記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【ネタバレ注意】Travis Scott “THE PLAN” 和訳─『TENET テネット』の真意とは

『TENET テネット』(以下TENET)のテーマソングとなっているTravis Scottの “THE PLAN” を興味本位で和訳してみたところ、TENETの真意に近づいてしまった……マジどうしよう……。

クリストファー・ノーラン監督のTENETが公開された2020/9/18から、熱い想いを胸に、TENETを4回観た(10/1現在)。
TENETについて理解を深めるためには、 “THE PLAN” は避けて通れないと思い、自力で訳すことにしたのだが……。
当方は英語の素人で、ド根性で解読しているようなもの。なのに意訳ばかりで本当申し訳ない……。
歌詞の自力翻訳は数年ぶり(前回は『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の名曲、Take Thatの “Love Love” 。ネット上のどこかにまだ漂っている)。

【以下、超ネタバレを含むのでご注意ください】
【以下、超ネタバレを含むのでご注意ください】
【大事なことなので2回言いました】

“THE PLAN” の元の歌詞は、歌詞サイトやApple Music、Googleどれもところどころ違っていて、どれが正しいのか調べるところから苦慮した……本当に。
ひとまず、下記をベースとすることにした。

==================

THE PLAN(英語)
Travis Scott

You don‘t know where we stand
It‘s true
Know the plan

Last time I wrecked it, last time I whipped around
Last time I did the whippets (Yeah), last time I live reverse (Yeah, yeah, ooh)
Pull up ’round, hit the reverend (Yeah), last time I hit your crib (Yeah)
Last time there was no tenants (Ooh, ooh)

I done went back in myself, felt like Hell
Fuck, I risked it, pace yourself (Yеah)
Found you livin‘, know you thrillin‘, not for sinnin‘ (Yeah)
How I got my stripes and pendants, backin‘ out in thе street (Yeah)
What is wild, let it be, ragers out, gotta eat (Yeah)

Not a vibe (Yeah), but a wave, with the sound by the way
Count it down, by the days (Ooh)
To myself, know they wicked, with the moves (Ooh, ooh)
I'm drinkin‘, off the juice, know I‘m drinkin‘
I be smooth, then I lose it, yeah, yeah now

You don‘t know where we stand (Yeah, yeah, yeah, yeah)
It‘s true (Yeah, yeah)
Know the plan

Close the opera
Hear the red and blue outside, I think our options up
I recrossed it ‘round the map, I had to line it up
I be swervin‘ on the waves, it‘s like a line of us (Yeah, yeah)

Move in ‘verse on my turf, I‘m outta line, I put in work
I draw the line and cross it first
I need the time, I need the search
It‘s just like wine, it make it worse
Skrrt, skrrt in the ‘Vert, skrrt, skrrt
Ride on land, Boeing jet, make it land

In slow motion when I dance
In your eyes I see your trance
I run away and then you prayin’ (Yeah)
If I show the hideaway would you hide out and let it blam? (Yeah, yeah)
Ain‘t no time, I‘m facin‘ scams, nah, nah (Yeah)

You don‘t know where we stand (Yeah, yeah, yeah, yeah)
It‘s true(Yeah, yeah, ooh-ooh, ooh)
Ooh

==================

上記にはダブルミーニングと思われる箇所が結構あった。
下記和訳の【 】は、直前の箇所のダブル・ミーニングと思った内容。
I が誰なのかは諸説あると思うが、今回は半分を主人公、半分をニールの一人称として分けてみた。
英文に含まれる (Yeah) (Ooh) などの合いの手は、今回省く。

==================

THE PLAN(和訳)
Travis Scott

(主人公 パート)
俺らがどこにいるのか君は知らない
それが真実さ
計画を聞くんだ

このまえ俺はそれを破壊し このまえ俺はくるりと振り向いて
このまえ俺はガスを吸い このまえ俺は不運に生きて【逆向きに生きて】
情報を引き出して【逆に進んで、懸垂して】 聖職者を殺し このまえ俺は君の家をみつけた
このまえそこに住人はいなかった

俺は自分自身に戻って まるで地獄みたいだと思った
Fuck 俺はリスクを負ってる 君のように気楽にやるんだ
生きている君を捜し出した 知ってるさ、君は興奮してる【勇敢だ】 罪のせいじゃなく
俺はどうやって昇進し仲間【ペンダント】を手に入れたんだろう ストリートで約束を破って
野生って何だ なすがままに 浮かれ騒いで 食べなければ

空気感ではなく 波だ 道端の音と共に
数を逆に数える 日ごとに
俺にとって 奴らが邪悪な手段をとってるとわかってほしい
俺は酒を飲んでる ジュースじゃない 酒を飲んでるんだ
酒が無くなったとき俺は饒舌になる そうさ そうさ今

(ニール パート)
僕らがどこにいるのか君は知らない
それが真実さ
計画を聞くんだ

オペラは終わりだ
赤と青の世界の話を聞いて 僕たちの選択肢は増えたと思う
僕は地図の周りで順行と逆行を再交差させたよ 僕はそれを準備しなけりゃいけなかった【出演者を確保しなけりゃいけなかった】
僕は波に乗って向きを変える 僕らの境界線【台詞】のように

僕の専門領域の逆向き【韻文、倒置】へ進む 僕は規則を破って【台詞から外れたことを言って、見当違いのことを言って】 危険な仕事をする
僕は許せず 一線を越える【台詞に横線を引く】
時間がほしいし 調査も必要だ
それはワインのように 事態を悪化させる
急げ 急げ 逆方向へ【同性愛者】 急げ 急げ
陸に降りろ ボーイングジェットが ぶつかるぞ

スローモーションで僕が躍動するとき
君の目には恍惚さが見える
僕は逃げ それから君が祈る
もし僕が隠れ家を教えたら 君は潜伏してそれを破壊するのか?
時間がない 僕はペテンにかけられてる いや そうじゃない

(主人公&ニール パート)
俺(僕)らがどこにいるのか君は知らない
それが真実さ

==================

Skrrt, skrrt in the ’Vert, skrrt, skrrt
上記の「in the ’Vert」の訳をどうしようか調べているときに、見つけてしまったのが下記ページ。

in vertだと、「(…を)逆にする、反対にする、転倒させる、(…を)転回させる、(…を)転化させる」の意。
invertになると……「逆転」「反転」などの他に、「転倒した物[人]」から転じた医学用語の「同性愛者」の意も出てくる……。ただし、現在ほとんど使用されていない用語のようだ。
間にtheがあるとはいえ、これは意図的では……?
英文学を学び、今回の脚本を書いたクリストファー・ノーラン監督が、それに気がつかないわけがない。
TENETは逆行という目立った仕掛けがあり、物理学の見地から考察している方が多いが、TENETのタイトルの基となった回文など、言葉遊びも劇中に多く含まれている。


ダブル・ミーニングの件には非常に驚いたが、ただ歌詞の和訳を行う前から、TENETには「抑圧からの解放」が裏テーマとしてあると感じていた。
具体的には、
①男女格差や性差別問題からの開放
②人種差別問題からの開放
③クィアに対する差別問題からの開放


一般的な概念に反論の声をあげた、とも受け取れるが、ハリウッドなど映画業界で問題となっていたこれらに、ノーラン監督は意を申し立てたかったのでは。

一番分かりやすいのは①。
エリザベス・デビッキ演じるキャットが夫セイターの所有物であるような扱われ方をされたり、DVを受けたりしている描写がある。
最終的に彼女は、自分を縛りつけていたセイターを殺して自立し、過去の自分が憧れていたような強さを得る。

次に②。
TENETの前半部分は、ジョン・デヴィッド・ワシントン演じる主人公の生い立ちなど、バックグラウンドがほとんど語られない。物語のラストでようやく、全体像が見えてくる。
『ゲット・アウト』との関連性を指摘する評もあったが、自分は主人公が観客に視点を乗っ取られるような、単なるガワだったとは思っていない。
主人公や、ロバート・パティンソン演じるニールには、中身がなかったわけではない。意図的にそれを観客に気づかせるために、途中までバックグラウンドを語らせなかっただけだ。
ラストへ進むにつれて、観客が自我を持った黒人の主人公の中から追い出されるような、そんな構造になっている(これは③にも関連してくる)。
主人公である名もなき男は、観客を自分の内側から押し出して、マジカル・ニグロ的な役割から脱却する。そしてもうひとりの主人公であるニールも、白人の救世主(white savior)的な役割から脱却する。
彼らは真の相棒となって、キャットとともに世界を救ったのだ。

③は、歌詞の和訳に至るまでは、裏付けが難しいと考えていた。
ニールは主人公のことを “friend” と呼んでいたし、TENETは「友情」とか「相棒」とか、そういう言葉に彩られている。
が、何度かTENETを摂取していると、少しずつ見えてくるものがあった。
例えば、スタルスク12での挟撃作戦前。トレーニングしているニールを名もなき男がじっと見ている。それに気づいたニールが名もなき男に目線を向けると、慌てて名もなき男が目をそらす。
普段、男女関係を描くときでもあまりセクシャルな描写を入れないノーラン監督にしては……結構踏み込んでるように感じた。単なる相棒とか友人というにはあまりに意識しすぎてる……恋する男の目線のようだった(そういう描写、他のノーラン作品であったかどうか確認したい……)。
その後にくるキャットとの別れの描写が、結構サバサバめだったので、余計に際立つのだ。あれほど主人公はストーリー前半で、キャットにアプローチしていたのに。別れのシーンはキャットからの軽いキスだけで、主人公からのアクションはない。
その代わり、逆行以降はニールの印象が大きく変わるシーンが増えていた。タリンで主人公は一時、ニールに裏切りの疑いをかける。しかし、逆行して向かったオスロで主人公は、ニールに命を助けられていたことを知る。

描写が控えめなので非常にわかりづらいが、逆行以降の主人公はニールに惹かれている。そういう脚本の作りになっているのだ。
以下のどちらかだと考えられるが……
■順行だけ知っていた時期の主人公の心はキャットに向いていて、逆行以降はニールに惹かれている。この場合、主人公はバイセクシュアルとなる。
■キャットが主人公に、私のことを利用していると指摘していた言葉から、主人公のセクシュアリティは元々ゲイで、それを隠してキャットに任務の一環として迫っていた。ただし優しい心の持ち主なので、キャットの命は本気で助けようとした。逆行以降、主人公のニールへの気持ちが変化していく。

後者と断定する。
この記事の最後にも少し書いたが、主人公周辺にはゲイ・カルチャー的なものがサラリと仕込まれている。

TENETが、007と真逆の演出がされていることも意図的だろう。
007の主人公は白人、酒を好み、女性好き。
しかしTENETの主人公は黒人、酒よりもダイエット・コークを好み、そして……

TENETは明らかにクィア映画の文脈を持っている。
主人公は劇中で初めてニールに出逢う。
未来から逆行してきたニールは、去り際まで真実をほとんど明かさない。
だから両者の間には、ベタベタに親密な空気は流れようもない。
しかしこれは、普段セクシャルな描写を劇中にあまり入れないノーラン監督なりの、クィア表現なのだろう。

ただし、劇中の逆行している人々が皆クィアだというわけではない。
任務中、自分を押し殺していた主人公。
しかし逆行が普通になった世界で、主人公の世界の捉え方が変化し、その結果自己と向き合うこととなる──。
逆行は、ノーラン監督にとってはTENETのビジュアル的な面を支える屋台骨であり、かつ主人公の内面を効果的に演出するための手段だったのだ。
公開前から話題になっていた通り、TENETは ”SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS” というラテン語の回文からとられている。
逆から読んでも同じ。それは何を意味するか。
invertという言葉には、性対象倒錯者という意味もある。だがクィアは決して倒錯しているわけではない。
もし逆から読めたとしても。ヘテロもクィアも、そして全ての性別の人々も、全ての人種の人々も。
みんな同じ人間だ。


さて、TENETが第三次世界大戦の勃発を阻止する──というストーリーだったことを思い出してほしい。
第二次世界大戦を招いたナチスがどのような無情な行いをしたか、皆さん御存じだろう。
差別が戦争の一因になることだってあるのだ。
この世界から差別がなくなり、より良い世界となることを祈る。

==================

いい話で締めくくったのに、完全に余談だが……。
タリンで何故あえて消防車が使われたのか、ずっと疑問に思っていた。
しかも主人公自身が消防車の使用を推し、任務中はサラッと消防服を着て、わざわざハシゴを使ってターゲットの車に侵入する。
メイキングを読むと、ノーラン監督自身も消防車にこだわりがあったようで、本来であればヨーロッパにないはずのハシゴつき消防車を作ってしまうほど……。

しかし、TENETをクィア映画として観ると……あれはノーラン監督なりのサービスショットだった可能性も……?
消防士はゲイに人気が高い。『チャックとラリー おかしな偽装結婚!?』(07)では消防士の親友二人が諸事情により、ゲイカップルと偽って結婚したりする(そして周りの人々のほとんどは彼らがゲイだと信じる)。

もしサービスショットだったとしたら、なんだかものすごく納得できてしまうのだが、真意はノーラン監督の頭の中にしかないだろう。
ノーラン監督の頭の中を覗けたら、どんなに最高か……。


追記
スクリプトみたらエントロピーは減少してるんじゃなくてinvertしてた…! WOW!!

https://scrapsfromtheloft.com/2020/09/05/tenet-transcript/

追記の追記
まさかの続編を書きました。
【ネタバレ注意】『オルフェ』から『TENET テネット』へ─価値観のアップデート
https://note.com/include_all_8/n/n1a7c56d26899

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?