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6-3.オンライン心理相談の現状と課題

(特集 できる!やらねば!オンライン相談)

三枝弘幸(東京大学大学院 臨床心理学コース博士課程)

新型コロナウイルスが蔓延する中,心理相談の現場においても感染防止のための対策が急がれている。従来のように心理職とクライエント様が相談室で直接対面すると,「3密」の条件が揃い,感染拡大のリスクが高まってしまうため,代替手段として,遠隔通信技術を活用したオンライン心理相談の実施がますます広がっている。

新型コロナウイルスの蔓延は,オンライン心理相談の重要性を示すと同時に,一方では,オンライン心理相談サービスの普及の不十分さを浮き彫りにした。現在,オンライン心理相談サービスの増加がすでに始まっているが,不安に煽られサービスの増設ばかりを急ぐあまり,安易なサービスが乱立する事態も危惧されている。オンラインという環境は,リスクマネジメントがとても難しいため,安易な心理相談システムを作ってしまうと,心理職とクライエント様の双方を危険に晒すことになってしまうので,そのような事態は避けなければならない。

オンライン心理相談サービスを充実させていくためには,心理職や相談機関が責任を持って,有効で安全な心理相談システムを整備していく必要がある。今後のオンライン心理相談の発展に向け,本稿では,世界と日本のオンライン心理相談の現状をまとめる。また,アメリカ心理学会が作成したオンライン心理相談実施のガイドライン(“Guidelines for the practice of telepsychology”)の内容も概観し,最後に,本稿全体を踏まえた考察を行う。

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1)オンライン心理相談の必要性

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために,心理相談の現場で「3密」の条件が揃うことを回避する有効な手段の1つとして,遠隔通信技術を活用したオンライン心理相談が注目されている。オンライン心理相談は,「3密」状態を回避できるだけでなく,クライエント様にとって都合の良い時間や場所で心理相談を実施することができるなどの特長を持っているため,相談機関を直接訪れて受ける心理相談と比べると,クライエント様にとって,支援の受けやすさに優れている。新型コロナウイルスが蔓延する今,オンライン心理相談が持つ「支援の受けやすさ」という特徴は,ますます重要になってきている。

●「3つの密を避けましょう」(出典:首相官邸HPより)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#kokumin

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2)さまざまな通信形式

オンライン心理相談に用いられる通信形式はさまざまであり,メールやチャット,通話,ビデオ通話などの中から,いくつかの通信形式が組み合わされてサービスを構成しているケースが多い。「安易なシステムを増設しない」という観点から,心理相談に用いる通信形式に関しても,長所と短所を精査した上で選択する必要がある。そこで,オンライン心理相談で用いられる代表的な通信形式について,それぞれの特徴を以下に簡単にまとめる。

メールを用いた心理相談は,心理職とクライエント様がメッセージのやり取りをする頻度や時間が自由である場合が多い。そのため心理職とクライエント様の双方に都合の良いペースでやり取りを進めることができる。

チャットを用いた心理相談は,文字を用いたコミュニケーションを行う点でメールを用いた心理相談と多くの共通点を持っているが,メールと比較すると,リアルタイムでのコミュニケーションが行いやすい点が特徴である。

通話を用いた心理相談においては,音声を用いたリアルタイムでのコミュニケーションを行うことができるため,メールやチャットのような文字を用いたコミュニケーションよりも円滑なコミュニケーションを行うことができる。また,メールやチャットと比べ,声の大きさや明るさなど,伝えられる非言語情報が多くなる。

ビデオ通話を用いた心理相談においては,音声を用いたリアルタイムでのコミュニケーションが行えることに加え通信画面に相手の姿が映し出されるため,表情や身振りなどを用いて,通話形式よりも豊かな非言語的コミュニケーションを行うことが可能となる。

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3)海外のオンライン心理相談サービス

海外のオンライン心理相談サービスの中で有名なものの一部を,以下にまとめた。

BetterHelpは,チャットや通話,ビデオ通話を用いたカウンセリングを行っている。BetterHelpのカウンセラーは,心理学において修士号または博士号を取得し,2,000時間位以上のトレーニングを積んだ厳選された人材が採用されている。また,BetterHelpの提供する心理相談サービスの効果を検証する研究が行われており,その有効性が確認されている。
Online-Therapy.com
は,インターネットを用いた認知行動療法に基づく支援プログラムを提供している。クライエント様は,セラピストのサポートも受けながら,ワークシートやヨガなどを取り入れた多様な心理療法プログラムに取り組む。
その他にもさまざまなオンライン心理相談サービスがある。talkapaceMDLIVEは,無制限で行えるチャット・カウンセリングをベースにしつつ,オプションでビデオ通話による相談も提供している。また,7cupsでは24時間いつでもサイトにログインすることができ,同じ時間にログイン中の“アクティブリスナー”と呼ばれるセラピストに悩みを相談することができる。アクティブリスナーよりもさらに上級のセラピストに悩みを相談できるオプションもある。

●BetterHelp
https://www.betterhelp.com/
●Online-Therapy. com
https://www.online-therapy.com/
●talkapace
https://www.talkspace.com/
●MDLIVE
https://www.mdlive.com/counseling/
●7cups
https://www.7cups.com/

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4)日本のオンライン心理相談サービス

日本でも,さまざまなオンライン心理相談サービスが行われている。

cotreeでは,臨床心理士の資格保持者がカウンセリングを行っている。カウンセラーと1日1通ほどの頻度でメッセージのやり取りを行うプログラムや,通話やビデオ通話を用いたカウンセリングを行うプログラムがある。KIRIHAREも,臨床心理士の資格保持者によるカウンセリングサービスを提供している。
他にも,トークCAREでは,LINEアプリ内のチャットや通話機能を使い,24時間いつでもカウンセリングが受けられる。Remeでも,チャットによる匿名相談が24時間いつでも受けられる。
また,ボイスマルシェは女性専用のオンライン心理相談サービスで,電話によるカウンセリングが受けられる。

●cotree
https://cotree.jp/
●KIRIHARE
https://kirihare.jp/
●トークCARE
https://talk-care.line.me/nayami/
●Reme
https://reme-nomal.com/
●ボイスマルシェ
https://www.voicemarche.jp/

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5)オンライン心理相談実施のためのガイドライン

オンライン心理相談は,優れたアクセシビリティを長所として持つ一方で,リスクマネジメントが難しいなどの課題も抱えている。そのような状況を踏まえ,アメリカ心理学会が“Guidelines for the practice of telepsychology”を作成するなど,オンライン心理相談を実施するためのガイドラインの作成も進んでいる。
“Guidelines for the practice of telepsychology”では,オンライン心理相談の実施に必要な知識や技術を身につけるための専門的なトレーニングを,心理職が十分に積む必要があると述べられている。また心理職は,緊急事態への対応スキルや,ICTに関する知識,クライエント様の居住地域の法律の知識なども身につける必要があると述べられている。
倫理面に関しては,インフォームドコンセントや守秘義務,プライバシーの重要性が述べられており,心理相談システムにおける情報の送信方法や保存方法,処分の方法などが,具体的に解説されている。また,オンライン通信を用いて心理相談を行うことがクライエント様にとって最適な支援方法であるかどうかに関して,常に気を配っておく必要があるとも述べられている。
その他にも,オンラインで行う心理検査の結果を分析する際の注意点や,法制度の異なる地域にオンライン心理相談サービスを提供する際の確認事項など,リスクを最小化するための詳細なガイドラインがまとめられている。

●アメリカ心理学会
https://www.apa.org/
●“Guidelines for the practice of telepsychology”
https://www.apa.org/pubs/journals/features/amp-a0035001.pdf

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6)まとめ

新型コロナウイルスの蔓延により,新たなオンライン心理相談サービスが増えてきている。オンライン心理相談は,相談機関を直接訪れて受ける心理相談と比べると,クライエント様にとって,支援の受けやすさに優れているため,新型コロナウイルスが蔓延している現在,その長所が一層役立つことが期待できる。
一方で,心理職に専門的なスキルの習得の機会を与えずにオンライン心理相談を行わせてしまう事態や,カウンセラーとクライエント様の紹介の場を提供するだけの単なるマッチングビジネスが乱立してしまう事態も,危惧されている。不安に煽られサービスの増設を急ぐあまり,安易なサービスが増加してしまうことは,望ましいことではない。オンラインという環境は,リスクマネジメントがとても難しいため,安易な心理相談システムを作ってしまうと,心理職とクライエント様の双方を危険に晒すことになってしまうので,そのような事態は避けなければならない。“Guidelines for the practice of telepsychology”などの,専門機関が作成したガイドラインに記載されている内容は,最低限守る必要がある。
質の担保された,便利で有効なオンライン心理相談サービスを充実させていくためには,心理職や相談機関が責任を持って,支援実施のためのガイドラインや安全な支援システムを,早急に整備していく必要がある。

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