日本代表png

『テクニックはあるが、「サッカー」が下手』にならないために

 前回の記事では「プレーモデル」「サッカーメソッド」のことについて記載した。今回は、「サッカーメソッド」についてもう少し深く記載していく。

「コンテクスト」とは

 前回の記事にも記載したが、カタルーニャサッカー協会およびINEFC大学院での授業内容におけるサッカーメソッドには大きく2つの「コンテクストがない」「コンテクストがある」という方向性がある。

画像5

 では、この「コンテクスト」とはどのようなものなのか。

 コンテクストとは(英: Context)、文脈や背景となる分野によってさまざまな用例がある言葉であるが一般的に文脈(ぶんみゃく)と訳されることが多い。また、会話や文章の文脈により「脈絡」、「状況」、「前後関係」、「背景」などとも訳される。

 つまり、練習メニュー内に、「状況」、「前後関係」、「背景」などが含まれているかどうかで方向性が決まる。そのため、サッカーにおけるコンテクストとは、「サッカーの試合に現れる意思決定」「プレーモデル」と関係があるかといえる。
 
 以上のことをまとめると、「コンテクストがない」「コンテクストがある」メソッドの特徴は以下のようになる。

コンテクストがないメソッドの特徴

 主に「サッカーの試合で現れる意思決定を考慮しない」こと、および、「チームのプレーモデルの方向性や関係を持たない」という特徴をもつ練習メニュー。

 このメソッドが重要ではないということではなく、カテゴリー、プレーヤーの年齢、マイクロサイクルの日・・・etcによって、多くしたり、少なくする。
コンテクストがあるメソッドの特徴

 「サッカーの試合に現れる意思決定」と「チームで決定されているプレーモデルの方向性」の関係性が考慮されている特徴がある。


 選手のカテゴリーが上がり、サッカーにおける基礎を理解することができるようになるにつれ、このメソッドの存在が多くなる。

 ここで、気になるのが「そもそもサッカーの練習をしているのだから、全ての練習はコンテクストが含まれているのでは」ということである。
 例えば、疑問視されている走り込みや筋トレも「試合中に走れていない」「フィジカル負けをしている」などの意図で行われるのであれば、サッカーにおけるコンテクストが含まれている練習といえるのではないだろうか。

 しかし、非線形とサッカー」の記事で記したように、サッカーでは相互作用する多数の部分系の集団が全体系をしているため、分解することで本質から離れてしまうことを忘れてはいけない。

 つまり、ドリブルやパス、フィジカルなどの「アクション」だけに注目するのではなく、試合中に起きている「現象・シチュエーション」を捉え、その中で起きている問題をどのように解決するのかを練習する必要がある。

「コンテクストがない」メソッドとは

 『ポゼッションやゲーム形式はよりサッカーに近い状況が多く出そうだからコンテクストがあって、パス練習はコンテクストがない』ある程度はその通りなのだが、はっきりと区切ることもできない。
 なぜなら、同じタイプの練習メニューでも「コンテクストがない」「コンテクストがある」ものとなるからである。

 4vs2のポゼッション練習を例にしてみる。
 
 以下に示すのは「コンテクストがない」メソッドのメニューである。

画像1

 この種の練習では、バリエーションとしてタッチ数を「2タッチ以下」「ワンタッチ/ダイレクト」に制限したり、「守備をしている2選手間を通したパス」で1点などの様々なルールを加えて行われることが多いと思う。

 また、選手のレベルが高くなればなるほどタッチ数を「フリータッチ」から「2タッチ以下」「ワンタッチ」・・・etcとタッチ数を少なくしていくことが多い。

 実際に、レベルが高い選手のほうがタッチ数が少なくてもボールを取られることなくプレーできる傾向にある。FCバルセロナの「ロンド」の映像を参考にしていただければと思う。

 う、うますぎる…。

 タッチ制限のルールは「状況判断を速くする」「ボールをもらう前に考えておく」という意図で用いられるのではないだろうか。

 しかし、実際のサッカーの試合では上の映像の「ロンド」のようなワンタッチパスだけでゴールまでいくことはほぼ不可能といえる。
 また、実際の試合では「ワンタッチ」でプレーしないほうが良いシチュエーションもある。「ワンタッチ」でプレーすることによって、ミスをしたり、チャンスを作ることができないことは多く見受けられる。

 つまり、実際のサッカーにおける「状況判断の速さとはワンタッチでプレーすることではない」ので、「状況判断を速くさせる」という意図で加えたタッチ制限のルールは、「サッカーの試合に現れる意思決定」「プレーモデル」から離れてしまう要素ともいえる。

 このように、アクションに注目をして、試合中に起きている「現象・シチュエーション」を考慮しないで行う練習を「コンテクストがない」メソッドという。

 「コンテクストがある」メソッドとは

 同様に4vs2のポゼッション練習を例に「サッカーの試合に現れる意思決定」「プレーモデル」を考慮した「コンテクストがある」メソッドの例を示す。

画像2

 自チームのポジションを考慮する。

画像3

 自チームおよび相手チームを考慮する。

画像4

 試合の状況を考慮する。

 この例では「プレーモデル」こそ含まれていないが、先ほどと同じ4vs2のポゼッション練習でも、「サッカーの試合に現れる意思決定」があることで「コンテクスト」を含ませることができる。

 このように、試合中に起きている「現象・シチュエーション」を捉えて行う練習を「コンテクストがある」メソッドという。

まとめ

 上述してきたように、同じ練習メニューでも「コンテクストがない」「コンテクストがある」ものとなる。そのため、「コンテクストがない」メソッドの練習でも「コンテクストがある」メソッドの練習にシフトしていくために、一つ一つのプレーに戦術的意図を持たすことが極めて重要になってくる。

 以上のようなことを考慮し、年代を重ねるにつれて「コンテクストがない」メソッドから「コンテクストがある」メソッドの練習メニューにシフトしていくことで『テクニックはあるが、「サッカー」が下手』な選手が生まれなくなるのではないだろうか。

 今後は本記事での内容を踏まえて、具体的な練習内容を紹介しながら、戦術的意図や戦術的ピリオダイゼーション、個人戦術などについて記載していこうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?