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6-5.オンライン相談(無料)のシステム導入の実際


(特集 できる!やらねば!オンライン相談)

津田容子(よこはま若者サポートステーション相談員/臨床心理士・公認心理師・国家資格2級キャリアコンサルティング技能士)
熊部良子(よこはま若者サポートステーション施設長/精神保健福祉士・公認心理師・国家資格キャリアコンサルタント)

1)オンライン相談システムの導入背景と経緯

この度の新型コロナウィルスの感染拡大は,対面相談を主体とした支援機関にとって,支援対象者と“会う”という支援の根幹から支障をきたす,かつてない事態をもたらしている。しかし,こうした状況においてこそ,収入の減少や失業,内定取り消しによる生活の困窮,環境の変化に伴う心身の不調,家族関係の悪化,社会的孤立の増大など,具体的な生活支援と併せて,心理・福祉に関わる支援の必要性も高まることが予測される。
それゆえ,心理職,福祉職といった私たち支援者は,上記のニーズに応えるべく,利用者様と支援者双方の安全を保ちながら,いかに継続的,安定的に支援を提供していくか,支援方法やシステムの検討が求められている現状にあるといえる。

本マガジン『6-2.インタビュー:オンライン心理相談の経験を聞く』でもお伝えした通り,公共の就労支援施設「よこはま若者サポートステーション」(以下,よこはまサポステ)では,この4月からオンライン相談を導入している。
その導入にあたっては,2月時点から現在に至るまで,サポートステーション事業の実施主体である厚生労働省と神奈川労働局,横浜市とも協議の上,運営法人(特定非営利活動法人ユースポート横濱)としての対応策について都度検討を重ねてきた。

現場での対応として,3月以降は対面相談を中止し,既存ケースは電話相談へと切り替え,新規ケースに関しては,電話では十分な対応が難しいとして,延期の措置を取ることとした。その上で,事態の長期化も予想されたことから,電話回線を用いず,音声のみでなくビデオでのやりとりも可能との点で,まずは既存ケースを対象に4月1日よりインターネットアプリ(Zoom)を用いた相談を開始した。4月中旬以降は新規ケースにも導入を始め,4月末段階で月間1,027件の相談のうち,約4割でZoom相談を実施している(その後,5月中旬の段階で5割超に至った)。なお,Zoom相談の導入が難しいケースについては,電話相談を引き続き実施している。

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2)オンライン相談システムの概要

よこはまサポステの支援内容として,対面相談と施設内でのセミナー(3月以降中止)が主であるため,電話やインターネットアプリを用いた相談自体が初の試みであり,相談員にとっても非常に大きな転換であった。
オンライン相談システムの検討・導入に際して,各機関の相談の枠組み(例:相談料の有無,相談時間)や利用者様の層,相談員数,通信環境(例:電話回線やインターネット環境,端末の有無,メールアドレスの有無)などに伴い,導入のしやすさは大いに異なると想定される。しかし,この取り組みが,今回の事態において対面相談の中止を余儀なくされた他機関の皆様にとって一つのご参考になればと,私たちの機関で実施しているオンライン相談のシステムと導入にあたっての注意点を,以下にお伝えする。

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①オンライン相談の導入について
先述の通り,3月以降は電話相談を実施していたが,相談員18名に対して電話回線が5回線と少なく,相談時間の重複により回線不足が生じると想定されたことから,相談員を各時間帯の相談開始00分と30分のグループに二分し,通常時は50分/1回の相談時間のところ,半分の25分/1回に短縮して実施することで,回線を確保することとした。

ただ,電話での実施に伴う相談時間の短縮に加え,音声情報のみのやりとりという点で,どうしても対面時と比べて相談の質が劣ってしまうこと,電話代も嵩んでしまうことから,電話回線を用いずに実施でき,ビデオを通しての対面も可能な,インターネットアプリの導入を検討することとした。

その導入においては,公共機関という施設の特性上,実施主体である厚生労働省と神奈川労働局,横浜市にも了承を得て,対面相談に代わる支援手段として活用の運びとなった。

アプリの選定については,Skypeやその他アプリとの比較を行い,できる限り利用者様の負担が少なく,操作も簡便なものという観点から「Zoom Cloud Meetings」(以下,Zoom)を採用することとした。Zoomの利点として,利用者様側のアカウント作成は必要なく,アプリのダウンロードを行い,相談員にメールアドレスを伝えるのみで実施できること,また一度きりのミーティングIDの発行で,その時間にしかやりとりできないシステムであるため,相談の枠が保たれやすいこと,加えて,通信におけるデータ量も少なく,通信の安定性が高いことが挙げられた。なお,1対1の通話であれば,時間制限なく無料で利用することも可能である。

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②導入にあたっての準備
Zoom相談を行う際は,相談員が手元のパソコンでZoomアプリを立ち上げてミーティングを開始し,そのミーティングID(URL)を貼付した「招待メール」を利用者様のアドレス宛に送り,利用者様が相談に使用する端末(スマートフォンやパソコン,タブレット)からそのURLにアクセスするのみで,アプリが起動し,相談が開始できる仕組みとなっている。

よこはまサポステの通信環境として,相談員は一人一台パソコンを所有している。ただ,Zoomの利用には,相談員側がアカウントを作成する際にメールアドレスが必要となるが,元々よこはまサポステではメールでの相談は行っておらず,利用者様と共有可能なメールアドレスは存在しなかった。そのため,今回新たにZoomアカウント用のアドレスを各相談員に一つずつ割り当て,そのアドレスから送信するメールについては,件名を「サポステZoom相談」に統一し,文面もZoomの説明とミーティングURL以外は記載せず,「配信専用アドレスで,返信があっても対応や回答は行っていない」旨を明記した,機械的な形式に徹底して運用することとした。

また,上記アドレスとは別に,相談に必要な資料の送付用として,全相談員が共有するメールアドレスも一つ作成した。Zoom相談と電話相談の両方において,対面ならば直接受け渡しできる情報を,画像データやpdf,URLを用いてやりとりするためのツールである。署名欄に「あくまで資料送付用である」「相談内容を送っても返事ができない」「共有アドレスである」ことを明記し伝えることで相談の枠組みを超えるようなメールでのやりとりが起こるリスクを防ぐこととした。

利用者様にZoom相談の導入を打診する際の確認用として,その利用者様がZoomを利用可能な状況にあるかを把握するための『フローチャート』を作成した。相談員はそれに沿って,①端末の状況(スマートフォンかパソコンの有無,パソコンの場合はマイクかマイク付きのイヤホンの有無),②インターネット環境(Wifiや定額契約などZoomを50分使える環境にあるか),③使用端末で使えるメールアドレスの有無の確認を行うようにした。

実際の導入打診については,相談員が事前に連絡もしくは電話相談時に行い,メールアドレスもその際に聴取することとした(4月以降に申し込みがあったケースについては,登録用紙にメールアドレス欄を設けるようにした)。

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③オンライン相談の実施
初めてZoom相談を実施する際は,開始時からZoomではなく,一旦電話でフォローした上でZoomに移行する形を取っている。少数ではあるが,フローチャート上は導入可能であっても,インターネット環境や端末の状態,メールの不着などでうまくつながらないケースも見られるためである。導入が難しい場合には,引き続き電話相談で対応している。

Zoomへの移行が確認できた後の相談は,時間になったら相談員からミーティングURLを貼付した「招待メール」を送る形で,電話は用いずにZoom相談を開始している。

新規ケースの初回相談(インテーク)に関しても,現在では可能な限りZoom相談で実施している。初回相談については,予約連絡時の説明とインテーク当日の電話からの導入を以ってZoomに移行している。導入が難しい場合には,既存ケースと同じく電話相談で対応している。

また,若者本人のみでなく,保護者の同席など複数人の参加が見込まれる場合には,初回相談の担当者から事前に連絡を入れ,当日の相談の流れや枠組み(誰から話すか,Zoomの場合に同席を希望するかなど)の確認を行うようにしている。なお,登録用紙や利用規約といった,通常時にはその場で記入,署名してもらう書類に関しては,郵送でやりとりを行っている。

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3)オンライン相談の効果と課題,今後に向けて

4月からZoom相談を導入し,対面相談と全く同じとは言えないまでも,ビデオ通話によって対面に近い状況での相談が可能になった。また,Zoomへの移行が進んだことで電話回線にゆとりが生じ,電話相談を継続しているケースに関して,5月以降は通常時と同じ50分/1回の相談を実施できるようになった。加えて,Zoom相談を行う中で,施設内での対面相談では想定しなかった効果も見られたが,それはインタビューで述べた通りである。

一方で,Zoomを含むオンライン相談の課題として,一つにはセキュリティの脆弱性の問題が挙げられる。都度のアップデートも行われてはいるものの,未知の危険に備えて,使用側としても常に情報収集を行い,ツールとしての安全性を確認しておく必要がある。

その他,私たちが公共機関として支援を行っていく上で,オンラインが使える環境にある人とそうでない人とで,そのサービスを提供・享受できる程度に差が生じてしまうことも,本来は公平・平等であるべきサービスが,利用者様側の環境に依拠している不安定さとも捉えられ,検討すべき課題であるといえる。

最後に,今後のオンライン相談の展望として,今回のような緊急事態における対面相談の代替手段としてのみでなく,その簡便さやビデオ通話の質の高さから,交通費の捻出が難しい,近隣に支援機関がない,外出に困難があるといった,何らかの事情で相談に出向くことが難しい層への新たなアプローチ手段としての活用であったり,対面相談の補助機能としての利用であったりと,引き続き活用の可能性を探っていきたく考えている。

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