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SAVE DATA epilogue〈創作大賞2023 イラストストーリー部門〉
2015年3月ーーー。
日本中が大雨に見舞われる中、私たちは卒業した。
私と倉石は、陸上部の壮行会の後、埃っぽい部室で片付けを済ませ、埃っぽいまま花束と卒業証書の筒を抱えて、帰路についた。
電車に揺られながら、私と倉石は何も見えない外の景色をぼうと眺めていた。
「いやー、涙出なかったな」
倉石は、はははと空笑いをした。
「ほんとね。私はてっきり倉石大号泣を期待してたのに」
「私だってそうだよ。私はもうちょい泣くかと思ったけど、一滴も出なかった」
倉石は、やれやれ、と肩を落とす。
「なんか思い返すと一瞬だったなぁ」
「そうねえ。ちなみに倉石的ベスト思い出は何よ?」
「ベスト思い出?」
倉石はうーん、と少し悩んで「全部」と言った。
「つまんな」
「はあ?いやいや、基本的に後悔もないし、全部楽しかったし」
これマジね、と倉石は言う。
受験全落ちしてるくせにそこはいいのかな、と私は思う。
「あーあ、でも終わったら何だかんだで寂しいなあ」
「JKブランドなくなるし、大人への第一歩って感じで重いよねえ」
「まあ、前に進むのはいんだけどさ」
やがて、電車は最寄り駅に着いた。
「・・・バスまだ来てないじゃん」
「あれー?遅れてんのかな」
倉石は駅からバスで帰る。大抵遅延がなければ、電車とバスの乗り継ぎはスムーズなのだが、今日は雨のせいもあってか遅れていた。
「明日崎、ファミレスでも行かね?って、いや、ごめん、来たわ、あそこ」
倉石は雨に打たれながらやってくるバスを見つけた。
「良かったね。でも雨だから人多いね」
「まあ、しゃーなし。立ちっぱなしでも平気」
バス停に向かいながら、倉石は「明日クラス会17時からだっけ?」と聞いてきた。
「うん、そうだね」
「じゃあ、明日16時に駅集合にしよ」
「うん、おっけー」
「遅れんなよ?明日崎は足が遅いからね」
「うるっさいわね」
ニヤニヤしながら、倉石はやってきたバスに乗り込んだ。
「じゃあね、明日崎。また明日」
「またね、バカ倉石」
・・・それが私と倉石の最後の会話だった。
青春の最後の1ページはあいにくの雨だったけど、倉石との日々はいつまでも私の中で輝いていた。
青春。
いつも夢中で走っていたあの頃が、私の何より大切な宝物だ。
ねえ、バカ倉石。
あんたもそうだと嬉しいな。
あいつの笑顔を思い浮かべて、私も笑った。
〈SAVE DATA 完〉
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