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5-5.学部・公認心理師カリキュラムで動画講義を活用する

(特集 心理職のためのオンライン授業入門)
下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)

(PR) iNEXTオンライン講習会のお知らせ
《一歩先のオンライン授業デザインを学ぼう!》
2020/6/7(sun)14:00~開催/演者:三田地真美&下山晴彦

1)体系的学習を有効に進めるための反転授業の活用

学部カリキュラムは,表1に示したように実習を含めて24科目ある。

表1 公認心理師・学部カリキュラムの科目の内訳
[実践的心理学系]
◆臨床心理学概論◆心理的アセスメント◆心理学的支援法
◆健康/医療心理学◆福祉心理学◆教育/学校心理学◆司法/犯罪心理学
◆産業/組織心理学◆心理実習(時間が80時間以上のものに限る)
[科学的心理学系]
◆心理学概論◆心理学研究法◆心理学統計法◆心理学実験
◆知覚・認知心理学◆学習/言語心理学◆感情/人格心理学
◆神経/生理心理学◆心理演習◆社会/集団/家族心理学
◆発達心理学◆障害者/障害児心理学
[制度・行政系]
◆公認心理師の職責◆関係行政論
[医学系]
◆人体の構造と機能及び疾病◆精神疾患とその治療

学部・公認心理師カリキュラム24科目は,「実践的心理学系」に加えて,「科学的心理学系」,「制度・行政系」「医学系」の4種の異種の学問体系が混在している(表1参照)。また,科学的心理学系と実践的心理学系のそれぞれの内に各種心理学が含まれている。それらの各種心理学間の相互の関連性は明確でなく,独立性が強い。そのため,カリキュラム科目の体系性がなく,学生はどの科目をどのような順番で学習していけばよいのかわからず途方に暮れる。

したがって,学部・公認心理師カリキュラムの教育では,学生がこの24科目の学習を無理なく進める工夫や努力が必要となる。学習を効率的に進める工夫としては,学生の事前学習を前提とする反転授業が有効である。オンライン授業では,学生が事前に学習しておくオンライン教材を利用できるようにすることで,反転授業が容易に可能となる。

事前に学習しておくオンライン教材を前提とする反転授業は,学生にとっても,教員にとっても有効な学習・教授法となる。オンライン教材によって,心理職になるための学習の基本的な道筋を示し,学生が段階を追って各科目を体系的に学習できるようにしておくことがポイントとなる。

〈学部・公認心理師カリキュラムを教えるポイント〉
① 心理職になるプロセスを教える⇒「何のためにその科目を学ぶのか」
② 学問の体系を教える⇒「各科目の位置づけと意味を知る」
③ 学部で重点的に学ぶ基本科目を教える⇒「無駄なく、重要な内容を学ぶ」
④ 基本科目の要点を教える⇒「基本科目の学び方を知る」

ポイントを押さえたオンライン教材を提供することで,学生は,盛り沢山の情報の中から,基本科目と重点項目を選り分けて効率よく学習することが可能となる。このような反転授業のためのオンライン教材として役立つのが臨床心理iNEXTの動画講義である。
以下ににおいて,学部・公認心理師カリキュラムの基本科目の,事前学習教材で活用できる臨床心理iNEXTの動画講義を紹介する。なお,臨床心理iNEXTの動画講義の一部は,書籍化されており,テキストとしても活用できる。

臨床心理iNEXT動画講義の書籍化
❏臨床心理フロンティア 公認心理師のための「基礎科目」講義 北大路書房
  ⇒https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784762830976

❏臨床心理フロンティア 公認心理師のための「発達障害」講義 北大路書房
  ⇒https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784762830457

2)「心理職になるプロセス」を学ぶ動画講義

臨床心理学やカウセリングを学びたいと思って大学に入学した学生は,なぜ科学的心理学を学ばなければいけないのかと疑問を感じる。不満や疑問をもち,脱落していく学生も出てくる。そのようなことを避けるために,なぜ科学的心理学を学ぶのかを,最初に教える。具体的には,学部の初期段階で「臨床心理学概論」を講じて,エビデンス・ベイスト・プラクティスとの関連で科学的心理学の知識と方法の学習の重要性を伝える。

◇公認心理師のための臨床心理学入門[下山晴彦]:
 科目名「臨床心理学概論」

実践活動,研究活動,専門活動から構成される臨床心理学の学問体系を解説し,なぜ科学的心理学の学習が必要となるのかを説明する。また,職責や関係行政論の学習が必要な理由も説明する。

◇エビデンス・ベイスト・プラクティスの基本を学ぶ[原田隆之]:
 科目名「臨床心理学概論」

臨床心理学では,エビデンス・ベイスト・プラクティスが基本となる。実践の有効性を実証するエビデンスを産出する心理学研究法を解説し,科学的心理学を学ぶ必要性を解説する。

◇臨床心理学の知識と技能の基本を学ぶ[下山晴彦]:
 科目名「臨床心理学概論」

「これからの臨床心理学」と「実践の基本」(「臨床心理学をまなぶシリーズ」東京大学出版会)の2冊の紹介を通して,臨床心理学を学び,実践心理職になる道筋を解説する。

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3)「心理学の学問体系」を学ぶ動画講義

現代心理学は,多岐な内容に分かれている。そのため,各種心理学から学び始めると,木を見て森を見ずという状況となり,心理学の森に迷い込んでしまう。そこで,まずは心理学とは何か,その心理学をどのように学ぶのかという全体地図をもって各種心理学を体系的に学ぶ準備をする。

◇公認心理師になるための心理学入門[宮川純]:
 科目名「心理学概論」

「心理学とは何か」ということから説き起こして,心理学史,研究法,統計,知覚,学習など,心理学の分野ごとに重要項目を取り上げてその内容を概説する。

◇心理学研究法:概論[1][三浦麻子]:
 科目名「心理学概論」「心理学研究法」

実証科学としての心理学の成り立ちから説き起こし,心理学の方法論と学問体系を解説し,心理学を研究することの意味を説明する本格的な心理学入門となっている。

◇公認心理師のための心理学の学び方[髙橋美保]:
 科目名「心理学概論」

現代心理学は,さまざまな分野に別れている。一見すると各分野がバラバラなようにみえる。各分野のつながりを意識して心理学の全体を体系的に学ぶ仕方を解説する。

◇心理学辞典を活用した心理学の学び方[髙橋美保]:
 科目名「心理学概論」

心理学の学習,さらには公認心理師試験の準備に役立つ方法として,『誠信 心理学辞典』(誠信書房)を活用した学び方を解説する。

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4)「科学的心理学の基本の実証性」を学ぶ動画講義

心理学の実証的研究法を学ぶことを通して,臨床心理学の「実践者-科学者モデル」における科学者としての視点とデータの扱い方を学ぶ。心理事象を実証的にみていく研究マインドを学習する。

◇心理学研究法:概論[2][三浦麻子]:
 科目名「心理学実験」「心理学統計法」

「心を測定する」ことをテーマとして,実験・調査・観察・面接といった心理学研究法の技法を解説し,さらにデータの扱い方として記述統計と推測統計を解説する。

◇心理学研究法:概論[3][三浦麻子]:
 科目名「心理学研究法」

心理学の「研究を公表する」ことをテーマとして,研究者として倫理,個人情報の扱い方,データの公開などについて解説し,良い研究とは何かを説明する。

◇質的データ分析入門[1][能智正博]:
 科目名「心理学研究法」

「質的研究がめざすもの」をテーマとして質的研究の特徴を明らかにし,テキストをコード化する方法など,質的分析の基本技法を解説する。

◇質的データ分析入門[2][能智正博]:
 科目名「心理学研究法」

質的研究法の主要方法であるカテゴリー化の準備,手順,結びの意義と手続きなどを具体的に解説する。

◇質的研究法と量的研究法を学ぶ[能智正博・南風原朝和]:
 科目名「心理学研究法」

「質的研究法」「量的研究法」(「臨床心理学をまなぶシリーズ」東京大学出版会)の紹介を通して,臨床心理学研究における質的研究法および量的研究法の特徴と学び方を解説する。

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5)「実践的心理学の基本の生物-心理-社会モデルを学ぶ」動画講義

現代臨床心理学は,問題を生物的・心理的・社会的基盤からアセスメントをし,理解し,多面的な介入を行う。このような多面的な視点があることで,生物モデルに基づく保健医療,さらには社会モデルに基づく福祉,教育,司法,産業といった分野でも活動できる。なお,他職種とも協働が可能となる。また,心理職が社会的責任を果たすための「倫理」については,心理実践の前提として学んでおく。

◇臨床心理アセスメント基本講義[下山晴彦]:
 関連科目「心理的アセスメント」

生物-心理-社会モデルに基づく心理アセスメントの方法を具体的に解説する。検査法,面接法,観察法によって収集するデータを分析し,問題理解を深める手続きの基本を解説する。

◇心理職の職業倫理-基礎編[金沢吉展]:
 関連科目[公認心理師の職責]

心理職にとって職業倫理がなぜ必要か,職業倫理とは何か,職業倫理をどのように実践の場で活かしていくことができるのかについて体系的に解説する。

〈生物的次元の実践科目〉
◇心理職のための神経科学(脳科学)入門[国里愛彦]:
 関連科目「心理的アセスメント」「神経・生理学心理学」

神経科学(脳科学)の基本を解説するとともに心理職がその最新の成果をどのように活用するかについての視点を提供する。

〈心理的次元の実践科目〉
◇知能検査を臨床場面で活用するために[松田修]:
 関連科目「心理的アセスメント」「障害者・障害児心理学」

知能の評価だけでなく,発達障害や認知症等の障害理解に活用できる知能検査を活用する方法と,そのポイントを解説する。

◇心理職のための発達障害の診断入門[桑原斉]:
 関連科目「心理的アセスメント」「発達心理学」「障害者・障害児心理学」

DSM-5において神経発達症群に位置づけられ,その下位分類も再構成された発達障害の新しい分類と,その概念を正しく理解する道筋を体系的に解説する。

〈社会的次元の実践科目〉
◇公認心理師が知っておくLGBTの理解と支援[石丸径一郎]:
関連科目「心理的アセスメント」「社会・集団・家族心理学」

LGBTについて,偏見や不適切な支援によって当事者が傷つくことがないように,LGBTの最新情報と,適切な理解と支援について解説する。

◇統合療法とコミュニティ・アプローチを学ぶ[平木典子・高畠克子]:関連科目「心理学的支援法」「社会・集団・家族心理学」
「統合的介入法」と「コミュニティ・アプローチ」(「臨床心理学を学ぶシリーズ」東京大学出版会)の紹介を通して,現代心理学では,個人心理療法だけでなく,家族やコミュニティなどの社会的関係も含めた多面的介入法について解説する。

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