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6-2.インタビュー「オンライン心理相談の経験を聞く」

(特集 できる!やらねば!オンライン相談)

津田容子(よこはま若者サポートステーション 相談員/臨床心理士・公認心理師・国家資格2級キャリアコンサルティング技能士)
with 下山晴彦(東京大学)+高岡佑壮(東京認知行動療法センター/東京発達・家族相談センター)

1)インタビューにあたって

3月半ば過ぎには,新型コロナウィルスの感染拡大が進み,外出自粛の要請が強くなった。多くの心理相談機関は,対面相談の感染危険性を考慮して通常業務の中止や縮小を考えるようになった。そして,医療機関付設以外の相談機関は,3月後半から4月初めにかけての感染拡大のスピードに追い立てられるように活動自粛を始め,4月7日の緊急事態宣言で活動を休止したところも多かった。

その間,ほとんどの心理相談機関では,対面心理相談(以下,対面相談)に替わるサポート手段を準備する余裕はなかった。中断をクライエント様に説明するのが精一杯であった。コロナ・ストレスで人々の不安が高まり,相談ニーズが高まったにもかかわらず,多くの心理相談機関は為す術がなかった。

そのような状況の中で,いち早く対面相談をオンライン心理相談(以下,オンライン相談)に切り替えて相談活動を維持したのがよこはま若者サポートステーションであった。4月初めより,対面相談の替りにオンライン相談を開始していた。緊急事態宣言が継続となった連休明けには,すでに1ヶ月以上のオンライン相談の経験を積んでいた。

幸い感染爆発は抑えられて緊急事態宣言の解除が進んだ。しかし,人々は,新型コロナウィルスの存在を前提とする,〈ウィズ・コロナ〉の生活を続ける。感染危険性は常に有り,人々は不安を抱えて日々を送る。そのような状況において心理相談へのニーズは高まる。したがって,オンライン相談の必要性は,むしろ高まっているともいえる。

そこで,よこはま若者サポートステーションの相談員として,オンライン相談実践に携わっている心理職である津田容子先生にインタビューをお願いすることとした。5月5日に1時間ほどのオンラインでインタビューを実施した。インタビューでは,今後オンライン相談の導入を考える心理職の参考になることを目的としてオンライン相談の実施経験から見えてきたことをテーマとしてお話をいただいた。なお,インタビューに際しては,東京認知行動療法センター/東京発達・家族相談センター心理職の高岡佑壮がインタビュー補助として同席するとともに記録と記事の作成を担当した。

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2)オンライン心理相談の導入の経緯

【下山】よこはま若者サポートステーション(以下,よこはまサポステ)がオンライン相談を導入した経緯を教えてください。

【津田】よこはまサポステは,厚生労働省が全国177カ所に設置している「地域若者サポートステーション」(サポステ)の一つで,就労に困難を感じる若者の職業的自立を支援する,公共の就労支援機関である。サポステは,ハローワークなどと同様に「社会機能の維持に不可欠な業務を行う事業者」にあたり,この期間も閉所はしなかった。ただ,支援を継続するにも3密の状態は防ぐ必要があったため,3月以降は所内でのセミナーと対面相談を中止し,既存ケースの相談は電話相談へと切り替え,新規相談は一旦延期とした。しかし,電話相談を行うにも,相談員の人数に比して回線が不足していたことから,通常の相談の半分の時間で対応せざるを得なかった。加えて,電話の場合は音声のみのやりとりと,どうしても対面に比べて支援の量と質の両方が劣ってしまうとの判断に至り,3月中旬の段階で電話以外の方法の検討を始め,4月1日以降は,Zoomというインターネットアプリを使ったオンライン相談を実施することにした。

【下山】公共の相談活動ということで閉所はできなかったのですね?

【津田】職員の健康が第一ではあるものの,委託で運営している公共施設として,業務自体は継続する必要があった。また,相談支援という業務の特性上,個人情報の取り扱いの問題もあり,テレワークでの実施は難しいという事情もあった。

【下山】サポステは,国が予算を出して実施している公共サービスという側面がある。相談員も含めて職員はエッセンシャルワーカーであり,利用者様のサポートをするという意識があったのでしょうか?

【津田】施設としての対応は,すべて国や自治体と協議した上で決定している。一部の事務作業はテレワークで実施したりもしているが,個人情報が関わる相談業務については,相談記録の作成も含めて,相談員が職場に出勤した上で行うようにしている。

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3)オンライン心理相談を実施してよかったこと

【下山】オンライン相談にして良かった点は?

【津田】来所が難しい状況でも,相談が継続できるという点は大きい。そしてこうした時期だからこそ,相談のニーズが高い様子も窺える。実際に収入の減少や失業,内定取り消しといった問題が生じたり,外出できないことによる生活リズムの乱れ,家族関係の悪化,先の見通しが立たないことでの不安感もあったりする。また,自宅にいる時間が長い分,この時期をどう過ごすかの相談も重要になってくる。サポステは,就労に向けてさまざまな段階にある方が利用しているため,体調などの問題で遅刻やキャンセルが多い方もいる。ただ,電話やオンラインでの相談になって以降,キャンセル数は明らかに減少した。その要因には,外出せずに相談できることが挙げられ,相談を行う上で,外出がハードルになっていることにも改めて気付いた。

【下山】なるほど,オンライン相談にして,相談をしやすくなった人がおられる。ところで,利用料はどうなっていますか?

【津田】国と自治体の予算で運営している施設であるため,利用料はかからない。15歳から49歳という対象年齢内であれば,居住地を問わず,誰でも相談できるシステムになっている。そのようなサポステにとって,オンライン相談は,新型コロナ感染拡大の危険性に対処した上で,支援体制を維持していくことを可能にした。さらに言えば,現状のニーズに応えるだけでなく,外出に関わる問題,体調や生活リズム,交通費の負担などで,これまで相談につながることが難しかった人を「発掘」する効果も有している。

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4) オンライン心理相談を実施してみえてきた課題

【下山】逆にオンライン相談のマイナス点はありますか?

【津田】Zoomの利用が,物理的に難しい人がいる。通信手段が固定電話やガラケーのため,アプリが使用できない,インターネットの通信に制限がある場合などが挙げられる。そうした通信環境の違いがZoomの利用可否にもつながり,結果的に享受できるサービスに差が生じてしまう。それは,本来平等であるべき公共施設のサービスとして考えると,望ましい状態ではない。また,オンライン相談の場合,対面相談と異なり,どうしても空気感が伝わりにくかったりする。さらに,よこはまサポステでは,相談員が職場で対応している関係で,出勤している職員同士の感染を防ぐため,Zoom使用時もマスクを着用する必要がある。そのため,より一層ノンバーバルな部分が相手に伝わりづらい難点がある。加えて,インターネットアプリの利用という点で,アプリ自体のセキュリティの問題もあり,使い続ける限りは,常に情報収集をしていく必要がある。

【下山】内容的にオンライン相談ではできないということはありますか?

【津田】物理的な制約でいえば,心理検査の実施は難しい。また,保護者や支援者が同席しての相談についても,実施できないことはないが,支障は生じやすい。対面相談であれば,3者で話すか別々の時間を設けるかなど,その場で柔軟に枠組みを調整することができる。一方,Zoomを通じて本人と保護者にお会いした場合に,別々にお話を伺っても,同じ空間内で聞こえてしまう心配があったり,万が一保護者と本人の間でトラブルが生じた際に,直接的な対応が難しかったりする。

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5)対面心理相談とオンライン心理相談の違い

【下山】オンライン相談をすることで,相談の内容が変わったということはありますか?

【津田】遅刻やキャンセルが減ったことに加え,自宅にいながら話せるシステムであるため,リラックスして相談に臨むことができる他,中には話すだけでなく「自分の好きなものはこれ」と画面越しに見せてくれたり,部屋の様子を紹介してくれたりする人もいる。その人が日頃過ごしている環境を垣間見られるのは画期的なことで,サポステでお会いする時とはまた異なる姿が,そこにはある。

【下山】対面相談ができなくなって仕方なくオンライン相談をしたら,思いがけずにオンライン独自の意味が見えて来たということですね。オンライン相談では,クライエント様の生活の場を共用するという特徴がある。これは,むしろアウトリーチの相談に近いですね。単なる対面相談の代替ではないオンライン相談独自の特徴ですね。サポステの場合は特に,どういう生活をしているかというのは重要ですよね。

【津田】その他のメリットとして,最近は面接や説明会をZoomで実施する企業も多く,相談でZoomを使用することで,事前練習になったりもする。また,Zoomには「画面共有」という機能があり,互いのデバイスの画面を映し出すことができる。求人サイトや企業,他機関のホームページを一緒に確認したり,履歴書や職務経歴書の添削をオンラインで行ったりと便利に使うこともでき,互いのITリテラシーが高まる体験にもなる。私たちはこれまで,対面相談が基本だと思っていた。ただ,こうした利点も踏まえると,対面相談が再開して以降も,オンライン相談を併用していく可能性は考えられる。

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6)オンライン心理相談を通常サービスとする場合の留意点

【下山】対面相談にオンライン相談を加えることで,利用者様が活用できるサービスが増えることになります。
オンライン相談を常設のサービスとする場合に留意する点はどういうものでしょうか?

【津田】先に伝えた通り,利用者様の通信環境により享受できるサービスに差が出てしまうことがある。また,利用者様の自宅で相談する形になるので,家だからむしろ話しにくいという場合もある。気持ちの切り替えもそうだし,プライバシーが守られなかったり,周りがうるさくて集中できなかったりと,自分のことを話すための枠組みが確保されないこともある。その他,オンライン相談を導入する際に,最初にZoomの説明をし,つながるまでサポートをしているが,どうしても相談以外の時間を要してしまう。よこはまサポステの場合,相談時間の最初の数分で相談員から説明,導入することが多いが,相談機関の体制によりけり,それをどの枠組みで,誰が行うかの問題も生じると思われる。

【下山】オンライン相談を維持するには,それなりのコストがかかるわけですね。

【津田】オンライン相談のメリットも大きいが,やはり対面で得られる情報量には劣ってしまう。また,現状でも電話やオンラインでの相談に抵抗感があり,対面相談の再開まで相談が中断,延期になっているケースもある。しばらくは3密を防ぐ必要がある中で,対面とオンラインとをどのように使い分けていくかは,今後の検討課題といえる。また,ZoomのミーティングURLを送る,相談に必要な資料をやりとりする目的で,期間限定のメールアドレスを利用者様に伝えているが,その際はメールでの相談,返信は行っていないことをメール署名に明記し,相談員側もそれを徹底するなど,相談の枠組みを守る意識は常に持っておく必要がある。

【下山】いつでもメールや電話で対応してくれると誤解されると困りますね。相談員も個人携帯や個人アカウントを使わないことが重要になりますね。相談の枠組みの維持の問題ですね。どういう場合に対面相談をして,どういう場合にオンライン相談をするのかのルールも必要となる。

【津田】対面相談の場合は「準備をして家を出て来所し,相談する」という流れ,意識がある。一方,オンライン相談の場合は「準備する」感覚は少ない。それは利点でもあるが「よし,話すぞ」という緊張感が失われたり,自宅という環境におけるプライバシーの問題への配慮が必要になったりもする。

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7)オンライン心理相談の限界

【下山】「家を出て相談に行く」ことは,現実へのエクスポージャーという意味がある。「社会に出て行くぞ! 対面で人と会うぞ!」という緊張感をもって現実に出ていくこと自体に意味がある。オンライン相談は,そのような意味を持てない。

【津田】その人にとって,対面相談とオンライン相談,どちらのメリットが大きいかの判断が重要になる。
それと関連して,やはり何かあったとき,例えば自傷他害の恐れが生じた場合など,どのように対処するかも考えておかなければならない。対面だとその場で対応できる可能性もあるが,オンラインではその難しさがある。

【下山】先程,オンライン相談は,アウトリーチの側面があるという話をした。しかし,実際のアウトリーチではなく,その場に心理職が居るのではない。だから,問題が起きたときに現実的な対処ができない。そのようなことを踏まえて,オンライン相談の場合,同意書が重要となりますね。

【津田】今後オンライン相談を継続するような場合には,そうした確認も必要になりうる。なお,現状でも相談申込書や利用規約といった確認,署名が必要な書類については,別途郵送でやりとりしている。また,サポステでは利用料がかからない分,金銭の授受は発生しないが,相談料が生じる機関の場合,その領収方法をどうするかということは,重要な検討点になると考えられる。

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8)オンライン心理相談を上手に進めるコツ

【下山】オンライン相談を上手に進めるポイントあれば教えて下さい。

【津田】相談員側も「オンラインに慣れておく」ことが重要である。相談システムとして導入するとなると,担当者による差が生じないよう,どの相談員もある程度対応できるようにしておかねばならない。
「Zoomが使えるか」を確認するにも,聞き方によっては混乱が生じるので,尋ねる際のポイントやフローをマニュアル化するなどして,共有しておくことが大切になる。その他,オンライン相談の気軽さもあり,相談員側も対面相談と比較して「相談が進まなくてもいいか」という気の緩みがないように,意識しておく必要がある。

【下山】確かに「クライエント様は家から相談室までわざわざ来ている」という意識をもつことで,相談を受ける心理職は責任を感じますね。さらに高額な面接料をもらっている場合には,その責任は重くなるので必死になって対応します。無料でオンラインであると「顔見れてよかったね」で終わってしまう危険もありますね。

【津田】「コロナで大変ですね」で相談が終わることは避けたい。むしろ「このような事態だからこそ,話し合っておくべきことは何か」を考えて相談していく必要がある。コロナ対策の給付金や手当などの情報も,常にアップデートして,必要な方には情報提供を行うことも求められている。なお,相談員側はオンライン相談を毎日,毎時間続けている中で,当初の緊張感が薄れて,惰性に流れることもある。その場合,慣れない中でオンラインに参加する利用者様と緊張感の格差が生じる場合もあり,そうした感覚の違いにも気を配っておかねばならない。

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9)対面心理相談の再開後に向けて

【高岡】今後は,コロナウィルス感染が沈静化し,対面相談が再開されるようになってくると思います。その場合に関して考えていることがあれば教えて下さい。

【津田】コロナが沈静化したとしても,どのタイミングで再開するかは,よく検討する必要がある。しばらくは3密の状態を避けるべきと想定すると,初回相談の方,まだ対面が実現していない方など,優先度の高いケースから段階的に再開していく可能性もある。所内でのセミナーについても,長期化する場合にはオンラインでの実施となるかもしれない。
加えて,よこはまサポステは,他機関への紹介や協力事業所での職場体験など,他機関との連携が非常に多い。そのため,他機関の運営状況にも影響を受けるところがある。そして利用者様には「今後仕事があるのか,見つかるのか」などの不安を感じている方も多い。経済が停滞し,求人の状況も変わりゆく中で,どのような支援をしていくのか,就労支援機関として考えていくべき部分でもある。
また,今まで家族から「引きこもるな」「外に出ろ」と言われてきたが,この期間は言われなくて気が楽とむしろ気分が安定したり,家族自身も自宅で過ごす生活になったことで,外に出られない辛さ,苦しさが理解されやすくなったりと,自粛期間中によい方向へ転じたケースもある。ただ,彼らが今の生活を維持するにも,家族の経済力は欠かすことができない。しかし,コロナ不況で家族が失業に見舞われたりした場合に,現状が一気に崩れる可能性もある。それゆえ,これからの相談においては,本人のみでなく家族,その背景にある経済状況など,様々な視点をもった上で支援していく必要があるだろう。

※よこはま若者サポートステーションのオンライン相談システムについては,本号の6-5に詳しく解説されている。そちらも併せてお読み下さい。

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