」が特に気に入って、何回も聴いています。

シューゲイザー特有の「重さ」が嫌いな人も楽しめるシューゲイザー、ここにあります!

明日の叙景『アイランド』

(blackgaze/post-metal, Japan)

日本のシューゲイズ界だけではなく、Rate Your Musicを始めに世界中の音楽ファンから好評を得た、明日の叙景の画期的な一枚。魂を叫んだスクリーム、凄く暗い雰囲気、ハードでヘヴィなサウンド……ポスト・ブラックメタルに少しポップな感覚を取り入れた、みたいな一枚。

For Tracy Hyde『Hotel Insomnia』

(shoegaze/dream pop, Japan)

For Tracy Hydeが『he(r)art』と『New Young City』のインディー・ドリーム・ポップ路線と一区切ついた、ポップ性を保ちつつももっと雄大なサウンドを挑んだ一枚。

全体的にRide色の濃く、マスタリング・エンジニアもRideのMark Gardenerを迎えて、本格的UKシューゲイザーサウンドな一枚。特に「Kodiak」はすごくRideっぽくて、「Leave Them All Behind」を思い出させた。「House of Mirrors」のラップパートは完全に予想外で、とても可愛かった。For Tracy Hydeの音楽はいつも懐かしい雰囲気を醸し出すが、今作はいつもと違い懐かしさ。何と言うと、「異国感」が強く、経験したことないのに懐かしいという感覚。

RAY『Green』

(shoegaze/dream pop, Japan)

本格的なシューゲイザー、ドリーム・ポップサウンドにアイドルソング特有のセンチメンタルを加えた、それが『Green』。お馴染みの管梓(For Tracy Hyde、エイプリルブルー)とハタユウスケ(cruyff in the bedroom)を筆頭に、Daniel Knowles(Amusement Parks on Fire)、吉田一郎不可触世界、Kei Toriki(明日の叙景)、Ishikawa(死んだ僕の彼女)などといったクリエイター陣を迎え、作家陣がすごく豪華な一枚。

J-Popの要素をたくさん取り込んでながら、本格的なシューゲイザー、ドリーム・ポップサウンドを展開できた。そして、アイドルグループだからこそ歌える美しいハモりパートも多用され、特に「ムーンパレス」に注目してほしい。シューゲイザー以外もシンセポップ(「TEST」)、ポエトリーリーディング(「スカイライン」)など、色んなジャンルを取り入れ、「本質的シューゲイザー」と「豊富な音楽性」のバランスを上手く取った。


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