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文系博士課程院生の生態と心境

自分が特に一般的な博士課程の生活をしているとは思っていないけれども、個人的な記録を兼ねて。

コロナがあって外出する頻度が激減したので、ほとんど外には出ずに博士論文と格闘していて特に他のことをしない。娯楽と言えば動画漁りか、どうぶつの森でかぼちゃ農家。それも最近はあまりやる気がなく、大抵はゆっくりorボイスロイド解説の動画をBGMに画面あるいは紙の原稿とにらめっこすることになる。田舎に住んでいるので毎日4kmくらい走りに出るけどご飯をついつい食べすぎてしまうのでカロリー収支は黒字続き。

博士2年目も後半に入り、博士論文もだいぶ形になってきたので、来年の四月に予備論文を提出して、来年度末には学位がとれるかも、と考えているが、一寸先は闇。文系の研究者なんていう世間に嫌われた金にもならない仕事をするくらいならいっそ、と考えたりもする。

これでもまだ浪人も留年もしていないから人文系ではかなり恵まれた道を歩んでいる方で、周りをみると鬱を抱えている人間は一人二人ではないし、修士号をとれずに長期休学からの音信不通、なんてパターンも何人も見てきた。30を越えて子供がいる院生も複数いるし、奨学金を返すために研究よりアルバイトが本業になってしまった人もいた。

研究室内には指導教官ごとに院生の派閥があるらしい。数少ない仲良しの人を経由して色々とよくない話は聞く。私は人と話すのが苦手(お医者さん曰く社会不安障害というそうで)なので幸いなことに(?)ほとんど他人事なのだが、それは聞かせてくれなかった方が精神衛生上良かったというのが正直な感想である。

毎週院生が交代で学会発表のようなことをするゼミがあるのだが、質疑応答が一時間半近くに及ぶので死ぬほどきつい。他の院生が袋叩きにあってるのも聞いててつらい。わたしがコメントをしなければならないときはなるべく発表者を立てるようにしているが、なかには40年前の先行研究と同じ結論を出しちゃってるようなのがあって(要するに先行研究を調べきれていない)、指摘しながら心が痛かった。

博士論文も佳境に入ると、新しいことを書くよりも既に書いたことのチェックの方が多くなる。少なくともわたしはそうなのだが、それはつまり自分の書いたことを批判的に検討しなければならないということで、これがつらい。センター試験の答え合わせを毎日やらされている、というと言い過ぎになるが、そんな感じのプレッシャーとの戦いになる。

さらに、並行して先行研究の見落としがないかもチェックしなければならず、まだ読んでいない先行研究を見つけた日などは胃痛を堪えながら読まなければならない。既にある程度論文が出来上がってしまっていると、自分の出した成果がパアになる可能性がどうしても脳裏にちらつく。文系は古い研究が陳腐化しにくいので、19世紀まで遡る必要がある。研究史の紹介以外の箇所で1845年とかの研究を引いたこともある。

それでも研究自体は楽しいしやりがいがある。パズルのピースをはめるように、うまい説明を思いついた時は脳汁がドバーっと出る。ただ、20代も後半に差し掛かり、TwitterやLINEを見れば中高の同期は日々真面目に働いているようだ。大学院生をやっていると、自分はこんな歳になって何をやっているんだろうと冷静になることがある。

これは自惚れだが、高校の時にはそれなりによい成績を収めていたし、志望校にも現役合格して、留年も一度もしていない。普通に考えれば順風満帆な経歴以外の何物でもないのだが、何なんだろう、この落ちぶれてしまったような感覚は。

仮にちゃんと博士号が取れて、国立大の教授になるみたいな大成功を収められたとしても、その実態は会議と雑務ばかり。果ては会議のせいで研究時間が減っているという問題について議論するための会議なんていう本末転倒なことをやる始末である(これは本当に先生が言っていた)。そういう問題を差し引いても、文系は金にならないから潰そうという世間の風潮は嫌でも感じる羽目になる。理系の学問が世界を変えるためのものであるならば、文系の学問はどちらかというと世界によって自分が変えられないようにするためのものなので、どうしても不景気と相性が悪い。人間は飯さえ食えれば命を保てる。

最悪なのは、この問題、最早解決しようがないということだ。わたしだって国に予算が無いことくらい知っているし、人文系よりも理系に予算が回るのは仕方ないことだと思う。いつの時代も予算はまず生活をよくする技術や軍備のために使われる。古代ギリシアみたいなのは例外中の例外だ。だから、これは仕方ないことなんだ。

だからこそ言わなければならない。研究できるなら餓死してもいいというくらいの頭のネジがぶっ飛んだ人間でもない限り、大学院に進学するべきではない。文系の研究者なんて目指すもんじゃない。

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