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6-4.オンライン心理相談のスタートガイド

(特集 できる!やらねば!オンライン相談)

内村慶士(東京大学大学院臨床心理学コース博士課程)

1)はじめに

「オンライン心理相談を始めたいけれど,どこから手をつければいいか分からない」
「オンライン心理相談って本当に安全なの?」

感染症対策が求められる中,クライエント様に相談機関までお越しいただくことは難しくなっている。最近では,SkypeやZoomなどのテレビ会議システムによる心理面接を検討する相談機関が増えている。しかし,元々オンライン面接を実施したことのない相談機関にとっては,どうやって始めて良いか分からず,実際には様子見という判断になる場合も少なくない。
オンライン面接は,導入にこそ労力がかかるが,クライエント様の利用コストを下げることができる画期的な方法でもある。図1に示した5つのステップで,安全かつ効果的に心理相談を進めることができる。この記事では,ステップごとに,気をつけるべきポイントをまとめていく。
このような状況だからこそ,心理支援を必要としているクライエント様が多くいる。少しでも多くの相談機関がこの記事をきっかけに,オンライン面接を取り入れ,支援を必要とするクライエント様に心理支援を届けられることを期待している。

オンライン相談面接スタートの5つのステップ
STEP 1 通信媒体を選ぶ
STEP 2 通信媒体に慣れる
STEP 3 入金管理をどのようにするか決める
STEP 4 クライエント様のスクリーニングをする
STEP 5 インフォームド・コンセントを確認する

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STEP 1 通信媒体を選ぶ

オンライン心理相談を始めるには,どのテレビ会議サービスを使用するか決める必要がある。数多くあるテレビ会議サービスから,どれを選べばいいのだろうか。

現時点で,有名どころのテレビ会議サービス(Skype,Zoom,Webexなど)では,通信品質という観点からは大きな差は見られない。基本的に,アクセスしたい時にスムーズにアクセスでき,映像の乱れなども一定以下に抑えられている。

サービスを選ぶ際には,「アクセス管理」「セキュリティ」という2つの基準が大切になる。

◆アクセス管理
アクセス管理とは,心理職とクライエント様さんが,面接以外の時間で,やりとりが発生しないようにすることを表す。これは,「治療構造」の管理という観点から,非常に大切なポイントになる。そこで、本稿では,「治療構造」を「相談構造(相談の枠組み)」としてそのあり方について検討する。

具体的には,面接以外の時間に,クライエント様さんから心理職に連絡が来ないようにしなくてはいけない。これができていないと,窓口を24時間体制で開いているという状態になってしまう。

Skypeによるオンライン面接では,心理職のIDとクライエント様のIDが直接繋がってしまうことから,そのようなリスクが生じる。それに対して,心理職とクライエント様が,URLを通じて繋がるZoomなどのサービスでは,その場限りのつながりになるので,その危険性は無くなる。

通常の面接と同様に,「相談の構造(枠組み)」を閉じることができるか,サービスを選ぶときの一つの基準になる。

◆セキュリティ
クライエント様の大切な話が,面接外に流出することを防ぐ必要がある。このセキュリティに関する問題は,オンライン心理相談を始める際の,一番の心配事である。

セキュリティを考える際には,「お墨付き」がついているかが一つの基準になる。例えば,医療関係の有名なお墨付きの一つにHIPPAという基準がある。これに準拠するということは,プライバシーの保護について一定の基準を満たしていることを表す。

例えば,Zoomの有料版や,Microsoft Teamsは,このHIPPAという基準に準拠している。医療機関向けではないものの,Webexは,FISCという厳しい基準をクリアしている。このような「お墨付き」を得ているものを選ぶことは,セキュリティに対する最低限の配慮と言える。

しかし,残念ながら,オンライン環境という性質上,ハッキングや個人情報流出というリスクをゼロにしきることはできない。大切なのは,上記を含めたセキュリティの状況について,面接開始時にきちんとインフォームド・コンセントを確認することである。これについては「STEP 5 インフォームド・コンセントを確認する」で詳しくまとめる。

以上,「STEP 1 通信媒体を選ぶ」について説明した。具体的なサービスの説明については,6-6.オンライン心理相談(有料)のシステム構築の実際 もご覧ください。

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STEP 2 通信媒体に慣れる

使用するテレビ会議システムを決めたら,それに慣れる必要がある。システムの使い方については,それぞれのサービスで分かりやすいマニュアルが公開されているので,それを読みながら進めるのがよい。

一方で,オンライン面接では,モニター越しでやりとりすることや,お互いの上半身しか見えないという独特なコミュニケーションの中,面接を進める必要がある。それにより,面接の効果が下がるのではないかという懸念もあるが,近年の研究では,その可能性を否定する研究も数多くさなれている(e.g., Norwood et al., 2017; Stubbings et al., 2013)。オンライン面接の独特なコミュニケーションを踏まえることで,十分な効果が期待できる。

◆テレビ会議システムを使ってみる
慣れるためには,実際に使うことが一番である。実際に使うことで,「自分が相手にどう見えるか」,「話すときの相手との呼吸の感覚」,「どんなトラブルが起こりうるか」などをシミュレーションすることができる。

5~10分お試しで使ってみるだけでは感覚は掴めないかもしれない。クライエント様との面接を始める前に,相談機関で行なっている通常の会議で使ってみることが役立つ。例えば,今後の運営方針に関する打ち合わせや,ケース・カンファレンスなどが挙げられる。

その際大切なのは,全員が会議を開くホストの役割を体験することである。オンライン面接では,心理職の側からクライエント様に面接開始の連絡をしたり,URLを送ったりする。その際,一度その手順を経験しておくと,「登録に手間取って,開始時間が遅れてしまった」というような失敗を防ぐことができる。

◆トラブルへの対応を決める
実際に使ってみると,システム上のトラブルに遭遇することも少なくない。その体験を生かし,トラブルへの対応もシミュレーションしておくことが重要となる。

例えば,電波が不安定になり中断を余儀なくされることもある。このような場合に備え,いろいろな対応策を考えおくことも必要である。

・一度,セッションから退室したら解決するか
・システムを再起動したら解決するか
・お互いのパソコンの動作を軽くしたら解決するか(webをたくさん開いているなど)
・Wi-fi接続(通信速度)に異常はないか確認する

などさまざまな対応が考えられる。試しに使ってみる中で,同僚と対応について話し合っておくことも役立つ。

ちなみにではあるが,このようなトラブルに対応するにあたって,時間がかかる場合もあるので,クライエント様には,「トラブルの際には,メールまたは電話で対応を伝えます」とあらかじめ取り決めをしておくことや,連続で面接を入れず30分の間隔をとって予約を取っておくなどの対応は,必ずしておくことが必要となる。

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STEP 3 入金管理をどのようにするか決める

STEP 3は,相談機関にとっては切実な問題である,クライエント様からどのように相談料金を受け取るかについてである。

まず,相談料金は必ず前払い制にする。後払い制にしてしまうと,面接を受けた後にクライエント様が料金を支払わなかった場合,回収が困難になるか,回収のための面倒な手続きが必要になってしまうからである。オンライン心理相談を導入する際には,事前に「面接日の何日前までに入金してもらう必要があるか」,「入金が確認できない場合,面接が実施できないこと」などを説明しておく。

以下では,料金をお支払いいただくための2つの方法をご紹介する。どちらも汎用性の高い方法になっている。

◆銀行振込
銀行振込は,すでに当日キャンセル料の振り込みなどでご利用されている機関もあるかと思う。安全性が高い上に,クライエント様にとって馴染みが深く,相談機関としても導入がしやすい方法になっている。

一方で,不便な点もある。一つ目は,クライエント様さんが外出しなくてはならなくなる点である。これは,相談機関も同様で,入金確認のために,わざわざ,銀行やATMに確認しに行かなくてはならなくなる。

これを解決する方法としてネットバンキングの導入がある。ほとんどの銀行で,既存の口座にネットバンキング機能をつけることができる。ただし,申し込みから利用できるまで,2~3週間程度かかるため注意が必要である。

また,異なる銀行間の振り込みでは,入金の反映が翌日になる場合があることも不便な点である。それを踏まえて,クライエント様に入金期限をお伝えする必要がある。その他にも,入金手数料をクライエント様が負担する点にも留意する。

銀行振り込みでの支払い管理は,手堅い方法である一方で,スピードや利便性がやや損なわれるという特徴がある。

◆クレジットカードでの支払い
二つ目の選択肢に,クレジットカードでの支払いがある。これは,決済代行会社にクレジットカードでの支払いを管理してもらう方法になる。

やや分かりづらいため,スーパーでお買い物をすることを例として説明する。クライエント様がお買い物客として,レジ係である決済代行会社に料金を支払い,最終的には店長である相談機関に料金が渡ることになる。この場合,相談機関は,レジ係である決済代行会社に手数料を渡す。

このクレジットカードでの支払い管理は,銀行振り込みにはない,スピーディーさ利便性の高さを特徴として持つ。入金の反映もすぐに行われるため,支払い期限にゆとりを持たせることができる。

ただし,クレジットカードでの支払いに慣れていない人にとっては,インターネットでクレジットカードの情報を入力することに,抵抗を感じることもあると思う。これを解決する方法として,PayPalというサービスもある。登録が必要だが,PayPalを利用すると,クレジットカードの情報を入力することなく入金をすることができる。
支払いに際しては,クライエント様に請求書をメールで送れば済むようになっているものを選べばよい。

「クレジットカード 決済代行」でネット検索をするとさまざまな情報が得られる。以前は法人でなければカード決済システムの導入は難しかったが,最近では個人事業主(ただし個人開業届を提出している必要がある場合が多い)でも決済口座を作れるサービスもある。

以上,銀行振込とクレジットカード支払いという2つの方法を紹介した。それぞれが互いにない,強みと弱みを有している。窓口は広い方が良いので,2つともを導入するという方法もあると思う。また,キャンセル料の支払い方法として便利であるので,新型コロナウイルス収束後も継続して利用することも一案である。

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STEP 4 クライエント様のスクリーニングをする

STEP 4からは,実際にオンライン心理面接を提供する段階に関わってくる。クライエント様がオンライン相談をできる状態にあるのかをスクリーニング(アセスメント)する必要がある。それには,「物理的な問題のチェック」「臨床的な問題のチェック」の2つをする必要がある。特に,「臨床的な問題のチェック」は,クライエント様を守るため,非常に大切なプロセスになる。

◆物理的な問題のチェック
まず,インターネット接続に問題がないかクライエント様に確認してもらう。これを事前に確認しておかないと,「入金したのに面接が受けられなかった」となり,クレームや返金作業に時間を費やしてしまうことになる。

各テレビ会議サービスでは,快適な通信に必要な通信速度を公開している。通信速度の単位はbpsと呼ばれるもので,アプロードするときの通信速度(上り)と,ダウンロードするときの通信速度(下り)がある。Webで,「通信速度 測定」と検索すると,bpsを簡単に調べられるサイトが出てくるので,面接を始める前に確認をお願いする。

次は,インフォームド・コンセントの内容とも関連するが,プライバシーが保たれる場所でオンライン面接に参加できるか確認する。面接の途中で,クライエント様の部屋に人が入ってくることがないか,話の内容が聞かれない場所を用意することができるかなど,通常の面接と同様の「相談構造(枠組み)」が保たれる環境を設定する。

以上については,もちろん心理職自身も確認しておくことが大前提である。

◆臨床的な問題のチェック
オンライン面接に伴う臨床的な難しさを考慮に入れた上で,クライエント様に提供する必要がある。

まず,オンライン相談には,「相談構造(枠組み)」が曖昧になりやすいという問題がある。「いつも生活している場所から,ボタン一つで心理相談に繋がれる」という側面は,オンライン相談のメリットであると同時に,注意が必要な部分である(Vincent et al., 2017)。「相談構造(枠組み)」を保つことが必要なクライエント様へのオンライン相談の導入には,慎重になる必要がある。

また,自傷・他害の恐れがあるクライエント様には,特別な配慮が必要である。自傷・他害の危険性が高いと判断された場合,通常の面接ではその場で対応をすることができるが,オンライン相談では難しくなる。それに備え,クライエント様の身近な人の連絡先をあらかじめ確認しておき,危険がある場合には対応をお願いすることを共有しておく。医療機関ではない相談機関の場合には,医療と連携を保っておくことも必要となる。

オンライン心理相談は便利な方法である一方で,安易に導入することは,クライエント様に危険を及ぼす可能性がある。オンライン心理相談の限界を知り,必要なクライエント様に適切な支援を届ける意識を持つことが大切である。

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STEP 5 インフォームド・コンセントを確認する

最後のステップになるが,これが最も大切なステップと言っても過言ではない。インフォームド・コンセントを得るプロセスは,クライエント様だけでなく,心理職を守るために欠かせないものである。

新たに開始する面接については,いうまでもないが,すでに対面での面接を実施しているクライエント様に対しても改めて同意を得る必要がある。クライエント様が,オンライン心理相談に伴う危険性も含めて,納得して始められるようにする。

今までのステップの振り返りにもなるが,インフォームド・コンセントを得ておくべき事項についてまとめた。なお,より包括的なリストについては,「遠隔心理サービスのための相談体制のチェックリスト」もご参照ください。
https://psych.or.jp/telepsychology/checklist_for_telepsychological_services/

◆アクセス管理について
・面接時間以外の連絡には応じられないことを説明する
・メールや電話で予約以外のやり取りはできないことを説明する

◆セキュリティ対策について
・使用する媒体のセキュリティレベルについて説明する
・それでも,情報流出のリスクはゼロにできないことを説明する

◆入金管理について
・キャンセルや遅刻の場合の返金のルールについて説明する
・いつまでに入金していただくか説明する

◆相談環境について
・ネットワーク接続に問題がないことを確認してもらう
・接続トラブルがあった場合は,電話またはメールで対応を指示する

◆自傷・他害などの緊急時の対応について
・緊急連絡先として,身近な人の連絡先を教えてもらう
・自傷・他害の恐れがあると判断された場合,身近な人に連絡を取ったり,適切な機関にリファーする可能性があることを説明する

◆その他
・面接を録画および録音しないことを約束してもらう


インフォームド・コンセントは,相談関係を築くために不可欠なプロセスの一つである。このような状況だからこそ,インフォームド・コンセントを通じて,クライエント様の不安を取り除くことが必要である。そしてそれは,心理職とクライエント様,お互いが傷つかないために必要な約束事でもある。デジタル署名が難しい場合には,この部分のみ録音して,口頭で同意を得る作業も選択肢になる。

2)補足:倫理的問題について

STEP 4とSTEP 5は,広く捉えると倫理的問題に関わるものと言える。
(参照:American Psychological Association:Guideline for the Practice of Telepsychology)

テレビ会議システムは,いつでもどこでも心理相談を実施できる,とても便利な媒体である。しかし,クライエント様によっては,テレビカウンセリングが適さない方や,直接お会いできない中での緊急対応をせざるを得ない方もいる。場合によっては,普段の臨床実践以上の専門性が求められるケースも少なくない。

上記のような難しいケースに対応するためには,この記事をお読みの皆様が所属されている機関のように,受付システム緊急時のマニュアル心理職の研修システムが整っていることが不可欠である。
しかし,新型コロナウイルスの流行を機と見て,拙速的にオンライン心理相談事業を立ち上げている企業や団体も現れてきている。対象者を判別する受付システムもなく,緊急時の対応を心理職が一人で抱えるしかない中,心理面接を進めることは,非常に危険なことである。

この記事をお読みになられている相談機関の方々が,毅然とした臨床技能に基づいてオンライン心理相談を始めることが,こうした問題の大きな抑止力になることと思う。

3)終わりに

オンライン支援理相談を始めるのは心理職にとってチャレンジであり,大きな不安を抱えることでもある。しかし,新型コロナウイルスが流行する中,クライエント様は,より大きな不安に苦しんでいる。この記事が,心理職の背中を押すきっかけとなり,一人でも多くのクライエント様が,適切な心理支援を受けられることを心より祈っている。

文中で引用した研究
Norwood C, Moghaddam NG, Malins S, Sabin-Farrell R. (2018)Working alliance and outcome effectiveness in videoconferencing psychotherapy: A systematic review and noninferiority meta-analysis. Clinical Psychology and Psychotherapy, 25(6), 797-808. doi:10.1002/cpp.2315
Stubbings DR, Rees CS, Roberts LD, Kane RT. (2013)Comparing in-person to videoconference-based cognitive behavioral therapy for mood and anxiety disorders: randomized controlled trial. Journal of Medical Internet Research. 15(11), e258. doi:10.2196/jmir.2564
Vincent, Christopher & Barnett, Mary & Killpack, Louisa & Sehgal, Amita & Swinden, Penni. (2017) Advancing Telecommunication Technology and its Impact on Psychotherapy in Private Practice. British Journal of Psychotherapy. 33. 63-76. 10.1111/bjp.12267.

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