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インバウンド観光は打つ手なし!? 星野リゾートの生き残り戦略

本記事は、2020年7月23日に開催された「日本インバウンドサミット2020」での星野リゾート代表 星野佳路氏による基調講演のレポートです。

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会社や世の中に対してメッセージをする

会社紹介を端折って本題に早く入っていきたいと思います。

ただ、インバウンドの話をするのがとても大変で、とりあえず何をしているかというところからヒントを得ていただきたいと思います。会社の紹介は端折るけど、自分の紹介は端折らないということで、スキーを仕事以上に一生懸命やっている、と。年間60日必ず滑っていて、世界中あちこち行くんですが、昨年青木さんと一緒にアルゼンチンのパタゴニアまで一緒に行きました。7月8月は毎年南半球に行っているんですが、インバウンドが来ない以上にショックなのは、やはりこの夏に南半球に行けないことで、本当に旅っていうのは自分の生活の中で重要な位置づけにあったということを実感しています。

会社紹介で、同族会社なんですけれども、私は四代目の旅館からスタートしました。1991年に軽井沢で継ぎまして、運営特化戦略というのを取ったことが成長につながったんですね。詳しい話は端折って、現在は45軒を国内外に運営している、ということで自己紹介を終えたいと思っています。

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早速本題なんですが、3月の末に、コロナウイルスの問題が深刻になりつつあったときに、これはただごとではないということで、北海道で滑っていたところ、東京に戻ってちゃんと仕事をしようというふうになったわけです。そのときに、やはり会社の中ってパニックに一回なるんですね。予約が入ってこない、キャンセルが相次ぐ、ということで、落ち着くためにも、18ヶ月の問題として捉えようという話をしました。当たっているかどうかわからないけれども、適当に需要予測をすることがこういう時は大事なんですよね。需要は今は下がっていっても、18ヶ月の間に何度か戻ってくる波があるんじゃないか、なんでそういうことが起こるんだということを、勝手に、自分が100%自信があったわけじゃないんですけれども、こうなるんだということを、こうなる中で、生き残っていく策を考えようということをメッセージとして出したんですね。

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その直後に、私たちの経営方針のプライオリティの順序を変える必要があるので、現金は決して離すな、人材は必ず維持する、今まで大事にしてきたことの一部を犠牲にするぞという覚悟を社内で発表しています。と同時に、こういうときにはとにかく不安になり、作戦がわからないとそれぞれやることがわからないので、「yoshiharutimes」という社内専用ブログの発進頻度を極端に高めまして、毎週のように、私たちがどうやって生き残っていくのかということを出していきました。

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最初のうちに人気があったのですが、だんだんアクセス数が下がっていたところ、刺激的なところに踏み込んだのが、私が数理モデルを作ってですね、売上の維持率、コストの削減度合い、外部からの資金調達という3つで、シナリオを3パターンずつ作って、29通りから倒産確率を真面目に計算したものを社内に公開したところ、一番ヒットして、社員のアクセス数が激増し、投稿に関する称賛をいただいた、という面白い会社なんです。これを毎月更新していって、ゲーム感覚で楽しみながら乗り越えようぜ!ということで、生存確率、倒産確率を毎月やっていってます。海面すれすれで浮上してくる絵にしようかな、なんて勝手に計算しているのですが、どうなるか楽しみです。


インバウンドは打つ手なし?

今日の話題のインバウンドについて、散々考えたんですが、いい案がないので、「打つ手なし」と。99.9%減ってしまい、かつ飛行機が飛んできていないときに手の打ちようがないし、労力を使うだけ無駄なので、ここでいいお話はできないんですけど、あえていうならば、インバウンドは伸び率が急すぎたと思っているんです。こうなったから言うわけではなくて、前から言っているんです。いずれ戻ってくることは間違いないわけですから、この機会に、私が問題だと思っていた、4つの点ですね。

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実はインバウンド格差が、東京、京都、大阪にはインバウンドたくさんいたかもしれませんが、青森県津軽にはほとんど来てなかったわけですね。TOP5都道府県でなんと50%以上のインバウンドを集めてしまっていて、他の地域との格差が非常に大きかったということを解決しないと、6,000万という数字も達成できないと思っています。

ターゲット国を、グラフで数字を伸ばすということだけを目標にすると、ターゲット国が集中しやすいんですね。伸ばしやすい国にターゲットしてしまって、そこにインバウンド予算が全部いってしまうという自治体さんも多いんですけど、やはり世界に分散して集客できるマーケティング体制をくむことが大事だと思っていまして、そうするとちゃんとリスクを分散することができます。コロナの時期は当てはまらないかもしれませんが、その他のいろいろな今後来る危機というのはもしかすると、ターゲット国の分散によって回避できる可能性があると思っています。

そして、日本は文化観光が強いのに、自然観光が弱いというところをこの機会になんとか修正して、インバウンドが戻ってくるときに、今までこの15年20年でわかっている弱点を克服しておくということが今できることなんじゃないかなと思っています。

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このコロナ期にどうやって生き延びるかということを残りの時間お話ししたいと思います。3密回避は、新しい選択の基準になったと4月の1週目に思いまして、とにかく3密回避に全施設、トップダウン、現地からの発想を含めて、改善していこうということで、矢継ぎ早にいろいろな対策を行いました。ビュッフェは止めたんですが、止めたことに対する顧客からの反発がすごくて、止めるのではなく、安全なブッフェにしろというメッセージだったので、1ヶ月かけて新ノーマルブッフェというのを導入して、非常にウケがよかったです。それ以外にもさまざまいろいろな取り組みをしてきまして、余った地域の食材を使ってなんとか販売できないか、牛いっぱいいますけど、「ミルクジャム」とかやってかなりマスコミにも取り上げてもらったんですが、実はこれ2頭分にしかなっていなくて、まだまだ牛乳は余っていたということもあります。

また、デジタルの技術を使って、「見える化」をするという、顧客が自分で情報を得て、蜜を避けていただくということをやっています。これは都市ホテルのビジネスモデルを変えようというパターンだったのですが、このパターンは成果がでにくいです。やはり今までのモデルの延長線上にある方が集客は戻しやすいということがわかってきています。


マイクロツーリズムの可能性

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この期間、私がすごく力を入れてきたのは、「マイクロツーリズム」です。

近場の人をターゲットにしようという軽い話にしたくなくて、この表現を使っているんですが、「商圏」として捉えることはすごく大事なんです。なぜかというと、実は、県内のお客さんをターゲットにしようという地方の自治体さん多いんですが、商圏は県をまたいで存在しているんですよね。軽井沢にいると、伊那から来る人はいないんですけど、高崎から来る人はたくさんいるわけです。盛岡から青森にもいってもらいたいし、米子から玉造温泉にも言ってもらいたいわけです。

実は県境の移動を日本全国一律で帰省するということは、あまり感染抑制にもならないし。経済のダメージはより大きくなるんですよね。ですので、第2波、第3波のときに備えるためにも、マイクロツーリズム商圏という概念を各地域で持ってもらうことによって、緊急事態宣言が万一出たとしても、9割減ではなく、5−6割にすることで、だいぶ生存確率は変わってくるわけです。

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この市場、昔からあったんです。私はこの6月、かなり日本全国で、マイクロツーリズム市場をターゲットのプランを出したり、価格もいじりましたけれども、青森屋の実績(上記グラフ:編集追記)ですけど、青森、秋田、岩手といった比率ががががっと上がっているのがご覧いただけると思います。7月8月この業績は悪くないですし、6月の取り組みがベースになっていると思います。

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withコロナの時の売上確保イメージなんですが、マイクロツーリズム市場というのは、これよりもはるかに小さくなっていたんです、60年、70年代は、これがもっともっと大きかったんです。軽井沢にいると、東京からくるのは7月8月だけで、あとは全部マイクロツーリズム市場なんです。ところが、遠くから人が来れるようになって、新幹線、高速道路が充実し、LCCが世界から飛んでくるようになって、結果的に上の方(インバウンド:編集追記)はどんどん分厚くなり、おそらく今はマイクロツーリズム市場はもっと小さくなっています。

マイクロツーリズム市場の人たちも、遠くに行きたいという傾向がありましたから、安くもなりましたし、遠い旅行というものがシェアを高めていたんですね。なんとか、この期間、このマーケットを掘り起こして、分厚くしておくことはできないだろうか、そうすることによって、感染が増えたり減ったりすることによる需要の増減に耐えうる仕組みになりうると思っています。最悪の場合、東京や大阪で緊急事態宣言が出て、STAY HOMEというときにも、実は地方の観光地においてはある程度の売上、9割減ではなくて4割減くらいで止めることはできる可能性があると思っていて、すごく大事な概念だと思っています。


30-40%減くらいで済む可能性を模索すべき

最後にこれだけ。予約のデータなんです。3月1日から7月22日までの28施設、北海道と東京を除いてですね、28施設の予約のデータを、社外秘なんですがね、皆さんにお願いしたいんですが、星野リゾートの社員がいたときに、私がこれを見せたということだけは言わないでいただきたい(笑)

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面白いことに、わたし、これ毎日見てたんですけどね、何が起こったかというと、純増減は、なんと、小池都知事の会見の時に下がり始めたということがわかります。底を付けたのは、7都道府県が緊急事態宣言になったときで、それ以降は上がってきていたということがわかります。下がった理由は、予約が減ったということよりも、キャンセルの爆発によって落ちた。ということなんです。意外にそれなりの予約が入り続けてたということがわかります。予約が入るということは先々の予約ですから、7月、8月・・・の予約が入ってたということなんですね。

次のポイントは、緊急事態宣言の延長が決まった瞬間に、入ってくる予約数が上がり始めました。なんでかっていうと、やはり2度目の延長はないと市場が感じたんですよね。なので、もう一度延長はないと読んで、夏の予約を入れてきたというのがポイントです。そして、東京が200人を超えてきたあたりからキャンセルが上がり始めた、ということです。消費者は意外に発表の内容で右往左往しているのではなく、その背景を自分なりに正しく判断しているということなんです。感染者の数字を見て、政治家の発言を聞き、結構正しい予測をして、先々の予約を入れてきている状態です。

3月4月の時とはだいぶ違っていまして、300人超えをしたなんていう話もありますが、それなりのキャンセルはありますが、大きく7月8月が下落するということはないんではないかと思います。逆にそこそこ良くなってきていると思っています。ふたたびGOTOの話が出てくるんですが、聞かれたときは、本当は夏の繁忙期が終わった後からスタートするのがよかったと思っていますし、いったん始めたら、どこかの地域とか、誰かを排除するということなく、淡々とやっていける仕組みにしなければいけないと思っています。

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もう一つ、今年中に戻ってくるかどうか、ということを6月1週目に2万人をかけて調査をしました。その時に31%が「迷っている」と回答しており、この人たちが一番重要で、迷っている理由は、感染が怖いという以上に、行っていいのかわからない4月5月は、もう今は来ないでくださいというメッセージが日本中から出ていたのに、さあ今は行って良くなりましたというメッセージが誰も地方から出てこないじゃないかということを気にしている、むしろセンシティブな常識的な方々が、迷ってらっしゃって、予約の電話のその電話が非常に多くなっています。

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長いコロナ期に、私たち旅館やリゾートがどうサスティナブルにできるかということについて、3つの対策を社内で出しています。

3蜜回避の業界をリードしていく、売上はマイナス40%以内、コスト削減15%、GOPという運営からくる利益は、私たちは25-35%くらいです。25%として、コスト削減の15%を足すと売上のマイナス40%はカバーできる。これでトントンになります。いま、投資家に十分なリターンを返すことは期待されていないので、トントンにして、生き延びる、これがすごく大事なんだろうと思います。そのためには、マイクロツーリズム、需要の平準化、これがなんとしても大事な要素で、本体政府のサポートなるものは、こういう民間の施設が生き残るためにやらなければいけないことを前提に、どう「サポート」できるかということを考えるべきで、私の案は、このようにサポートしていくのがいいんじゃないんじゃないかなあと思っています。

GO TOも修正することによって、これは今からでもできますし、雇用調整助成金はかなり効いています。固定費だった人件費を変動費化することができるので、ブレイクイーブンポイントはかなり落ちています。まだできていないのは、第2波の緊急事態宣言時の県を跨ぐ移動の規制を日本全国一律でやるのではなくて、もう少しきめ細かくやっていただくことによって、マイクロツーリズム商圏が生きてきますので、売上が90%減ではなくて30-40%減くらいで済む可能性を模索すべきだと思います。

執筆:株式会社ワールドプレミア 岡部大樹
編集:旅LABO本郷 柳澤美樹子

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