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【IT】インドから見たオフショア開発

私は2024年6月から、インドでITコンサルとして就業しています。

前職というはとまだ日本にいて、外資のITコンサルで技術者として働いており、オフショア開発をしている顧客先で、日本側の技術担当としていくつか案件を経験しました。

「オフショア開発」とは主にIT業界で使われる用語で、海外にいる人材や企業に開発を委託することを意味し、日本にある会社だと時差が小さく人件費の低いインドやベトナムなどに委託することが多いです。


前職の頃からこのオフショア開発における将来的な展望についてはいろいろと思いを馳せることもあり、この度インド現地のIT人材として働いてみて、少しだけ解像度が上がったように思うので、記事にまとめようと思います。


オフショア開発とは?

オフショア開発とは冒頭の通り、海外の人材や企業に開発を委託することです。

このオフショア開発はリモートワークを行いやすいIT業界で特に流行っている開発方法で、日本のみならずアメリカ等どこの先進国でも取り入れています。
システムの開発だけでなく、稼働中のシステム運用を委託することもあります。

では、具体的にどうやって開発や運用を委託するのかというと、自社がグローバル企業であれば海外法人のチームに任せたり、国内企業であればグローバルのITコンサルやベンダー(システムの販売・提供会社)に任せるケースが多いです。

オフショア開発のメリットと背景

なぜ近年オフショア開発が流行っているのかというと、委託側のメリットがあったり、10年前とは異なる外部環境の変化があったりします。

委託側のメリットとしては

  • 物価が相対的に低い国の人材へ委託すれば人件費が安い(最も大きなメリット)

  • 新しい特定のシステムを開発するには、特定のITスキルを持っていればよいので、人材採用が簡便(長期的で複雑な採用戦略に伴って採用者を選ぶ必要がない)

  • 時差を利用して、夜間のシステム状況の監視など自国の標準時では実施が難しい作業を任せることができる

そして、外部環境の変化として

  • コロナによりリモートワークへの抵抗感が薄れた

  • 日本の場合は、急速なIT需要に伴い、国内だけで人材を揃えることが難しい

  • オンプレからクラウドへ移行する企業が圧倒的に増え、勤務場所という制約が無くなった

といったようなことが挙げられます。

「オフショア開発」という用語

では、オフショア開発を委託される側からはどう映っているかというと、「グローバルでの開発拠点」といったような単語を使用されることが多いようです。

具体的には、日本でいう「オフショア開発」という用語自体が使われておらず、「GCC (Global Capability Center)」「GICs(Global In-house Centers)」「Global Technology Centers」という呼び名でオフショア開発能力を説明されることがあります。


この背景として考えられるのは、まず「オフショア(Offshore)」という単語そのものから起きる混乱を防ぐということ。

英語での「オフショア」とは「海外で」と直訳されます。
一方、インドなど開発を委託される国側からすると、開発自体は自国内で行なっているので、「オフショア開発(=海外で開発)」という単語はインド現地人の感覚と合わないということも考えられます。

普段の会話で「日本側からオフショア開発」などのフレーズで理解してもらえることは多いので、個人個人の知識としてはオフショアという単語は理解できるけれど、組織としては「グローバルの開発拠点」的なニュアンスで売っていこうという雰囲気を感じます。

「オフショア開発」のメリットと背景

先に述べた「オフショア開発のメリット」では委託する側視点でのメリットを挙げましたが、このパートではオフショア開発を委託される側のメリットと背景を考察していきます。

まずオフショア開発を委託される側のメリットとしては

  • 外貨を稼げる
    例えば日本からオフショア開発を請け負った場合、支払いは日本円でされます。
    インドは国内人口が多く、食糧や製造業など輸出の前に国内消費!といった風潮が強く、IT人材を通じて外貨を稼げることは国力の増強に大きく貢献していると考えられます。

  • 国内企業よりも案件単価が高い
    上述の外貨を稼げることにプラスして、物価の違いなどもあり、請け負える案件の単価が高いことが多いです。

  • 国内の労働機会を増やせる
    オフショア開発であれば外国人がインドへ来て労働をすることもなく、インドのIT人材の労働機会を増やすことに繋がります。

また、インド国内の背景としては、オフショア開発を委託する側の変化に併せて、

  • インドの総合ITコンサルやベンダーも日本など海外の市場へ進出・存在感が向上することに伴い、案件自体が増えた

  • オフショア開発請負をした人材が増え、請負前後でどうしたらよいのか枠組が整った

オフショア開発のこれから

以上、ここまではオフショア開発を依頼・請負する両国からみたこれまでの状況について外観をまとめてきました。

これらを踏まえ、「オフショア開発」というものが日本のIT業界においてどう変容していくのかみていきます。

まず、近年日本のGDP成長が止まっていることや日本円の下落に鑑み、現在オフショア開発を依頼している国々と請負国の物価や貨幣価値はどんどん狭まっていく可能性があります。

現在オフショア開発を依頼する側からした最大のメリットとして人件費の安さを挙げましたが、このメリットがなくなることを意味します。

しかし、将来的に人件費の差が小さくなった段階では既に「オフショア」の国々の拠点が無いとITシステムの開発も運用もままならない体制になっていることも想像に難くありません。
つまり、人件費の低さという金銭的なメリット以上に、ITシステムの運行のために「オフショア」の国々へ依存している状態が考えられるということです。


IT業界ではありませんが、公共政策などの部門では大国に多額の債務をしたことで破産するようなケースもたまに耳にしますが、現在オフショア開発がなくてはIT事業が何も始まらないような企業で、将来的に似たようなことが起こらないよう、国や企業のIT戦略が必要になるのかなと思っています。


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