33-2.参加しよう!みんなの事例検討会
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今後募集するオンライン事例検討会
1.事例検討会の光と影
事例検討会は、心理職が技能を“磨く”ために最も有効な方法です。
しかし、多くの事例検討会は、誰でも気楽に参加できるものにはなっていません。秘密保持という理由もあり、事例検討会は閉鎖的にならざるを得ない面があります。そのため、事例検討会は、ある一定の限られた人のみしか参加できないということになります。
その結果、特定の学閥や派閥、あるいは職場のメンバーのみに限定されているといった閉鎖的な事例検討会が多くなります。そのような場合、考え方や見方が同質なメンバーとなりやすく、自由で多様な議論が発展しにくくなります。
このような事態は、事例検討会が心理職の自由な発想や多様な関わり方を育成するのとは逆に、特定の考え方や見方を教化し、固定化していく手段になる危険性を孕んでいます。現在の心理職の間では、さまざまな分断が起き、仲間割れの状態になっています。
このような分断が起きた理由の一つとして、事例検討会によって派閥の固定化が進んだという面があると言えます。
また、地方の心理職や、一人職場の心理職は、事例検討会に参加できる機会が限られてしまい、技能を磨く上ではとても不利な状況になっています。限られた情報の中で頑張っている心理職は、最も事例検討会を必要としているのにもかかわらず、それを得られないことも生じています。
2.iNEXT式オンライン「みんなの事例検討会」
このような事例検討会の閉鎖性に対してオンライン事例検討会は、新たな地平を開く可能性を持っています。オンラインですので、地方の心理職や少人数職場の心理職も参加できます。手続きを工夫すれば、多様な心理職が参加し、議論を発展させることが可能となります。
臨床心理iNEXTは、この2年間でオンライン事例検討会を有効に実施できる手続きを開発し、実施してきました。事例検討会の閉鎖性を解体し、事例検討会を多くの心理職に開かれたものにすることを目指しました。
さらに、事例発表をした心理職が技能を磨くだけでなく、多様な心理職が参加し、参加者が協働して心理職全体の発展を模索するコミュニティの場に事例検討会がなることを目標としました。臨床心理iNEXTでは、そのような事例検討会を「みんなの事例検討会」と呼ぶことにしました。
それは、学派や派閥のための事例検討会、あるいは“偉い人”が未熟な人を教えるための事例検討会ではなく、心理職の誰にとっても役立つ事例検討会を意味しています。その成果として、さまざまな学派の、さまざまな年代の心理職が、心理職以外の精神科医も交えて自由に事例検討を行い、それを多数の心理職が観察し、共有し、意見を伝えるといった大事例検討会も可能となりました※)
※)https://note.com/inext/n/na010269a2f4b
3.「みんなの事例検討会」に観察参加して技能を磨こう!
日本の多くの事例検討会は、初心者や若手心理職が発表し、ベテラン心理職が物知り顔でコメントするという、タテ社会の権力構造に基づいています。iNEXT式オンライン「みんなの事例検討会」の特徴は、そのような権力構造を排除したことです。
むしろ、ベテランや中堅の心理職こそが自らの実践を事例として提示し、若手心理職などの意見を取り入れながら、更なる心理支援サービスの発展を目指すことこそが「みんなの事例検討会」の目標となっています。
「みんなの事例検討会」では、多数の、多様な人が事例検討会に参加できるように1)「事例検討」舞台と、2)「事例検討」観客席の2重構造となっています。今回募集しているのは、「事例検討」観客席の観察メンバーです。
現在参加者を募集している「代替行動アプローチー変化を作り出す技法を学ぶー」をはじめとして、冒頭に掲示した事例検討会は、このような「みんなの事例検討会」となっています。今回募集するのは、「事例検討」舞台を観客席から観察する観察メンバーですので気楽に参加し、学びを深めることができます。多くの方の参加を期待しています。
4.若手心理職からの事例検討会への期待
「代替行動アプローチ」事例検討会では、中堅心理職である谷口先生が「繰り返すリストカット」の事例経過を、同じく中堅心理職である入江先生が「昼夜逆転のゲーム依存」の事例経過を発表します。
それに対して若手から中堅に至る心理職が質問をして議論を展開することになります。谷口先生と入江先生は、行動療法に基づく実践をされています。それに対して質問メンバーの心理職は、精神分析やコミュニティ心理学、カウンセリング、認知行動療法など、多様な方法に基づく心理職です。
このような多様なメンバーで構成される事例検討会で、どのような議論が展開するのか、今から楽しみです。下記に質問メンバーのプロフィールをご紹介します。「臨床歴」は、修士課程を修了してからの経験年数です。臨床経験、主に依拠する方法、「代替行動アプローチ」事例検討会への期待をまとめていただきました。お名前については敬称略とさせていただきました。まず比較的に若手の心理職からご紹介いたします。
5.中堅心理職からの事例検討会への期待
6.改めて、事例検討会の意味を考える
このように臨床心理iNEXTでは、オンライン化とともに事例検討会の新たな方法を開発してきました。その理由を改めて確認することにします。
言うまでもなく書籍や講義で理論を学ぶだけでは実践はできません。実践は、抽象的な知識を具体的な技能として実行できなければ意味がないからです。さらに、実践をただ単に積み重ねているだけでは、技能の上達はありません。事例検討会を通して技能の使い方を具体的に学び、さらに自らの技能を見直して改善することができて初めて技能を磨くことができます。
このように具体的な事例を通して技能学習を進める場こそが事例検討会です。しかも、事例検討会は、自らが事例を発表しなくても技能を磨くことができます。発表された事例経過、そして発表者と参加者の議論を知ることで、自らの技能を磨くこともできます。iNEXT式事例検討会は、「事例検討」観客席を設けることによって、参加しているだけで観察学習(モデリング)できる事例検討会のメリットを最大限に活用することを目指しています。
ただし、単に「事例検討」観客席を設けるだけでは、事例検討会の閉鎖性を打破できません。多くの事例検討会は、冒頭で述べたように誰でも気楽に参加できるものにはなっていません。それは、事例検討会の中に、ベテランが若手を教化する権力構造が組み込まれているからです。その結果として、事例検討会が学閥や派閥を維持、強化する温床になる危険性が出てきます。
7.臨床心理iNEXTが目指すオンライン事例検討会
オンライン事例検討会は、どこからでも誰でも参加できます。その点でさまざまな立場の人が参加できるので、多様な観点から自由な議論ができ、多くのことを学ぶことができる利点があります。しかし、その反面、オンラインで初対面となるので参加者が遠慮して意見が出にくくなることもあります。その場合、一部の人のみが発言するようになり、特定の考え方や技法の影響が強くなってしまうマイナス面もあります。
特に偉い先生や上級者、あるいは自己愛的な人が一方的に発言し、コメントすることで初心者や若手が参加しにくくなる事例検討会もあります。事例発表して批判されたり、意見を言って無視されたりして嫌な思い出しか残らない事例検討会もあります。ある一定の理論や考え方を教え込むための教化や訓練の場になっている検討会もあります。
そこで、臨床心理iNEXTでは、若手が発表し、ベテランがコメントして指導するというタテ社会の権力構造を排除することを重視しました。逆にベテランが事例発表をし、若手がそこから技を盗むという職人世界でよくある技能の伝承方法を取り入れることとしました。また、上位の立場からコメントするのではなく、同等の立場で質問をして、発表者と参加者が協働して事例の理解を深めるプロセスを構造化し
ました。
8.事例検討会の構造化の意味
ベテラン心理職は、大学教員として教える側のレッスンプロになってしまい、心理支援サービスの最前線に立って技能を磨くというトーナメントプロの精神を忘れてしまうこともあります。また、ベテラン心理職は、自らの派閥運営や勢力拡大に熱心になり、事例検討会をそのために利用するといったことも起きてきます。
そこで、臨床心理iNEXTでは、オンライン化することで事例検討会を開かれたものとするとともに、そこにタテ社会の権力構造が入り込まないような構造化をしました。上位からのコメントではなく、発表者と参加者が同等の立場での質疑応答を通して問題理解を深める協働プロセスを構造化することで、参加者が安心して参加できるようにしました。また、「事例検討」舞台と「事例検討」観客席の2重構造とすることで、初心者や若手の心理職が安心して観察学習できる場を設定しました。
このようにiNEXT式オンライン事例検討会は、構造化によって事例を多角的に検討できる自由さと多様性を確保しました。そして、多様な心理職が協働して問題理解を深めるコミュニティの場となることで心理職全体の発展の土壌が耕されることを目標としました。
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■記事制作 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(公認心理師&臨床心理士)
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