コカ•コーラ公式アプリ「Coke ON」にウォレット機能を実装~自社プロダクトを意識しながら、導入プロジェクト成功を目指す~
2022年11月に、日本コカ•コーラ社が提供する公式アプリ「Coke ON」に、当社のスマホ決済プラットフォーム「Wallet Station」を導入する形でウォレット機能が搭載されました。この導入プロジェクトでPjM、開発リーダーを務めた2人に、プロジェクトの狙いや、乗り越えた壁、進める上で意識していたことなどを話してもらいました。
中嶋 (写真右)
Embedded Fintech事業部 プロダクトマネジメント部 エンジニアリングチーム マネジャー
2021年9月にインフキュリオンへ入社。エンジニア組織のマネジメントの他、WalletStation導入プロジェクトにおけるプロジェクトマネージャー(以下 PjM)を担当。
長下部 (写真左)
Embedded Fintech事業部 プロダクトマネジメント部 インテグレーションチーム
2022年3月にインフキュリオンへ入社。WalletStation導入プロジェクトにおける開発リーダーを担当。
※この記事は2023/04/06に公開されたものです。
※所属や業務などは取材時点の内容です。
グローバル企業のサービスへWallet Stationを導入
─ 中嶋さんがエンジニアリングチームのマネジャー、長下部さんがインテグレーションチームになりますが、部署の役割の違いについて教えていただけますか。
中嶋:2人とも、Embedded Fintech事業部のプロダクトマネジメント部に属しています。ここでいうプロダクトとは「Wallet Station(ウォレットステーション)」という当社の主力toBプロダクトのことです。これを導入することにより、あらゆる企業が、決済や残高管理などの金融サービスをAPIを通じて自社のサービスやアプリの中に組み込むことができるようになります。
その中で、エンジニアリングチームはプロダクト開発を担当し、インテグレーションチームはそのプロダクトをお客様に導入する役割を担っています。
─ 今回の日本コカ•コーラ社のプロジェクトにおいて、お二人はどのように役割を分担していたのでしょうか。
中嶋:私はPjMとして、プロジェクトの大枠の舵取りをする役割を担ったほか、日本コカ•コーラ社との調整などを担当しました。また、今回はすでに動いている「Coke ON(コークオン)」というアプリにWallet Stationを組み込んでいくプロジェクトでしたので、そちらのアプリの開発会社の方とのやりとりも私の方で行いました。
長下部:私は開発リーダーとして参画しました。今回のプロジェクトは延べ10名ほどの開発体制になりましたが、そのチームをリードする役割です。タスクやスケジュールの管理だけでなく、技術的な課題に対応したり、プレイングマネジャー的に一部開発もしました。
“非金融”企業のサービスにウォレット機能を組み込むプロジェクト
─ 日本コカ•コーラ社とのプロジェクトの概要を教えてください。
中嶋:先ほども少し触れましたが、日本コカ•コーラ社の公式アプリ「Coke ON」に、独自のポイント機能を持った電子マネー「Coke ON Wallet」を実装するプロジェクトです。また同時に、金融機関ではない日本コカ•コーラ社の代わりに、インフキュリオンが第三者型前払式支払手段発行者として、「Coke ON Wallet」へのチャージ、決済およびポイントの発行管理を担当しています。
私は要件定義からプロジェクトに参画しました。要件定義は私ともう1名のPjMの2名体制で行い、途中で長下部に開発リーダーとしてプロジェクトに入ってもらい、2022年11月にサービスローンチを迎えました。
─「Coke ON Wallet」を実装する狙いはどの辺りにあったのでしょうか。
長下部:「Coke ON」は、自販機で飲み物を買うとスタンプが付与され、それを一定数貯めるとドリンクチケットに引き換え、コカ•コーラ社の自販機で飲み物と無料で交換できるというものです。
今回、新たに「Coke ON Wallet」を実装することで「Coke ONポイント」を1円単位で付与できるようになります。そうすることで、より細やかかつ柔軟にインセンティブを設計し、さらなる自販機の利用拡大を図るのが狙いだと理解しています。
経験したことがなかった大規模なデータ移行
─ プロジェクトを進める中で、どういう点が難しかったですか。
長下部:まず挙げられるのは、ユーザー規模の大きさです。「Coke ON」アプリは現在4,000万ダウンロードを超えるアプリですが、ユーザー数が多いことによって難しい点は大きく2点あります。
1つ目は、処理性能面の課題です。APIを基盤とするWallet Stationの各APIが、想定されるスループットを出せるかどうかが課題でした。ユーザー数が多いほどリクエスト数も大量になりますが、今回はインフキュリオンがこれまで経験したことのない水準でした。
2つ目は、ユーザーデータの移行作業の難しさです。今回、Wallet Stationの導入に当たり「Coke ON」アプリに「仮ポイント」を導入しています。これは何かというと、ユーザー登録しなくてもポイントが貯められる仕組みです。ユーザー登録という入り口のハードルをなくし、まずはポイントを貯めてもらうことで、それが登録のインセンティブになるという仕掛けです。
この仕掛けを実現するために、「Coke ON」にすでに存在しているユーザーのデータを「Coke ON Wallet」のサービス開始前にWallet Stationへ移行する必要がありました。実際のデータ移行作業は「Coke ON Wallet」を本番環境にリリースした後、一般公開はせずに行うフィールドテストの段階で実行しました。2週間かけて夜間のバッチ処理で移行する計画だったのですが、ふたを開けてみたらなかなか予定通りに進まなくて。
中嶋:周りのシステムが本番で動いているため、データのやり取りがトランザクションの少ない時間帯に限られていました。そのような中で、1日当たりの移行データ件数が計画通りにいかないと残りの日数が限られてくるので、最後はスケジュールを詰めたりしてなんとか移行し切りました。
技術的負債を解消と導入プロジェクトの同時進行
─ ユーザーの多さ以外に、難しいことはありましたか。
中嶋:今回、単にプロダクトを導入するだけでなく、プロダクトの技術的負債を解消しながら導入を進めたことも、チャレンジングな取り組みでした。ユーザー数が多いことともつながるのですが、全国に40万台以上ある「Coke ON」対応自販機のトランザクションに耐えうる処理性能を出すために、技術的負債の解消が必要だったのです。
Wallet Stationには過去の経緯から、非効率なSQLが存在していたり、いたるところに似たようなロジックが散らばってしまっていました。そこで今回、あらためてモデリングをして、クラスの配置やプログラムの造りをシンプルに組み直すということをやりました。
また、今回の詳細設計の途中で、このプロジェクト以降はWallet Stationのインフラ基盤をAzureからAWSに置き換える判断をしたことも、技術的なチャレンジでした。これは技術的負債ということではなく、プロダクトの観点から、今後Wallet Stationを拡張していく上で移行が必要と判断し、舵を切った形です。
インフキュリオンが初めて第三者型前払式支払手段の発行者に
─ 今回、インフキュリオンが第三者型前払式支払手段発行者として、決済およびポイントの発行管理を担当したとのことでした。この点で難しさはありましたか。
中嶋:ほとんどの方に聞き慣れない言葉だと思いますが、一般的には「イシュア業務」と言います。お財布のように、マネーやポイントを貯めておける「Coke ON Wallet」の仕組みを、日本コカ•コーラ社の代わりにインフキュリオンが第三者として発行•管理するということですね。
これまで、クライアント自身でこのイシュア業務を行うケースが通常でした。今回の日本コカ•コーラ社は“非金融”企業であり、イシュア業務を担うと運用コストが高くついてしまうこと、またスピード感を持ってWalletサービスを導入するため、我々に一任いただいた形です。
私自身はイシュア業務の知識•経験がなかったため、その意味で難しさはありました。ただ、インフキュリオンには営業部門や法務部門にイシュア業務に詳しい人がたくさんいるので、そういう人に聞きながら理解を進めていきました。
プロダクトをより良くするためにあえて困難な道を選ぶ
─ お二人がサービスリリースまで携わったプロジェクトですが、プロジェクトに携わる上で苦労したことなどはありますか。
長下部:入社して最初のプロジェクトだったので、まだWallet Stationの仕様も十分に分かっていなかったことは、当初苦労しましたね。開発に一部加わっていただいた外部の協力会社さんから質問があったときに、自分だけで答えきれないなど苦しい場面はありました。もちろん周りに聞けば教えてもらえただろうと思いますが、なるべく自分自身で仕様をキャッチアップしたいと考えていました。
中嶋:私はエンジニアリングチームのマネジャーと、今回のプロジェクトのPjMという2つの立場で物事を進めていたので、例えばリリースの3カ月ほど前に「技術的負債を解消する」と判断した時、メンバーにどう納得してもらうかに苦慮しました。
もちろんこの判断には、プロダクトの運用コストが割高になるのを避けるという明確な目的があります。でもエンジニアからすると、「なぜ今そんなことするの?」という話だと思うんですよね。相反することを、いかに方向性を示して、皆で同じ方向を見て難しいことにチャレンジしていくかが苦労した部分ではあります。
長下部:Bank Payゲートウェイの統合の話ですよね。
─ Bank Payゲートウェイとはどういうものですか。
長下部:Bank Payという、全国の金融機関が加盟する日本電子決済推進機構が運営する決済サービスがあります。今回のプロジェクトでは、このBank PayとWallet Stationを連携することで、ユーザーが「Coke ON Wallet」へマネーをチャージできるようにしました。
その連携のために必要なアプリケーションが、当社が開発したBank Payゲートウェイです。Wallet Stationとは独立したアプリケーションとして別チームが開発を進めていたのですが、今回の「Coke ON Wallet」の実装を機に、Bank PayゲートウェイをWallet Stationへ統合することにしました。それをかなり終盤にやったんですよね。
中嶋:この統合の目的も、処理性能に関わっています。また少し先を見越すと、我々は自社プロダクトとして運用していくわけですから、余計なアプリケーションが間に入っているとその分インフラのコストがかかってしまいます。事業としてのフィジビリティを担保するために、コスト面も統合の理由の1つでした。
─ 長下部さんも「なぜ今そんなことするの?」という心境だったのでしょうか。
長下部:どうでしょう?(笑)どっちもですかね。我々は自社プロダクトを作っている以上、その時々の導入プロジェクトのゴールを見据えると同時に、自分たちのプロダクトをより良いものにしていく視点も持たなければなりません。
Bank Payゲートウェイの統合の話は、まさにそういう課題だと思います。ただ、インフキュリオンのエンジニアはみんな同じ視点を持っているので、そこで一時的に忙しくなるとか、統合によって新たな不具合が起こる可能性に懸念は持ちつつも、やることそのものに対してネガティブな思いはなかったと思います。
─ それが「自社プロダクト」の意味なんですね。
中嶋:はい、それこそがSIerとは違う部分だと思います。
我々が行っていることを「Embedded Finance(※)」とも言いますが、言葉通り、金融機能をクライアントのサービスに「組み込んでいく」「溶け込ませていく」ことが求められますので、ある程度は個別のカスタマイズは発生します。それを許容したりバランスを取りながらやっていくことが大事なのかなと思います。
長下部:カスタマイズを許容するといっても、クライアントの要望をそのまま受け入れるのではなく、より抽象化•汎用化した形で設計するスキルが求められると思います。プロダクトの立場、導入プロジェクトの立場の間にギャップはありますが、振れ幅がある中で答えを探していくことが、面白い部分でもあるし、我々の腕の見せ所だと思っています。
(※) 非金融事業者のサービスに金融機能を組み込むこと
社会にインパクトを残す仕事を通じて会社と一緒に成長できる
─ 難しかったことばかりお聞きしてしまいましたが、その先にあったやりがい、成長を実感したことがあれば教えていただけますか。
長下部:toCサービス、身近なサービスに関わりたいという思いで転職してきたので、今回のプロジェクトでその思いは果たせたなと思っています。街の中で、自販機の前でスマートフォンを使っている人も普通に見かけますし、自分が携わったサービスが使われているのを目の当たりにできることに、今まで感じたことがないうれしさがあります。
もう1つ、今回のプロジェクトは本当にいろいろな人たちと協力しながら進めました。我々導入プロジェクトのチームメンバーはもちろん、プロダクト開発のチームやBank Payゲートウェイを開発したチームの人たち、皆の力で成し遂げられたことだと思います。開発リーダーとして関係者を巻き込みながら、同じゴールに向かってリーダーシップを発揮して導いていく役割を、しっかり果たせたという実感がありますし、やりがいを感じました。
─ 中嶋さんはいかがですか。
中嶋:私も自分が作ったものを家族に触ってもらえると、自分の仕事だというふうに誇らしく思えますね。SIerでは、自分たちで作ったものが最終的にお客さんのものになってしまうじゃないですか。自社プロダクトだと、自分たちの努力や頑張りが形になって、手元にずっと残っていきますよね。そういうことをやりたくて転職してきたので、それが果たせてよかったと思っています。
PjMの立場では、エンジニアだけでなく法務部門の人やデザイナーとも協働する場面も多くありました。いろいろな分野のプロの力を集約して、価値を社会に提供していくというプロジェクトの進め方の良い事例が作れたことは、会社にとってもよかったと思います。
─ 最後に求職者の方にメッセージをお願いします。
長下部:インフキュリオンは、シンプルにいうと「社会にインパクトを残す仕事ができる会社」だと思います。Fintech業界自体が急成長中で、新しい取り組みがかなり多いと思うので、「新しいサービスを作って社会に価値を提供したい」という思いがある人にとっては、それが実現できる場所だと思います。
エンジニアのメンバーは、「言われたものを作る」のではなくて、自分たちで創り上げていこうという思いがある人たちなので、意見が出てきやすい環境です。今回、基本設計も担当していたのですが、それに対してメンバーから指摘をもらったり、フランクなディスカッションが生まれる場面が多くありました。モチベーションが高い人が多く刺激になる環境なので、同じような志を持った方ならきっとフィットすると思います。
中嶋:今回のプロジェクトでは大小さまざまなチャレンジをしましたが、それは自分一人だけでやったことではなく、周りのメンバーに助けられた部分も多々あります。プロジェクトを一区切りした今、「インフキュリオンにはチャレンジを推奨する文化がある」と自信を持っていえます。
また、プロジェクトを通じて自分自身の成長を実感しましたし、一緒に会社が成長していく手応えも感じました。「新しいことに挑戦してもっと速く成長したい。けれど、今いる会社の事業ドメインや組織の風土•文化などが要因で成長機会を得られない」、そんなもやもやした気持ちを抱えている方、これまでの経験を軸にお客様のため、社会のために貢献して行きたいという強い意欲がある方に、ぜひインフキュリオンへご入社いただいて、一緒に成長していければと思っています。